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氾濫するSDGs SDGs債とは何か

 

 ブルームバーグが1月17日、『グリーンボンドやソーシャルボンドといった「国連の持続可能な開発目標(SDGs)」関連債が17日、総額1800億円公募されて日本での1日の最高額を更新した』と報じた。 

www.bloomberg.co.jp

 

 「SDGs債って何?」「実際の起債は誰が?」「SDGsとの関連性は?」ということに疑問を感じて調べてみた。

 

 

 

 

SDGs債とは

 日本証券業協会によれば、『SDGsという呼称は、主に国内市場で用いられており、海外市場についてはその限りではありません』という。

 グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンドなどを含むいわゆる「SDGs」が近年注目を集めています。
 調達資金がSDGsに貢献する事業に充当される「SDGs債」には、SDGsの中でも環境・社会へのポジティブなインパクトを有し、一般的にスタンダードとして認められている原則(例えば、国際資本市場協会(ICMA)によるグリーンボンド原則、ソーシャルボンド原則、サステナビリティボンド・ガイドラインなどを指します。)*1に沿った債券や、事業全体がSDGsに貢献すると考えられる機関*2が発行し、インパクト(改善効果)に関する情報開示が適切になされている債券が含まれます

*1 ICMAによる原則のほか、国や地域、国際機関等において策定された原則もあります。日本においては、環境省により「環境省グリーンボンドガイドライン」が公表されました(2017年)。一般的に、これらの原則に従い発行された債券には、準拠する原則に応じグリーンボンド、ソーシャルボンド、又は、サステナビリティボンド等の呼称が付されています。
*2 事業自体がSDGsに貢献すると考えられる機関としては、主に国際機関が考えられ、例えば、アジア開発銀行国際復興開発銀行世界銀行)、欧州復興開発銀行米州開発銀行、国際金融公社、アフリカ開発銀行、欧州投資銀行、北欧投資銀行などがあります。(出所:日本証券業協会

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(資料出所:日本証券業協会 「SDGs債の発行状況」

 

SDGs債 1800億円の起債は誰が

 ブルームバーグが報じた1800億円のうち1500億円をみずほ証券が引受主幹事となっている。起債は、東日本高速道路㈱ ソーシャルボンド 1,100億円、 独立行政法人日本学生支援機構 ソーシャルボンド 300億円、東急不動産ホールディングス グリーンボンド 100億円となっている。

 

 

実際の起債の中身は ~SDGsにどれだけ貢献するのか

 発行されるSDGs債が実際にどれだけSDGsに貢献しそうなのかはやはり気になる。

 

日本学生支援機構 ソーシャルボンド 300億円

日本学生支援機構は「教育の機会均等」の理念の下、奨学金事業を実施している。みずほ証券によれば、本ソーシャルボンドにより調達された資金は、第二種奨学金の在学中資金として充当されるといい、奨学金事業は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のうち、目標 4すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」の達成に貢献するとしている。この債券は、国際資本市場協会(ICMA)が定義する「ソーシャルボンド」の特性に従った債券であるとと説明する。

(参考:独立行政法人日本学生支援機構が発行するソーシャルボンドの引受けについてみずほ証券

 

東日本高速道路㈱ ソーシャルボンド 1,100億円

 NEXCO東日本は1100億円と高額の起債を行った。みずほ証券によれば、この債券は、㈱格付投資情報センターからソーシャル・ファイナンス に関する第三者評価(R&I ソーシャルボンドオピニオン)を取得しているといい、「地域活性化」「災害対策」「交通安全の推進」「環境保全」などの社会貢献活動に積極的に取り組んでおり、ソーシャルボンドで調達する資金は、「高速道路の新設・改築」などのプロジェクトに充当されるという。

(参考:東日本高速道路株式会社が発行するソーシャルボンドの引受けについてみずほ証券

 高速道路事業は、持続可能な開発目標(SDGs)の「目標8:働きがいも経済成長も」、「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「目標11:住み続けられるまちづくりを」等の達成にも貢献する事業だと、三菱UFJ銀行も説明する。

 

NEXCO東日本グループのSDGsへの貢献と取組み

NEXCO東日本グループは、国際社会共通の目標であるSDGsと当社の事業とを照合して、事業を通じて貢献できる目標を抽出しました。
当社グループは全事業を通じてSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」目標8「働きがいも経済成長も」目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」目標11「住み続けられるまちづくりを」に貢献していきます。(出所:NEXCO東日本

 どうも機関投資側の説明が起債側の説明そのままに思われてならない。起債した企業がSDGsに貢献と謳い、第三者評価を受けていれば、SDGs債ということに疑問が生じる。

 

 

ソーシャルボンドとは

 R&I(格付投資情報センター)がESG関連ファイナンスに対するセカンドオピニオンについて公表している。

 R&Iによれば、セカンドオピニオンは、対象となるファイナンスが関連する各種原則等に適合しているか否かについての第三者評価になるといい、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則、ソーシャルボンド原則、サステナビリティボンドガイドラインのほか、環境省グリーンボンドガイドラインやサステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)のポジティブ・インパクト金融原則などにも対応しているという。具体的な評価の考え方についてもこう公表している。(参考:R&I ESG関連サービスのご案内

 

R&I ソーシャルボンドオピニオン 評価⽅法

 R&Iは、ソーシャルボンド原則(SBP)を構成する 4 つの核となる要素――(1)調達資金の使途、(2)プロジェクトの評価と選定のプロセス、(3)調達資金の管理、(4)レポーティング――について、SBP との適合性を評価するという。 

「対象事業の直接的な目的が社会的課題への対応であること」
 対象事業の目的を発行体の開示情報から特定し、直接的な目的が社会的課題への対応であることを確認する。社会的課題の認識は社会の範囲をどのように捉えるかによって異なる。例えば、地球規模の範囲では、国連等が取りまとめる国際的合意に課題の認識を見ることができる。国家であれば、民意を反映した立法や行政運営などの制度の中に課題認識がある地方自治に関しても同様である。このような考え方に基づき、対象事業の影響が及ぶ範囲などを考慮して、対象事業が直接的な目的とする社会的課題を確認する。

 

 R&Iの説明に従えば、国が推進する事業であればソーシャルボンドとみなすということであろうか。例えば、石炭火力などはどうなるのであろうか。国連と相反する事象もあろうかと疑問も生じる。日本証券業協会が公表しているデータ(発行リスト(2016年起債分以降)にはそうした案件は確認できないようだが(件名だけでの確認)。

 

 

 

 東京都が発行する「東京グリーンボンド」

 昨年10月に東京都が「東京グリーンボンド」を発行した。東京都は、「グリーンボンドの発行方針」を公表、その意義を明らかにし、充当予定事業を公表している。また、事務主幹事を務める野村証券は、この案件を「都の発行方針」を流用し、以下のように説明する。

本件グリーンボンドの発行による調達資金は、気候変動への適応、スマートエネルギー都市づくり、生活環境の向上に関連した事業等に充当される予定です。東京都はグリーンボンドの発行意義として、スマートシティの実現を目指し、従前からの施策に加えて、新たな環境施策を強力に推進すること、グリーンボンド市場の活性化と他発行体の参入促進につなげ、国内の貴重な資金が国内の環境対策に活用される流れを創出すること、そして機関投資家に対して、社会的責任を果たすための投資機会を提供することを掲げています(出所:野村證券 プレスリリース

www.nikkei.com

 こうした案件であれば、SDGsへの貢献もあろうとの期待もできる。

 

まとめ

 「SDGs債」とは、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンド等を総称した日本独自の呼称である。第三者機関によって、それぞれは国際的な原則により評価はされるが、直接的にSDGsとの関連性が評価されることはないようだ。 

 機関投資家は行動原則「スチュワードシップ・コード」に沿った行動が求められる。しかし、その日本版「スチュワードシップ・コード」でのESG関連については、英国などに比べて遅れていると言われ、急ぎ見直しが始まっているという。 

 昨年9月に国連「責任銀行原則」(PRB)が発足し、日本のメガバンクグループも署名する。この原則は下記の6項目で構成されるという。

SDGsとパリ協定が示すニーズや目標と経営戦略の整合性を取る
②事業が引き起こす悪影響を軽減し、好影響は継続的に拡大させる
③顧客に対し世代を超えて繁栄を共有できるような経済活動を働きかける
④利害関係者に助言を求め連携する
⑤影響力が大きい領域で目標を立てて開示、実践する
⑥定期的に実践を検証、社会全体の目標への貢献について説明する

(出所:オルタナ

 野村グループは、SDGs債の引受けを通じて、気候変動対策や社会課題を解決するための資金需要と、投資を通じて社会に貢献したいという投資家の想いとの橋渡し役を担うという。「SDGsの達成に向けた取り組みを推進し、日本のSDGs債市場の発展をサポートしながら経済成長と社会の持続的な発展に貢献していきます」と説明する。

 

 機関投資家の質が問われているということであろうか。

 

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「関連文書」

www.sankeibiz.jp

 

「参考文書」

www.alterna.co.jp

www.jri.co.jp

sustainablejapan.jp

サステナブル・ファイナンスに関する取り組み | みずほ証券

SDGs に金融はどう向き合うか(全国銀行協会)