衣料品の大量廃棄の報道があって以来、不健全なアパレル業界とのイメージがまとわりつく。
その一方で、ユニクロのサスティナビリティについてのニュースばかりがを目につくようになった。
ユニクロ柳井さんの著作は何冊か読んだことがあるが、それ以外のアパレルのことはあまりわからない。この業界について勉強ついでに色々調べてみた。
大量廃棄問題を考えると、経験からして、どうしても、業界の商慣行やサプライチェーンのことが気になる。
アパレルはどれくらい売っているのか (市場規模)
2016年当時で10兆円程度。この25年あまり、市場規模は縮小しているが、流通する知商品点数は増加している。
購入単価は下落を続けている。
ユニクロのように成長する企業があれば、当然ながら誰か別のメーカが売上を落とすということが容易に想像できる。それも利益を確保できているなら、川上側にしわ寄せがいくことも想像できる。
(資料出所:経済産業省「繊維産業の課題と経済産業省の取組」)
アパレルの商習慣
アパレルは古い商慣行を残す業界のようだ。
経済産業省も、繊維業界における「歩引き」、「長期手形」、「未引取」、「受領拒否」、「返品」、「契約書の不作成」、過剰供給と値引き販売等の問題があることを指摘、取引の適正化と付加価値の向上に向けた取組みを着実に進めていく必要があると指導は行っているようだ。
これを受けて業界団体(日本繊維産業連盟と繊維産業流通構造協議会)は、平成29年3月、自主行動計画を策定したという。
<繊維産業における自主行動計画の主なポイント>
1.合理的な価格決定・コスト負担の適正化のための取組
- 契約書の書面化の徹底
- 歩引き取引の廃止
- 取引対価の決定、在庫保管等のコスト負担に係る協議の実施
2.支払条件の改善のための取組み
- できる限り現金払い
- 手形の割引料等の負担を勘案した協議
- 手形サイトの短縮化(通達は90日以内。将来的は60日を目標)
3.生産性向上のための取組み
- 生産性向上に係る課題解決に向けた取引企業間コミュニケーション
- 適正な原価率及び利益を確保した上での、正価の信頼性維持・向上
その古めかしい体質に驚く。根の深さも感じてしまう。
自分がいた電機会社もかつては同じような問題を抱えていた。たまたま優良な顧客を獲得、そのメーカとコラボすることで、サプライチェーンは刷新された。そうしたことは稀なことかもしれない。自主的に変革していくことは至難の業かもしれないと感じてしまう。
ユニクロの強さ
ユニクロは、他のアパレルメーカと異なり、自社工場を持たない。
「アパレル興亡」の著者黒木亮氏は、『消費者の目には見えにくいが、ユニクロの躍進を支えてきたのが総合商社だ』という。
ユニクロは、多くの委託工場への原材料供給、生産委託、日本への輸出などを、三菱商事、丸紅、双日といった総合商社に任せている。商社の生産受託機能、金融機能、国際物流機能等を使うためだ。
商社は、工場に原材料を供給し、支払いを90日後に設定したりして、工場の資金繰りも手助けしている。また優良な工場の発掘、現地の政治経済情報の提供なども商社の仕事である。商社の主な儲けは、ユニクロと工場の間に入って生産を委託される際の加工賃と日本への輸出取り扱いの口銭である。
最近は、世界的にサステイナビリティが重視され、ユニクロさんの抜き打ち検査も入るので、「児童労働」、「労働環境」、「環境汚染」なんかに関して、事前に自分たちで各工場を見回る。
(出所:プレジデントオンライン)
黒木氏は、アパレル大手のレナウン、三陽商会を事例にして、アパレル・メーカーの凋落を
「常に変化することを刷り込まれたDNAを持たない会社の悲劇という部分もあるが、努力を怠った面があることは否定できないだろう」
と指摘する。
アパレルは計画生産できるのだろうか
事業再生コンサルタント河合拓氏は、アパレルにおける計画生産の必要を説き、Product Lifecycle Management (PLM)パッケージを導入すべきと主張する。その一方で、こうしたツールを使いたがらない現場があると指摘する。
PLMパッケージとは、「商品がこの世に生まれてから成長するまでの生涯管理」のこと。
具体的に言えば、商品企画(マーチャンダイジング)、MRP (衣料品の付属、生地などを用尺※、個数、サプライヤーなどに分類する業務)、発注から生産管理(生産工程を見える化し、納期遅れなどを撲滅し対策を立てる情報を得る業務)、調達(貿易実務の管理)、そして商品ごとの物性特性や品質基準値などをデータとして保有し、さらに異なるバラバラの発注をまとめてスケールメリットを出したり、月ごとの出荷状況や商品単品のBtoB売上と利益管理まで自動化できるという。まさに商社業務そのものを自動化するソフトウエアなのである
(出所;ダイアモンドチェーンストアオンライン)
電機メーカでサプライチェーンの刷新に取り組んだとき、商社機能を活用した。彼らの持つ生きた情報が役立ったし、その購買力と在庫機能を活用しない手はなかった。中国で全く新しくサプライチェーンを構築するときに役立った。「0」から作るのではなく、踏み台を使ってサプライチェーンを作ることができた。
商社を使うと、その口銭(コミッション)が気にはなる。商社との協働のあり方と情報共有を考えれば、買い入れ価格を交渉する余地もあったし、廃棄するような資材がなくなったメリットは大きかった。
なくならないのか大量廃棄、遠いサスティナブルなアパレル
黒木氏や河合氏の主張と経産省との見解が符合するように見えてくる。
勝ち組ユニクロは商社機能を活用し、サプライチェーンを管理することで無駄を省き、児童労働、労働環境、環境汚染などもきちんと管理する。それができないメーカは取り残される。そもそも、「サスティナビリティ」ということは、サプライチェーンを持続可能なものとして管理していく、そのもので他ならない。
一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会も、サプライチェーン管理(SCM)やコラボレーション取引の推進をこの業界の構造改革として位置付ける。そのためのツール開発や啓蒙活動を行っているようだが、どこまで浸透しているのであろうか。
電機メーカを卒業した後、衣料品ではないがある商品を販売するため、銀座の老舗百貨店や有名セレクトショップ、EC物販サイトと取引を始めた。それぞれで、取引形態は異なっていた。その商品は短命のうちに終わり、新たなアイデアでシステムを作ることには至らなかったが、それでも、サプライチェーンの適正化とロス削減には気を使い、何か新しいモデルを作ろうと考えていた。
アパレル系に挑戦し始めるスタートアップたちが増えているようだ。それぞれが、アパレルが抱える問題の解消にチャレンジしているように見える。
陳腐化なものにならないよう、アパレルメーカも異業種の知恵を取り入れるなど、変革が求められているのかもしれない。
ファッションはなくてはならないものだ。消費者が求めるサスティナビリティや健全さを追い求めて欲しいし、サスティナビリティをマーケティングで終わらせて欲しくない。
「関連文書」
「参考文書」