新型コロナウィルスによるサプライチェーンへの影響が心配される。世界の工場と化した中国での混乱は世界経済に影響してもおかしくない。アイフォンの生産を中国に頼るアップルは1~3月期に業績を悪化させた。
アップルのCEOのティムクック氏が米FOX Businessとのインタビューで、アップルの中国生産の状況を説明した。
「中国での部品生産が再開され、正常生産に戻りつつあり、その第3段階にある」
クック氏は、また、中国での新型コロナウィルスの発生状況を「under control」と表現した。
クック氏の発言は、下落を続ける株価を意識してのことかもしれないが、中国での生産の現実を伝える貴重な話ではないであろうか。
アイフォンを生産するFoxnonn(鴻海精密傘下)は、従業員向けにマスクを200万枚/日、自社生産するようになった。
品薄感という誤解からなのか、一部商品で買い占め騒動が起きているようである。
政府を始め、業界団体、メーカが供給に問題にないと、報道各社が一斉に伝える。
経産省も専用ページで冷静な対応のお願いを出している。
マスクの状況
経産省からは以下情報が発信されている。
先週から、数社で、中国等から1千万枚レベルで輸入を再開しています。4月1日以降、さらに、週に2千万枚レベルの輸入増を目指しています。
さらに、東証一部上場のアパレル縫製企業がミャンマーの工場において、ガーゼマスクの生産を開始しました。来週にはガーゼマスク4000枚の輸入を開始します。3月9日の週には10万枚、3月中には、100万枚の輸入を目指します。その後は需要に合わせて、400万枚まで拡大していきます(需要があれば、生産のキャパは、月に1億枚分あります)。
マスクの供給量は、マスク加工メーカでの設備生産能力で決まる。マスク流通量の2割は国内生産で(2018年)、8割を輸入に頼り中国製が多いという。
経産省は、国内生産の生産能力を向上させるため、4.5億円の補助事業を始め、ここまでに3社を採択した(興和株式会社、株式会社XINS、ハタ工業株式会社)
(資料出所:経済産業省「マスク⽣産設備導⼊補助事業」)
鴻海傘下のシャープもマスク生産を始めるようだ。
『生産開始は3月半ばからで、当初の生産数は1日あたり15万枚程度を予定。コロナウイルス問題の状況をみつつ、ゆくゆくは日産50万枚まで生産量を増やす計画です』とEngadget Japanが伝える。
マスクの素材、不織布のサプライチェーン
マスクの素材は不織布。不織布を生産するのは、東洋紡、東レなどの繊維メーカ。その不織布は、いわばプラスチックスで、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などオレフィン系樹脂からできた化学繊維が原料。元を辿れば、レジ袋や消費財の容器などに使われたり、衣料品に使われる原料。
石油化学工業協会の統計資料によれば、国内需給は安定しており、樹脂ベースでは在庫も確保されているようだ。
不織布の生産実績は経産省によれば、2018年で34万トン、このうち生活関連や衛生向けが18万トンあった。
紙おむつ需要、フェイスマスク需要の伸びが顕著で、繊維需要が減少する中、繊維メーカは不織布事業に力を入れていると化繊協会は発表している。
化繊協会は、中国の不織布事情も公表している。
2018年の世界の不織布生産量は1,565万㌧と推定されるが、そのうち、中国の不織布生産は593万㌧、全体の約38%を占めている。中国の不織布生産量は、2014年(生産量:361万㌧)から2018年にかけて年率13.2%で成長している。(出所:化繊協会)
マスクの重量はとっても軽いもの。マスクの生産が極端に増えたとしても、素材ベースで見えれば、あまり大きな影響を与えるような数字の変化ではないであろう。
そうしたこともあってのことだろうが、経産省はマスク供給のボトルネックであるマスク自体を加工する生産設備の増強を図る補助事業を始めた。
トイレットペーパーは環境にやさしい森林由来の紙
クリネックスのブランド名でトイレットペーパーなどを製造する日本製紙クレシアは、ホームページ上で、現在のトイレットペーパーの生産状況を告知している。
トイレットペーパーの品薄に関する一部報道について
トイレットペーパーについて、一部店舗で品薄が発生しているとの報道があります。当社は現在問題なく生産と出荷を継続しており、今後も供給面で問題はございません。(2020年2月28日)
日本製紙クレシアは、国内に3工場を有し、埼玉県草加市にある東京工場では、ティシュー・トイレットロール・ハンドタオル・産業用製品などを生産、工場から発生する廃棄物のゼロエミッション化、省エネルギー、CO2排出量削減等の活動を通じ、地域の環境保全や、リサイクル活動にも積極的に取り組んでいるという。
また、「森林経営・原材料調達に関わる責任」というレポートを発行し、トイレットペーパーなど紙製品の原材料調達についても公表している。
原材料調達の現状
古紙は日本の製紙業にとって原材料の過半を占める不可欠な資源
古紙と木質資源を主要原材料としています。
日本製紙グループの主要製品は紙製品であり、その原材料の52.2%を古紙が占めています。残る47.8%が、主に木材チップなどの木質資源です。(出所:日本製紙クレシア)
また、木質資源調達のポイントを明確に設定し、原材料調達が適切に行われていることを確認するツールとして、FSCなどの第三者認証である「森林認証制度」を活用しているという。
● 持続可能であること(サステナビリティ)
● 木材の出所が明らかであること(トレーサビリティ)
● きちんと説明できること(アカウンタビリティ)(出所:日本製紙クレシア)
まとめ
ちょっと見た目が近いかもしれないが、化石燃料由来の「マスク」と環境にやさしい森林由来の「トイレットペーパー」や「ティッシュペーパー」では、その原料は異なる。
「トイレットペーパー」や「ティッシュペーパー」は環境に配慮して作られているが、それでも木を原料している。
生活必需品ではあるものの、無駄使いは避けたい商品のひとつです。
「関連文書」
「参考文書」