Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

産業廃棄物で埋もれた島を自然豊かな島へ 瀬戸内豊島の奇跡

 

  瀬戸内海に豊島という島がある。豊かな島と書いて、「てしま」と呼ぶ。この島には、かつて大量の産業廃棄物の違法投棄されたという歴史がある。

 

 

豊島での産廃処理の歴史 社会を動かすきっかけに

 豊島総合観光開発という会社が、1975年から16年間、豊島西端の海岸近くに産業廃棄物を大量に投棄した「豊島事件」。不法投棄された廃棄物の量は91万トンあまり。国内最大級の不法投棄事件と言われる。

 産廃が撤去される2017年3月末までに費やされた公費は約727億円にも及んだ。産廃から漏れ出たベンゼンなどにより汚染された土壌は除去されたが、地下水の汚染問題は依然残っていると言われ(参考:Wikipedia)、環境破壊も引き起こした。

 

 

 

豊島のごみ問題が循環型社会を目指すきっかけに

この産廃不法投棄事件が、その後、循環型社会を目指していくきっかけとなったとも言われる。経済優先社会によって生じる 「ごみ」 の問題を世に問うことにもなった。 

 

豊島問題は、 廃棄物の発生を抑制するとともに、 排出されたものは、できるだけ資源として循環的に利用し、 どうしても利用できないものは適正に処分するという循環型社会に向けた新たな取り組みにつながっていったのです。
 豊島廃棄物等の処理は、 豊島の原状回復による環境の再生を目指すとともに、 処理が行われる直島では、 飛灰やスラグなどの副成物を埋め立てることなく再生利用するものであり、 このことも、 我が国が目指すべき循環型社会の新たな展望を開くものです。(出所:豊島問題ホームページ

 

となりの島 直島で産廃処理始まる

 豊島の産廃は、豊島のとなりの島にあった三菱マテリアル直島精錬所に移送して処理することになった。2003年から直島で処理が始まり、平均5000トン/月の産廃が、直島の一般廃棄物もあわせて焼却・溶融処理された。溶融処理に伴って発生する飛灰から有価金属を回収、また、スラグからも金、銀、銅、鉄、アルミニウムなどの金属が回収されたという。残ったスラグは、コンクリート用骨材などの土木用材料として再利用、香川県内の公共工事で使用された。回収された金属は売却され、その利益は香川県に納付されたという。この処理は14年間続いた。

 

瀬戸内オリーブ基金設立 豊島の自然環境回復への活動始まる

 この産廃処理が始まるまでには、不法投棄が始まってから20年以上も時間が経過した後だった。長い長い住民活動が結実、公害調停が成立する。それは、20年前、2000年のこと。これを機に、豊島で、瀬戸内オリーブ基金が立ち上がる。豊島事件弁護団長の中坊公平氏と建築家の安藤忠雄氏が呼びかけ人となった。

 2014年、瀬戸内オリーブ基金と廃棄物対策豊島住民会議が「豊島・ゆたかなふるさとプロジェクト」を立ち上げ、不法投棄現場の周辺地域から回復活動に着手、痩せてしまった土地の再生など、さまざまな取り組みを行っているという。

 


豊島・ゆたかなふるさとプロジェクト 瀬戸内オリーブ基金

 

www.olive-foundation.org

 

 

 この問題は、市民活動を端にして、三菱マテリアルが協力し廃棄物がリサイクル処理され、その後の自然回復にはユニクロが協力する。

 

豊島の奇跡 産廃不法投棄問題から学ぶ「持続可能な社会」

この豊島事件を知るきっかけは1冊の本、バブル崩壊後の住専問題とこの豊島事件が描かれた「中坊公平の闘い」だった。

 壁にぶつかり、苦闘する住民を弁護士の中坊が叱咤激励、智慧を授け、

「一燈照隅、万燈照国」、解決への道筋をつける。

 

今日、日本が閉塞感に覆われているのは、ウソや建前だけの論理がまかり通り、信頼できるものがなくなってしまったからだ。

事実を公にすることこそが国民の自立であり、国民主権の実質化運動となる。

豊島住民の目的はお金を得ることが目的ではなく、次の世代にきれいな島を残したいという思いだけだ。 (出所:中坊公平の闘い)

 

 「消費は美徳」という言葉が使われたのは、昭和30年代以降の高度成長時代のことです。私たち日本人は、戦後の経済発展の中で、いつの間にか、大量に消費して大量に捨てることが当たり前、豊かさの証拠でもあるかのように考え始めました、と豊島問題ホームページは、この事件の社会的背景を指摘する。

 

豊島問題は、そうした社会がもたらした戦後最大級の不法投棄事件と言われています。そして、この問題は、あまり重要視されてこなかった廃棄物の問題を、一気に我が国最優先の環境問題にクローズアップさせ、廃棄物政策の見直しを行う引き金となった問題でもあります。
豊島に不法投棄された廃棄物の処理は、国の公害等調整委員会の調停に基づき、香川県が実施することになりましたが、この問題は、国家レベルの課題である「持続可能な社会の構築」、特に資源循環型社会形成に向けた取り組みとして、すべての人に、企業・消費者・行政関係者といったそれぞれの立場で考えていただきたいと思います。(出所:豊島問題ホームページ

   

まとめ

 この豊島事件では、市民が世論を動かし、産業廃棄物の完全撤去・無害化した成功事例なのであろう。規模の違いはあれど、今ある気候変動など様々な社会課題を解決していくための智慧にしていかなければならないと思う。 

 

 今、この問題を振り返れば、関係する人々の利害が一致してはじめて、問題が解決に向かい始める。新たにビジネスを始めることに似ているのかもしれない。

  

この豊島事件を率いた弁護士中坊公平氏の言葉

この悔しさこそが新しいエネルギーになっていくのではないか。

どんな嫌なことでも状況を「直視」する中から運動を始めなければならない。(出所:中坊公平の闘い) 

  

 何がきっかけで「転機」が訪れるかわからない。それを自身が受け入れるまでには少し時間が掛かったりもする。心の中にある記憶が、何かと結びつきはじめると、ある気づきになるのかもしれない。 

 

中坊公平の闘い 決定版〈上〉 (日経ビジネス人文庫)
 
中坊公平の闘い 決定版〈下〉 (日経ビジネス人文庫)
 

 

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「参考文書」

環境に配慮し、事業者と連携した地域振興 ~香川県直島町を例として~