Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

静かに動き出す「ケミカルリサイクル」 プラ原料を作る化学メーカーの苦悩

 

 長くプラスチックスに携わる仕事をしていた。

今話題になっている使い捨て容器に使われるプラスチックスではなく、家電などに使われているプラスチックスだったが、その原料はどちらも石油。油田で採取される原油を蒸留分離して得られるナフサを原料にする場合が多い。自動車の燃料のガソリンも含まれる。 

f:id:dsupplying:20200320094317j:plain

 

  シンガポールに駐在していたとき、現地スタッフの教育の一環で、ジュロン島にある石油化学コンビナートを見学に行った。ここには、石油メジャーのエクソンモービルシェブロンロイヤルダッチシェル、BPの他、海外の大手化学メーカのBASF、デュポン、日系化学の三井化学住友化学など多くの石油関連企業が進出している。どの企業が何をしているかまでの詳細はわからなかったが、迷路のようにパイプラインが張り巡らされ、そのパイプラインで原料が送られプラスチックスレジンが作られる。

 見学に行ったのは旭化成の変性PPE(プラスチックスの一種)のプラントだった。三井化学とつながったパイプラインを通してフェノールが送られ、それを使い重合されて変性PPEになる。

 Wikipediaによれば、このジュロン島の石油精製施設は世界で3本の指に入るという。

「ジュロン島の石油精製量は1日あたり130万バレルに達し、原油から分離したガソリン、灯油、ジェット燃料を国内外に販売している。ナフサを分子レベルに分解し、プリンターのトナー、プラスチックの射出成形、半導体、飛行機用の素材といった様々な特性のある製品を生産している」(出所:Wikipedia)。 

 

 

 プラスチックスの価格は原油価格で左右される。原油の価格が動くとプラスチックスの価格も変動する。

石油価格が大きく変動するたびにメーカ各社と価格交渉しなければならなかった。値下げ局面ならまだしも、値上げ局面ではもの凄くプレッシャーがある。高い買い物にならないよう細心の注意が必要だ。その煩わしさから解放されたくて、スチレンモノマー市況値を使ったあるフォーミュラーで計算することで価格を決めることにした。いくぶんストレスは減ったが、それでも値上げではいつも苦しめられた。

 

  そんな経験があってのことであろうか、石油など天然資源に頼ることなく経済を回そうとする「サーキュラー・エコノミー」に興味を抱いた。

 

英エレンマッカーサー財団と「サーキュラー・エコノミー」

 サーキュラー・エコノミーを積極的に推進しているのが、英エレンマッカーサー財団。この財団を設立したのは、ヨットで単独世界一周の最短記録をもつエレン・マッカーサー

 

世界一周の航海の中である啓示があったという。

「私たちは限りある資源に完全に依存している」

それがきっかけとなり、サーキュラー・エコノミーを思いついたという。

この財団の「CE100」というイニシアティブには業界を問わず多くのグローバル企業が参加する。この「CE100」のグローバルパートナ企業のひとつにファストファッションH&Mがいる。「CE100」の幹事企業とでもいうのであろうか。

www.newsweekjapan.jp

 

 

H&Mサステナビリティ 「サーキュラー・エコノミー」

そのH&Mが、「循環型で革新的な新素材を使用したサステイナブル・コレクション」を発表した。次々と開発される循環型の新素材を利用して「サスティナビリティ」をアピールしているようだ。

廃棄されたセルロース繊維を再生利用するCIRCULOSE®、廃棄される服や布地から高品質なリサイクルポリエステルを作るRENU™、ワイン製造時に廃棄されるブドウの皮、茎、種をレザーの代替品として生まれ変わらせたVEGEA™、抽出し終わったコーヒー粉を染料に利用したCOFFEE DYEなど。

エレンマッカーサー財団の「CE100」の中心的メンバーだからだろうか、ウェブサイトでも、積極的に「サーキュラー・エコノミー」の必要性を説く。

 

 “The fashion industry will not exist in the future if we continue producing and using fashion in the same way. 

Climate crisis requires us to take great steps to transform our whole industry. This report clearly shows how shifting to a circular economy and treating waste as a resource enable us to drastically reduce our footprint and reach our goal to become climate positive,” says Anna Gedda, Head of Sustainability H&M Group. (出所:H&M Groupウェブサイト)


 2018年に20,649トンの古い衣類を店内で回収し、それらを再利用またはリサイクルしてきたという。2020年までには年間25,000トンを回収することを目標に掲げる。

 また、素材についても、2030年までに100%持続可能な方法で調達された素材に切り替えていく。
 二酸化炭素排出量の目標も掲げ、現在までに11%削減した排出量を、2030年までにはカーボンニュートラルサプライチェーンを達成していくという。 

 

 

 否定するわけではないが、少しばかり胡散臭さも感じる。

 もう少し詳しく調べれば、いいのかもしれないが、どれだけの量を販売し、どれだけの量の服を店内で回収しているのであろうか?回収された服はその後どうなったのであろうか?

 他社が開発した新素材を利用しているだけでは何か他人の褌で勝負しているように見えてしまう。

 何かもう一工夫あってもいいのではないかと思う。

 サーキュラー・エコノミーがクローズドループでなければならないといけないという明確な定義はないが、服の最終処分を見届けなければ、埋立地に捨てられてしまうこともあろう。

 

 ケミカルリサイクル 「樹脂をどう原料に戻すか」

 シンガポールジュロン島にプラントをもつ住友化学がケミカルリサイクル事業に乗り出すようだ。

 

「樹脂をどう原料に戻すか。石化が生きていくにはこれしかない」

積水化学工業とは、食べ残しや紙、プラなどの混ざったゴミをまるごとエタノールに変換し、エタノールからエチレンや汎用プラを生産。2025年度の本格販売を目指す。

室蘭工業大学とは、複数種類が混ざったプラゴミを直接エチレンやプロピレンに変換する共同研究を始めた。(出所:ニュースイッチ)

newswitch.jp

「ケミカルリサイクル」が進めば、オープンループでのサーキュラー・エコノミーに近づくのではなかろうか。

 石油に頼らずとも、ごみを資源に洋服を作ることもできるようになるのかもしれない。

 

炭素税は企業にとっての重石か、それとも良薬か

 「コロナショック」で原油価格が下落を続けている。

「18日の米原油相場は、景気後退懸念が高まっていることを背景に24%急落し、1バレル=20.37ドルと2002年2月以来の安値を付けた」とCNNが報じる。

www.cnn.co.jp

 

シンガポールでは、2019年から「炭素税」の課税が始まったそうだ。二酸化炭素(CO2)排出にトン当たり5シンガポールドルを課税するとニュースイッチが伝える。企業の競争力低下を招きかねないという。しかし、その税を軽減していくには、二酸化炭素の排出を抑える努力を続けていかなければならない。 

 化学メーカにとって難しい舵取りなのかもしれないが、気候変動対応を第一優先にしてもらいたい。

 

「関連文書」

dsupplying.hatenadiary.com

 

dsupplying.hatenablog.com 

 

dsupplying.hatenablog.com

 

 

「参考文書」

www.sumitomo-chem.co.jp

prtimes.jp