九州での大雨の峠が超えたようだ。少しばかり安堵する。
九州の被害を伝えるニュースを見るたびに戦慄する。気候変動の影響がここまで深刻さを増しているのかと。 まさしく「気候危機」ということなのだろう。
(資料出所:令和2年 防災白書)
今年の「防災白書」第3章では、「気候変動×防災」の取組を取り上げている。
もう気候変動による気象災害を避けて通れないところまで来てしまったということなのだろう。
気候変動対策と防災対策は、国際政治においても連携して対応することが重視されつつある。
気候変動対策として温室効果ガス排出抑制(緩和策)を進める間にも、気候変動の影響による災害の頻発化、激甚化は顕著になっている。
このため気候変動対策において適応策への注目度が増している。
(出所:令和2年 防災白書)
もう他人事としてはならない問題になっている。
時事通信によれば、白書は「自らの命は自らが守る」との住民意識の醸成が重要だと訴えるという。
気象災害は、国内ばかりでなく、世界各地で頻発するようになり、気候変動リスクが世界共通の課題になった。
こうしたこともあってか、投資の世界でも、ESG投資が急拡大し、企業は気候変動リスクに取り組みことを求められるようになっている。
東洋経済オンラインは、元日本銀行審議委員で国際金融を専門とする白井さゆり・慶応義塾大学教授の提言を紹介する。
今年6月末、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が、金融機関に対する気候変動リスクを考慮したストレステストのガイドラインを発表したという。
これを受けて、日本の金融機関も自らの投融資の気候変動リスクをしっかり把握する必要性が高まっているという。
白井氏は「そのため、銀行自身が投融資先の企業にGHG(温室効果ガス)排出量を減らすようにエンゲージメントを行うことも増えてくるだろう」という。
日本企業の多くが2030年といった中長期的なGHG削減目標を掲げているが、政府の方針見直しが各社の目標に大きな影響を及ぼすのは必至。
「その深刻さを意識している企業はまだ多くはない。今後、企業も再エネの利用を増やすなど、もっと真剣に取り組む必要が出てくるだろう」。 (出所:東洋経済オンライン)
東京電力リニューアブルパワーの文挾社長はSankeiBizのインタビューに、
「脱炭素の流れが急速にきており、ビジネスチャンスととらえている。資金調達に際し、金融機関とコミュニケーションをとると、株主の理解も取りやすいこともあって再エネに対し融資枠を結構、持っている」と答える。
国内は、太陽光と陸上風力が主力だ。国は2030年に再エネが全発電に占める割合が22~24%になるとしているが、それは達成できる見込みだ。
ただ今後は、陸上風力も設置場所がなくなり、太陽光はパネルも安くなり、もうからなくなっていく。次は洋上風力だと、こぞって参入を決めている状況だ。 (出所:SankeiBiz)
こうした環境下、水力発電の活用も活発化してきたのだろうか。
関西電力は既存のダム2か所で、新たに水力発電を新設するという。
スマートジャパンによれば、両発電所とも、坂上ダムと打保ダムの豊富な水を利用するという。最大出力は新坂上発電所が4300kW、新打保発電所が4940kWとなり、発電電力量は新坂上発電所が1300万kWh/年、新打保発電所が1600万kWh/年となる計画である。
中部電力は、再生可能エネルギーの拡大に向け、安倍川水力発電所を建設する。高さ4mの堰堤を設けて取水、年間発電量は一般家庭約1万2500世帯分に相当する約3900万キロを想定しているという。
(写真出所:中部電力ニュースリリース)
神奈川県平塚市の海岸では、波の力を利用して発電する波力発電装置の実用化に向けた実証実験がスタートしたという。
世界に先駆けた波力発電システムの実現に向けて、東京大学生産技術研究所が約1年間の実証実験に取り組むとスマートジャパンが伝える。
実用化については今回の事業で培ったノウハウを生かし、10年以内の商業化を目指す方針で、2050年頃には原発一基分に相当する総発電能力1GWの波力発電システムを全国展開したいとしている。 (出所:スマートジャパン)
今年の防災白書では、「気候変動×防災」検討の方向性が示された。以下、今年の防災白書からの引用となる。
「気候変動を踏まえた防災の視点を様々な政策へ導入」
防災対策は、気候変動対策にもつながり、様々な政策の中に横断的に取り込んでいくことが重要である。
例えば、地域での気候変動を踏まえた防災の取組は、コミュニティの強化や地域の活性化にもつながり、企業の取組は、企業の事業継続力や信用力の向上のみならず地域経済や雇用の安定につながる。
このようにして総合的に防災・減災能力を向上しつつ、持続可能で強靱な社会をつくることが必要である。
☆気候変動対策の加速
気候変動による災害リスクを低減するためには、地球温暖化を抑制することが根本的な対策であり、脱炭素社会に向けた取組の一層の推進も必要である。
また、追加的な温室効果ガスを排出しなくても一定程度の温暖化は避けられないことから、社会の持つ脆弱性等も踏まえた気候変動リスク情報等の整備及びこれを活用したあらゆる分野における気候変動の主流化が重要であり、これらがひいては防災、減災対策ともなることを認識すべきである。 (出所:令和2年 防災白書)
ドイツの1~6月の再生可能エネルギーの割合が55.8%と過去最高になったという。
共同通信によれば、二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力は、排出に課金する制度でコスト高になり、割合が大きく減ったという。
いよいよ来年は、重要なエネルギー基本計画が見直しになる。国際公約の温室効果ガス削減目標に関わってくる。
「約束した26%削減をどのようなエネルギーミックスでやるのか。それを明確にすることが問われている」
とは東洋経済オンラインが伝えた白井氏の言葉だ。
兎角、日本の脱石炭のアクションは遅いと批判されがちだが、遅々たる動きかもしれないが、産業界では再生可能エネルギーへの投資も増えてはいそうだ。
新たなビジネスや市場機会の創出
気候変動による災害リスクの意識の高まり、適応策の重点化は国際的な流れでもある。
わが国で進める気候変動を踏まえたハード、ソフトの防災対策は、気候変動の適応策として、また複数のSDGsに貢献する対策として、諸外国でも受け入れられ、活用される可能性がある。
そうした視点に立ち、災害リスクの高まりの危機(ピンチ)を、わが国の技術やノウハウを高め、世界でも活かす機会(チャンス)とも捉え、一層前向きに「気候変動×防災」に取り組む環境を整えることが重要である。(出所:令和2年 防災白書)
電力会社ばかりでなく、他の産業の協力なくして、気候変動を抑制していくことは不可能ということなのだろう。
「参考」
防災白書では、SDGsとの関わりについて以下のように説明している。
この気候変動対策と防災対策は、持続可能な開発目標(SDGs)の一部とも政策目標が共通している。例えば、
災害の被災者が貧困層に陥ったり(SDG1(貧困の撲滅)関係)、
水関連災害の防止(SDG6(水と衛生)関係)、
災害により経済的損失が発生したりする(SDG8(経済成長)関係)、
災害・気候変動がインフラ・産業・都市に影響を与える(SDG9(強靱なインフラ、産業)関係、SDG11(包摂的・安全・強靱・持続可能な都市、SDG13(災害に対する強靱性及び適応能力の強化)関係)といったことから、
災害リスク・気候変動リスクを軽減することなく持続可能な開発目標を達成することは難しいと言える。
気候変動対策(パリ協定)、防災・減災対策(仙台防災枠組)、SDGs(アジェンダ2030)の一体的な達成を追求していくことは国際的にも重視されている。 (出所:防災白書)
「関連文書」
「参考文書」