徳島県の山間に上勝という町がある。2003年に、2020年までにごみをゼロにすると、日本で初めて「ゼロウェイスト」を宣言した町だ。
2016年には、リサイクル率が81%までに達したというが、「もう限界域だ」と、ゼロ・ウェイストアカデミー理事長の坂野さんは話されているそうだ。
人口の少ない自治体が抱える問題がその背景にあるのだろうか。高機能な焼却施設導入が難しく、資源ごみの回収もままならないという。
「本来、リサイクル業者が手間をかける細かい分別まで自分たちでやることで、取りに来てもらえるようになりました。結果として、町の財政から出ていくごみの処理費用を減らすことに成功した」ともいう。
坂野理事長は、サーキュラー・エコノミーについても語られている。
「サーキュラーエコノミーとは、地域社会やビジネスに、資源が循環する経済的な仕組みを埋め込むこと」
サーキュラーエコノミーとは、モノや資源の価値を最大限活かす仕組みが新しいビジネスになる、サステナブルな経済の概念です。
今の経済は、資源がモノに加工され、消費者が買い最後はごみとして廃棄されることで成立しています。しかし、資源は有限なので、こうした一方通行の経済はサステナブルではありません。
そこで、企業がモノを売って終わりにせず、循環させることで資源を枯渇させない経済のあり方が求められ、その中で、サーキュラーエコノミーという概念が登場しました。 (出所:SUSTAINABLE JOURNEY ダイワハウス)
- 「プラスチック資源」バケツなどの一括分別回収がはじまる?
- 伝わらない国の施策趣旨 「使い捨てを無くすこと」
- ケミカルリサイクル:プラごみ集荷拡大を国に要望
- 経済産業省が進めたいプラスチックスの資源化と循環施策
- 静脈産業:リサイクル産業からリソーシング産業へ
- 「循環経済ビジョン2020」
- まとめ
政府はこうした徳島上勝町の活動を模したサーキュラー・エコノミー、「プラスチック資源循環」の施策を導入しようとしているのだろうか。
経済産業省が、7月21日、「産業構造審議会 産業技術環境分科会 廃棄物・リサイクル小委員会 プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ 中央環境審議会 循環型社会部会 プラスチック資源循環小委員会 合同会議(第4回)」というWeb会議を開催した。
「プラスチック資源」バケツなどの一括分別回収がはじまる?
この会議の概要を「プラスチック製の容器包装と製品を資源ごみとして一括で分別回収するように、市区町村に要請する方針を決めた」と、SankeiBizは伝える。
新たな分別区分として「プラスチック資源」を新設し、年度内に実施時期の決定を含め、具体策をまとめ、リサイクルの拡大を目指すと説明する。
新たに分別回収するのは、プラスチック製の文房具や玩具、洗面器やバケツなど。
回収は市区町村が担っているが、現在は地域によって取り扱いが異なり、可燃ごみとして焼却されたり、不燃ごみとして埋め立て処分されたりしている。
一方で食品トレーやレジ袋などを含め、容器包装リサイクル法による容器、包装は再資源化が進んでおり、全市区町村の8割近くが分別して回収している。 (出所:SankeiBiz)
伝わらない国の施策趣旨 「使い捨てを無くすこと」
経済産業省の施策趣旨は正確に伝わらないということであろうか。
AsageiBizは、「リサイクルは名ばかり!? プラスチックごみ「一括回収」に戸惑いの声」と伝える。
AsageiBizによれば、
「自分の地域では最近やっとプラごみが資源から燃えるごみに変わったばかりなのに、コロコロ変わって本当に面倒くさい」
「プラごみをリサイクルするって燃やすだけなんでしょ? 変な手間を増やさないでほしい」
「家庭用のプラごみが海洋に出るわけがないのに、本当に意味がわからない」
「ごみの分別を増やすと、むしろ不法投棄が増えるのでは」
などの意見がネット上に寄せられていたという。
ケミカルリサイクル:プラごみ集荷拡大を国に要望
ニュースイッチはこの問題を別な視点、どちかと言えば企業よりからの視点で解説する。
「政府は、2035年までに容器包装プラを100%再利用・再生する目標を掲げる一方、対象外だった洗面器や文具などプラ製品を含む一括回収を22年度以降に始める方針。回収・処理量と再資源化率を高めるには官民の総力戦が欠かせない」と解説する。
「廃棄物問題では、我々の知恵と工夫で日常生活から使い捨てをなくすことが欠かせない」
とニュースイッチもいう。
「問題なのは、容器包装プラの集荷・処理量は年間66万―67万トンと横ばいで、しかも回収する自治体の参加率が6割強にとどまることだ」と指摘、実際に処理すべきプラがあるのに回収率が伸びない現状を打破するには、関係者が結束する必要がある」と問題提起する。
また、現行のマテリアルリサイクルの問題も指摘する。
現行の国の制度では、材料リサイクルを手がける中小事業者らに優先落札権があり、回収量は全体の約5割を占める。容器包装プラは複合素材が多いため、材料リサイクルでは残渣(ざんさ)が約半分発生するという課題もあるにもかかわらずだ (出所:ニュースイッチ)
「ケミカルリサイクルを進める鉄鋼各社は、約85%と高い再生利用率や環境負荷軽減効果を誇り、設備余力を持つものの、数量的には不利な状況にある」。
日本鉄鋼連盟は政府に、材料リサイクル優先政策に象徴される入札制度の抜本的見直し、国による廃プラ集荷量拡大策の早期具体化を要望している。
「CO2排出削減や社会的コスト低減効果の高い廃プラの製鉄プロセスでのケミカルリサイクル拡大が、政府が進める温室効果ガス排出抑制や費用の最小化、資源有効利用率の最大化に適する」と強調している。
日鉄などは要望するだけではなく、回収・処理量が増えても効率的に対応できるよう技術開発を進めている。(出所:ニュースイッチ)
「大企業VS中小事業者」という構図にもなりかねないが、そもそも低い自治体からの廃プラの回収・処理量を引き上げることに力を入れる必要があるだろうとも指摘する。
経済産業省が進めたいプラスチックスの資源化と循環施策
経済産業省が、21日に開催したWeb会議には、次のような資料が提示されていた。
家庭から排出されるプラスチック資源の回収・リサイクル
家庭から排出されるプラスチック製容器包装・製品は、市町村での分別回収及び事業者による自主回収を一体的に推進し、最新技術で効率的に選別・リサイクルする体制を確保することが重要である。
【市町村による分別回収】
・ 家庭から排出されたプラスチック製容器包装・製品については、プラスチック資源として分別回収することが求められる。
・ 消費者に分かりやすい分別ルールとすることを通じて資源回収量の拡大を図るとともに、効果的・効率的なリサイクルに向けて、プラスチック製容器包装・製品をまとめてリサイクルすることや、市町村とリサイクル事業者で重複している選別等の中間処理を一体的に実施することが可能となる環境を整備する。
・ また、家庭ごみの有料化徹底等を通じて消費者の資源分別を促し、こうした分別努力に応じた市町村に対するインセンティブ等を通じて、分別収集体制を全国的に整備する。
(資料出所:経済産業省公式サイト「プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集> 」)
静脈産業:リサイクル産業からリソーシング産業へ
循環経済、サーキュラー・エコノミーの実現に向け、静脈産業が果たす役割は極めて大きいと経済産業省はいう。
すなわち、廃棄物減容化や有価資源の回収を目的としたリサイクルを行うのではなく、動脈産業がグローバルな市場・社会からの環境配慮要請に応えていけるように、あらゆる使用済製品を可能な限り高度な素材として再生し、動脈産業に供給する「リソーシング産業」としての役割が期待されている。
(出所:経済産業省公式サイト「循環経済ビジョン2020」)
(資料出所:経済産業省公式サイト「プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集> 」)
経済産業省のサーキュラー・エコノミーの調査事業に協力したデロイトトーマツがForbesにPR記事を出した。
日本のサーキュラー・エコノミーを支える「静脈産業」が変わろうとしている
製品を供給する製造業が「動脈産業」で、産業廃棄物の処理や使い古された製品のリサイクルなどを行い、再び循環させるのが「静脈産業」と呼ばれる。
「サプライチェーンの上流である動脈産業側のビジネスモデルをチェンジさせることももちろん重要なのですが、私は日本のサーキュラー・エコノミー確立の鍵は静脈産業側にあると考えています」(田中)
日本の静脈産業は欧州と大きく構造が異なる。欧州ではインフラ系の大企業が収集運搬から処理、リサイクルまでを一手に担うのに対し、日本は中小・零細規模の細分化されたプレーヤーが市場を支えている。従って、彼らをいかに巻き込み、エンパワメントしながらエコシステムを立ち上げていくかが極めて重要となっていく。 (出所:Forbes)
デロイトは、サーキュラー・エコノミーを「街を支える重要なインフラ事業」の一つとして位置づけるという。
米国でサーキュラー・エコノミー企業として初のユニコーンとなった「ルビコン・グローバル」と手を組み、エコシステムの立ち上げを進めているという。
ゴミ収集の新しいかたち
wiredによれば、ルビコンは、大手ゴミ処理業者とは違い、トラックを保持しているわけではないし、埋立地の管理を行っているわけでもないという。
彼らが行っているのは、地域の運送業者と、ゴミ処理費用を削減してリサイクル活動を増やしたい大手企業とを結びつけるプラットフォームの運営だそうだ。
ルビコンは企業のゴミを保管し、価値のあるものは全国のリサイクル業者やアップサイクル業者に売却している。
同時に同社が狙っているのは、1週間あたりのゴミ収集の回数を減らすことによる費用削減の機会だ。
(出所:wired)
実際、小田急電鉄とルビコンが手を組み、座間市とサーキュラー・エコノミーに特化した協定を結び、2020年4月から実証実験を開始しているという。
ルビコンのしくみを使った自治体ごみ収集の効率化が狙いのようだ。
「循環経済ビジョン2020」
経済産業省は、5月、「循環経済ビジョン2020」を公表した。
こうした「プラスチック資源循環」の施策は、このビジョンの一環ということなのであろうか。
(資料出所:経済産業省公式サイト「循環経済ビジョン2020」)
まとめ
政府の成長戦略の中でも、「循環経済」や「プラスチック資源循環」が議論されている。
「プラスチック資源循環」については、戦略の具体化を今年度内にまとめ、次世代リサイクル等の革新技術の社会実装やデジタル技術を活用した循環ビジネスの創生を支援する。また、これに合わせ循環経済へのファイナンスを促すためのガイダンスを年内目途に策定するという。
経済産業省の活動はこの成長戦略をもとにしたものであろう。
日本経済新聞は、「政府が成長戦略に掲げる数値目標(KPI)の未達と遅れが常態化していると指摘する。
2019年度時点では、これまでで最も高い47%に達したという。特に、ITと環境に遅れが目立つと問題提起する。
「全ての目標で具体策を明確にし、迅速に進めていく必要がある」と日本経済新聞はいう。
経済産業省が開示している資料分析してみると、よく現状分析し、捕まえた課題を解決しようとの姿勢は窺える。
ただ、こうした調査を含めた施策の進め方は多少疑問も感じる。施策検討段階に参加した企業が有利になってはいないだろうか。
検討議論をオープンにしていくことも必要ではないのかと感じる。
今回考察した 「プラスチック資源循環」について言えば、「KPI」ありきで、「KPI」の内容とそれを達成するためのプロセスとマイルストーンに弱点があるように感じる。
早期に実現し、KPIを達成するためには、すべての利害関係者が渾然一体となって進めていくしかないのであろう。そうした運営が必要なのではないであろうか。
Forbes(モニターデロイト)は、徳島県上勝町の「ゼロ・ウェイスト」活動を、ごみの分別ステーションなど日本らしいコミュニティ形成と掛け合わせていると紹介する。
この取り組みは、ごみの埋め立て・焼却を極力減らし、ごみを45品目に分別することで価値ある資源としてリユースしようという取り組みだ。
2003年からの活動開始以降、現在のリサイクル率は約80%にのぼり、年間250〜300万円の収入をもたらしている。
また、分別の場が町民同士のコミュニケーションを深めているという声もある。 (出所:Forbes)
上勝町の活動のように、自主的な活動になることが理想的な姿のなのであろう。国に求められるの、その実現に向けた公正・公平なリーダーシップであるように思う。
「関連文書」
「参考文書」