「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」、初めて聞く言葉だった。どうやら経済産業省が作り出した言葉のようだ。
経済産業省が8月末、「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」の 中間とりまとめを公表した。その公表されたレポートが、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて」と題されている。
サステナビリティ・トランスフォーメーションという言葉に興味を抱き、その中身を確認してみることにした。
「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が立ち上がった背景と目的
バブル崩壊後、失われた20年とか30年とか言われる。この間、世界を席巻するような日本発の破壊的イノベーションは生まれず、日本の競争力は低下していった。そんな危惧があってのことなのだろう、この検討会の前、2014年から、経済産業省主導で企業の価値創造についての議論がなされてきたようだ。それなりの成果を認めつつ、企業の持続的な価値創造につなげていくべきとの指摘が引き続き存在していたという。劇的に日本のプレゼンスが改善されたということがないのだから当然の事なのかもしれない。
ここ最近の投資家や資本市場を取り巻く環境の変化を踏まえ、企業と投資家等の「協創」から好循環を生み出し、中長期で企業価値を向上させていくことが狙いのようだ。
(資料出所:経済産業省「第1回 サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 事務局説明資料」)
検討会で議論させてきた論点
アジェンダとして、「対話の現状を踏まえた対話の質の底上げ」、「投資家・資本市場を取り巻く環境の変化を踏まえた、今後の企業と投資家の関係性について」や「企業経営と SDGs」、「無形資産(イノベーション・R&D/DX/人材)に対する投資の更なる促進」などが上がる。
「投資家・資本市場を取り巻く環境の変化を踏まえた、今後の企業と投資家の関係性について」は、以下3項目が論点にあがり、分析、議論されたようだ。
〇資本市場をめぐるコスト極小化の動きと各プレーヤーの役割・在り方
○ESG 投資を通じた企業の価値創造の可能性
〇企業の持続的成長に適切なインセンティブを与える市場構造・インデックスの在り方
(資料出所:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会について」)
SX サステナビリティ・トランスフォーメーションとは
気候変動、コロナ渦、DXデジタルトランスフォーメーションなどの技術革新により不確実性が高まっているという。また、「社会のサステナビリティ」の要請も高まっているが、こうした環境下において、企業と投資家の間で認識ギャップがあり、理解を得られにくいテーマが存在することが明らかになっているとレポートは指摘する。
こうしたギャップを解消し、中長期的な企業価値向上を実現するためには、企業と投資家が、3年程度の中期経営計画の時間軸を超えて、意識的に 5 年、10 年という長期の時間軸で、「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる対話やエンゲージメントを行っていくことが必要であるという。
そのために、具体的に3つの項目をあげ、こうした経営の在り方、対話の在り方を、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶこととしたという。
① 企業としての稼ぐ力(強み・競争優位性・ビジネスモデル)を中長期で持続化・強化する、事業ポートフォリオ・マネジメントやイノベーション等に対する種植え等の取組を通じて、企業のサステナビリティを高めていくこと、
② 不確実性に備え、「社会のサステナビリティ」をバックキャストして、企業としての稼ぐ力の持続性・成長性に対する中長期的な「リスク」と「オポチュニティ」双方を把握し、それを具体的な経営に反映させていくこと、
③ 不確実性が高まる中で企業のサステナビリティを高めていくために、将来に対してのシナリオ変更がありうることを念頭に置き、企業と投資家が、①②の観点を踏まえた対話やエンゲージメントを何度も繰り返すことにより、企業の中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンスを高めていくことが必要である。 (出所:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」)
(出所:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめについて」)
所感・まとめ
こうした議論が経済産業省で行われていることを知らなかったが、こうして読んでみると、過去からの経緯もわかり、学びの機会になった。また、なるほどと気づくことも多くあった。「失われた20年」からなかなか抜ける出ることができず、国内ばかりでなく、国際競争力が失われたことも理解できたような気がする。
長い間、企業と投資家の間で認識ギャップがあったといことについて少々驚くが、こうした議論がきっかけになって、そのギャップが埋まっていくのかもしれない。
今回、投資家、企業双方で、「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化さ、企業の中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンスを高めていくことが必要であると認識したことはよかったことではなかろうか。この検討会では、対話やエンゲージメントの重要性を説き、その実質化を図ったという。
対話の要諦は「理解」なのはずだ。それは、相手の立場、相手の理念やビジョン、目標を理解することから始まっていくのだろう。
こうしたことの積み重ねで、社会が少しで善い方向に進化していくことを期待したい。否、もう結果を出し続けていかなければならない時間になっている。