ESG投資についてのポジティブな報道が増える。そんなニュースにふれていると、投資の世界はESG一色かと思ってしまう。しかし、まだそんなことはないようだ。
昨年度末の欧州の投資信託資産のなかでESG投資関連が占める割合は15.1%だったという。ただ、今後5年間でのその割合は57%にジャンプアップするとブルームバーグが伝える。
ブルームバーグによると、PwCプライスウォーターハウスクーパースの調査に参加した機関投資家の77%が、向こう2年の間に非ESG資産の購入をやめる計画だと答えたという。
ESG投資とSDGs
ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことをいう。
経済産業省によると、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営の「サステナビリティ」を評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会(オポチュニティ)を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されているという。
ESGは、投資の世界をまさに一変させるだろう。金銭的なものとそれ以外の成果基準を同列に置くことになる。 (出所:ブルームバーグ)
ESG投資に傾斜する生命保険
そんなブルームバーグの指摘を証左するように、機関投資家である国内の生命保険が、資産運用のすべてで「ESG」を考慮しはじめたという。
日本経済新聞によれば、日本生命保険は、株式や社債、海外融資について、すでに「ESG」を考慮した運用をすると表明していたが、それに加え、国債と国内融資などに対しても、「ESG」の観点を踏まえて審査するという。第一生命保険も同様の方針を公表済みだという。
国債については世界銀行が公表しているESG関連のデータを確認。主に外国債に投資するときの参考にする。
国内融資でもESGに関する融資先の評価を確認し、不動産では環境認証の取得を推奨する。
ESGを重視していない投融資先に対する具体的な対応は今後詰める。 (出所:日本経済新聞)
第一生命保険は7月、ドイツの日用品メーカー大手ヘンケルが発行した、資金使途を「プラごみ削減に絞った債券」を購入したという。 日本経済新聞によると、ヘンケルはこの債券で調達した資金で、リサイクル材を用いたシャンプー・洗剤容器の開発などを行うという。
プラごみ問題のリスクと機会を把握せず、対策を講じていない企業は評価を下げることになり、投資家が離れていく可能性がある。 (出所:日本経済新聞)
日本生命は10月、世界銀行(国際復興開発銀行)が発行する「サステナブル・ディベロップメント・ボンド」へ投資したと発表した。この債券は、栄養問題をテーマとした世界銀行が初めて発行する債券だという。その世界銀行は栄養問題の解決に取り組んでいる。
第一生命も10月、ブラックロック・リアルアセッツが運用する「再生可能エネルギーインフラファンド」へ投資したと発表した。 太陽光・風力などの再生可能エネルギー発電施設の建設・運営プロジェクトや、送配電や蓄電施設などの発電に付随する設備を投資対象とするファンドで、長期安定的な運用収益の獲得が期待されると第一生命は説明する。
(参考文書)
「世界銀行(国際復興開発銀行)が発行するサステナブル・ディベロップメント・ボンドへの投資について」(日本生命)
「ブラックロック・リアルアセッツが運用する再生可能エネルギーインフラファンドへの投資」(第一生命)
使い捨て社会 経済合理性の罠
パブリックスピーカーの山口周氏が日経ESGのインタビューで「経済合理性の限界」について解説する。
企業が抱える課題が「経済合理性の限界」を超えると、たとえば、「その洋服はダサい」というような課題を企業が自ら再生産するようになるという。そして、どの企業も、ITを駆使してデータを集め、マーケティング理論に基づいて経営判断をしはじめる。そうなると、どの企業も同じような結果に陥り、立ち往生しているのが今の社会だという。
「個人消費を促進する」というと聞こえはいいですが、消費とはゆっくりと小さな単位で起こる「破壊(スクラップ)」です。
マーケティングという、世の中に「破壊」を促進させる体系的な技術によってビジネスをつくってきたのです。 (出所:日経ESG)
つまり、「使い捨て社会」ということだろうか。
山口氏は、今、残っている課題は、「経済合理性」の外側にある「環境破壊」や「貧困・格差」などと指摘する。そして、これらをどうやって解決していくかが問われているという。
ポストコロナのキーワードに、「脱炭素化」、「循環型経済」、「分散型社会」が上がる。「経済合理性」で壊れた社会をこうしたワードをもとにして再設計し、作り直すことになりそうだ。また、それがESG投資の呼び水になるのだろう。