トヨタが中間決算を発表した。この中間決算の発表の場に豊田章男社長が出席したという。トヨタイムズによると、トヨタの社長が年度の途中で決算説明会に出るのも2002年以来。今回の社長出席は“異例”のものという。しかし、決算内容、今後の見通しとも悪くはない。
5月に発表した年間の営業利益見通し5000億円を早々に達成し、2021年3月期の連結業績予想を上方修正したという。売上高は5月の当初予想を2兆円上回る26兆円(前期比12.9%減)とし、営業利益は何と8000億円も上積みし1兆3000億円とした。
販売回復 ただ必死に自分たちの「仕事」をしただけ
車の底堅い需要とでもいうのだろうか、4 - 6月期、前年比69%減に落ち込んだ販売台数が、7- 9月期には前年並みにまで回復、来年1 - 3月期に前年を上回る数字に回復するとの見通しになっている。
コロナ渦で影響を受け、右往左往する企業が多いというのに、数字だけを見えば驚愕の内容だろう。
「お客様の1台が私たちの工場を、日本経済を動かす。その1台1台を積み上げるために生産も販売も必死になって自分たちの「仕事」をしたと思います。それが急速な販売回復につながりました」と 豊田社長は語ったという。
トヨタイムズによると、会見で早々に「中間決算に初めて出席した理由を教えてほしい」という質問が出て、豊田はこう答えたという。
コロナ危機という「有事」であるということで出席しております。
特に有事の際は、「仕事」で貢献することが大切だと思っております。皆が「仕事」をすることによって、雇用を守り、利益をあげ、そして、税金を納める。
これが国家を支える基幹産業としての役割・責任だと考えています......
当初、通期で見通しを出した時の想いにも通ずるのですが、基準となる計画に対して、本当に、仕入先、販売店、従業員が頑張って、「何かもっといい方法はないか」「もっと皆を元気にできないか」「我々ができることはまだあるのではないか」と前を向いて頑張ってくれている人たちに、この決算発表で感謝を伝えたかったと思います。
今もコロナ危機と闘い、苦しみに耐えながら、懸命に生き抜こうと努力されている方がたくさんいることは存じ上げております。
まだまだ中間、折り返し地点ではありますが、何とか皆でこの後、第3、4クォーターも頑張っていくという決意をこの場でお伝えしたかったということもございます。 (出所:トヨタイムズ)
どの企業も業績回復に必死になるこの苦境にあって、とても新鮮に感じる。
「皆が「仕事」をすることによって、雇用を守り、利益をあげ、そして、税金を納める」。
中堅社員になりたての頃、トヨタ生産方式を学んだ研修で最初に嫌になるほど叩き込まれる「会社の使命」を、淡々と豊田社長が語られることに少しばかり驚くし、これがトヨタの根幹にあることに改めて思い知らされる。
奇策を用いることなく、粛々と、淡々と自らの強みの「カイゼン」という仕事をしただけということなのだろうか。
「成り行きではない」第2四半期決算
そして、豊田社長はこの結果は、「成り行きではない」と強調したという。
「本日発表いたしましたトヨタの数字はこうした多くの方々の頑張りに支えられた結果です。決して、成り行きのものではございません。すべての関係者の皆様に改めて感謝を申し上げます」 (出所:トヨタイムズ)
この感謝の言葉を伝えるために中間決算の場に出席されたということなのだろうか。
「世界中すべての消費者に感動してもらう」そのためにユニクロはラディカルを追求する
このコロナ渦にあって、ユニクロも元気がある会社のひとつなのであろう。このコロナ渦がユニクロを大きく飛躍させようとしているように見える。それとも、ユニクロが目指していた世界がコロナ渦によって早まってやってきただけのことなのだろうか。
ユニクロに注目が集まれば、それだけ事例分析する記事も増える。
マーケティングの常識が揺れている。
新型コロナウイルス下で消費者は商品の本質を見極めようとしており、これまでの商品開発や広告戦略が通用しなくなってきた。 (出所:日本経済新聞)
日本経済新聞は、ユニクロのマーケティングを担うジョン・C・ジェイ氏にインタビューした日経MJの記事を紹介する。
そのジェイ氏は、「ユニクロは世界で最もラディカル(急進的)なブランドです。私がこれまで仕事をしてきた多くのブランドの中で、最も急進的です」という。
ユニクロの一般的なイメージといえば、シンプルでベーシックなデザインの服ばかり作り、むしろ保守的なブランドでしょう。しかし、インフルエンサーといった一握りの人に選ばれる服を作るのは、簡単です。
「この2年間でマーケティングに起きた変化は過去50年間よりも大きい」とジェイ氏は語る。
「例えば、気候変動や国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)への企業の取り組みが求められ、消費者の環境意識なども大きく変化しています」と指摘し、「欧米企業などは真剣に取り組んでいますが、日本にはまだ伝わっていない。世界と日本で温度差を感じます」と語る。
確かに柳井さんはしきりに「サステナブルはすべてに優先する」と口にする。
また、ジェイ氏は、「多くの企業の問題として、ブランディングやマーケティングを顧客の信頼を得るための投資として利用していないことがあります」という。「長期的なマーケティングの効果が理解されていない」ともいう。
(マーケティングで得られる)信頼は、単なる製品よりも深いものです。短期的な意思決定はリスクを避けがちにもなります。 (出所:日本経済新聞)
ことアパレル関連となると、「マーケティング」の切り口で語られがちだが、突き詰めれば、やはりトヨタと同じように、ただ必死に自分たちの「仕事」をしているだけのことなのかもしれない。言葉の表現に違いはあっても、「仕事」をするということが、他の誰かの幸福とか、感動につながっているのかもしれない。
それがお客様であったり、従業員であったり。その感動の大きさが「売上」になり、「利益」という結果になっただけのことなのかもしれない。
ニューノーマルな生活で変わり始める「豊かさ」
またコロナが拡大し始めているようだ。これから寒い冬に向かうだけに少しばかり心配にもなる。この先、私の暮らしに何か影響があるのだろうか。
意識するしないに関係なく、知らず知らずのうちに「ニューノーマルな生活」を取り入れてきたような気がする。コロナが長引けば長引くほど、それが生活の当たり前になっていくのだろう。
消費行動に変化があれば、企業はマーケティングをやり直して、次の施策を考えたりするのだろうか。
「商品の主役となるのは『お値打ち』ではなく、『シンプル』さだ」と日経ビジネスは指摘する。何か、ユニクロと相通じるものがありそうだし、ユニクロの成功があるからそう考えるのだろうか。
例えば『散らかす(clutter)』という言葉があるが、散らかった生活であるべきではない。
これからはシンプルで、なるべく散らかさない生活を人々は求めていくのではないか (出所:日経ビジネス)
家で過ごす時間が増えれば、こうした生活に変わっていくのは自然な流れなのかもしれない。
Retail Futuristの最所あさみ氏は、「こんまりさんがアメリカで大ブレイクしたのも、「片付ける」という面倒な作業に精神性を付加することで自分と向き合い、真の豊かさと向き合うきっかけに昇華したことが大きかったのではないか」という。
ここ最近の社会での変化が、人々の心理に影響していても何ら不思議はないのだろう。「豊かさ」を感じる対象が変わりつつあったりするのだろうか。
最所氏は、「大金持ちになるために競争するよりも、ゆとりを持って一日一日を過ごし、日々の満足度を高めていきたい」という。
これから「もっと稼ごう」の梯子を降りて「もっと豊かに暮らすには」を考えはじめる人が増えていけば、身の丈にあった「ていねいな暮らし」が自分にとってのラグジュアリーだと感じる人も増えていくだろう。
暮らしを自分の手で営む喜びこそが、日本的な精神として他の文化圏に発信していくべき至宝なのではないかと思うのだ。(出所:最所あさみ氏note「「ていねいな暮らし」は、庶民による庶民のためのラグジュアリー」)
日々の暮らしも、生活の糧の仕事も「ていねい」をもっと大切にしていくべきなのかもしれない。
「関連文書」