「最近SDGsという言葉をよく耳にするものの、企業活動との関連を具体的にどう捉えるべきなのか、いまひとつ釈然としない人も多いだろう」と日経ビジネスはいう。
SDGs、2015年に国際連合で採択された「持続可能な開発目標」のことをいう。
「SDGsという言葉がファッションのように流布していて、本質をよく分かっていない人も“SDGsバッジ”だけを付けている気がする。
投資家が求めるESG(環境・社会・企業統治)投資とも重なる概念があり、自分も含めて本質がよく分からない人が多いのではないか」 (出所:日経ビジネス)
SDGs 取り組まないと「しゃれにならない」
『「SDGs」という便利な言葉が後からできた、という感覚ですね』と話される大和証券グループの田代氏の言葉が印象的だ。
日系ビジネスが、エール株式会社取締役を聞き手にして、大和証券グループ本社副社長のSDGs担当役員である田代副社長にインタビューする。
大和証券グループ本社はSDGsが採択前から、ワクチン債や働き方改革など社会課題の解決に取り組んできたという。
それらは、「SDGsが掲げる健康と福祉の追求や働きがいの実現などの目標に位置付きます」という。
ただ、SDGsが掲げる項目の中で、私たちが取り組んでいなかったことも、もちろんあります。
その部分についても、「取り組まないといけないよね」と比較的素直に受け入れられました。
これまでワクチン債など社会的課題に取り組んできた土壌があったからだと思います。 (出所:日経ビジネス)
「なぜSDGsが必要なのか」、
「限りある地球資源の中で、人類が仲良く平和に暮らしていかないといけない」、
とエール㈱の篠田氏はシンプルな言葉で説明する。
なかでも、何度もキーワードのように出てくる言葉に「ディーセント・ワーク」(Decent Work、働きがいのある人間らしい仕事)というものがあります。
どういう境遇であっても、人間らしく働き、人間らしく暮らすということがSDGsの根っこにあるということがよく分かります。(出所:日経ビジネス)
篠田氏はアジェンダを読んでいると、従来、公的機関だけが取り組んできた問題に、みんなで真剣に取り組まないと「しゃれにならない」という切迫感を感じられるのですという。
地球が今の世代で終わると嘆く柳井氏
ファーストリテイリングが2月2日、「ファーストリテイリング サステナビリティレポート2021」を発行、公式ウェブサイトで公開した。持続可能な社会の実現に向けたビジョンと最新の取り組みをまとめたという。
これに合わせ、柳井社長が会見に登場、「このままでは地球は今の世代で終わりになってしまうかもしれないと考えている」と述べ、「そうならないためには、全世界の人々、企業が、人類全体の将来を考えて、経済活動はどうあるべきか、地球環境はどうあるべきか、自分のビジネスはどうあるべきか、本当に真剣に考えて行動しなければいけない」と訴えたとハフポストが伝える。
柳井氏は「グローバルの人の往来が止まり、各国の経済が停滞。世界の大国の間で政治的・経済的対立が激化し、そのことがビジネスの現場にも深刻な影響を与えている。まさに危機的な現状だと思う」と指摘。
このような状況下で必要なことは、「世界中の個人や企業がポジティブに考えて、すぐに行動し、力を合わせてピンチをチャンスにする」ことだと述べた。 (出所:ハフポスト)
柳井氏の言葉が、会見のたびに先鋭化しているようにも感じる。
コロナ渦、米国での政権移行など、変化の激しいときだけに、強い危機感をお持ちになっているのだろうか。
利他主義
公開された「サステナビリティレポート2021」では、フランスの思想家で経済学者でもあるジャック・アタリ氏との対談が記されている。
アタリ氏の最新著作『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』に書かれている「健康、教育、衛生、食料、農業、クリーン・エネルギー」……こういった分野が、次世代のために大きな役割を果たすことになると柳井氏は指摘する。
「そうです。「命の経済」を大事にする社会が、次世代を大事にする「ポジティブソサエティ」なのです」と、ジャック・アタリ氏は答える。
危機的な状況を経験し、それが壊滅的なかたちで終わってからでないと、人類は賢明になることができない──。
そのような見方はしかし、悲観的に過ぎます。そうなる前に、くいとめようとする力をつくり出すのが合理性であり、知性というものです。
紛争を避ける方法は多くあると考え、世界をより良い方向へと動かしてゆく、そのために行動を始める──ポジティブソサエティの根本的な考え方、姿勢とは、そういうことだと私は考えています。
人類と環境の紛争とも言える環境問題も、文化のちがいによる軋轢についても、同じです。ポジティブソサエティの根幹となる利他主義こそが、解決に向けての行動へとつながる起点であり、原動力になるでしょう。 (出所:ファーストリテイリング サステナビリティレポート2021)
アタリ氏は柳井氏との対談で、「独自の価値観を訴求する力と立場を持つ企業が、ポジティブソサエティのリーダーとなって社会を動かしていくことは可能です」といい、「そのような企業が、ポジティブカンパニーなのです」という。
そして、「これからは企業姿勢の中心に利他主義を据えて、企業活動のなかでその責任を、果たしていかなければなりません」といい、「ファーストリテイリングはその一つのモデルとなる役割が与えられていると思います」と、ファーストリテイリングに期待を寄せる。
サステナブル
ハフポストによれば、柳井氏は「サステナブルであることはすべての前提である」とした上で、「会社の存在そのものが社会をよりよくする会社になるために、我々は本気で行動することをお約束します」と強調したという。強いリーダーシップを感じる。
ファーストリテイリングの社員たちは、どんな感情をもって柳井氏と仕事しているのだろうか。同じように本気で、真剣に「サステナブル」を考えているのだろうか。
NHKによれば、ファーストリテイリングが初めて二酸化炭素の排出量の数値目標を示し、2050年までに事業活動で排出される二酸化炭素を実質ゼロにするとしたという。
利他の精神は、お客さま、社会と目を向けさせる。それには、従業員も含まれる。そうした精神が会社一丸で貫かれれば、利他の精神を基本としたSDGs達成に近づいていくということなのかもしれない。
「一番大事なことは、自分の気に入った服を長く愛用するということ。今年買った服が去年、2年前に買った服に合うことなんじゃないか」
と柳井社長が会見で述べたという。
さらに、「そういうことを、小売業、ファッション産業と一緒にやっていきたいと考えている」と語ったという。
ファーストリテイリングの社員たちは働き甲斐を感じているのだろうか。業績を見れば、そうあるようにも思う。
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