「深海底に沈むプラスチックごみの実態はほとんど知られていない」と、JAMSTEC 国立研究開発法人海洋研究開発機構はいう。
深海ごみの実態は研究例が少なく、特に、大深度の海底におけるプラごみの情報は世界的にみても極めて乏しく、実態の解明が急務となっているとそうだ。
その実態を解明するため、日本近海で大量のプラスチックごみが集積されていると予想される海域の1つ、房総半島沖の「黒潮続流・再循環域」の深海を調査したという。
海洋プラごみ行方不明問題
毎年1,000万トンを超えるプラスチックごみが海洋に流入し続け、その海洋プラの内、海岸などに漂着せずに、海を漂い続けているプラスチックスは約4500万トンあると推測されているという。しかし、実際の観測を基に計算してみると約44万トンしか説明できないとJAMSTECはいう。
残りの大部分は表層から姿を消し、「行方不明」であり、深海底がプラスチックスごみの最終的な集積地となっていると考えられるが、その実態はよくわかっていないという。
シミュレーション
日本近海の表層に浮かぶマイクロプラスチック量は他の海域に比べて多いことが先行研究(Isobe et al. 2015)で明らかとなっており、日本周辺の深海底には極めて多量のプラスチックごみが集積していると予想されていました。 (出所:JAMSTEC)
東アジアや東南アジア諸国から漏出するプラごみが海洋に流入する量の約半分を占めているという。これら排出地域から漏れ出たごみの一部は黒潮に乗り、日本近海を北上する。その黒潮は、四国沖で「黒潮・再循環域」を作り、房総半島沖では「黒潮続流・再循環域」を形成するという。これら海域の表層では海流が大きく渦を巻いて循環しているという。
JAMSTECの事前予想では、黒潮によって日本を含む東アジアから運ばれてきたプラスチックごみが渦に巻き込まれて集積・沈降し、その海底下には巨大なごみだまりが形成する。この2つの再循環域が深海ごみの集積場所と予想したそうだ。
「行方不明のプラスチックスを探しに深海へ」
プラごみ集積が予想される房総半島沖 水深6,000m付近の深海平原を調査したという。
広がる深海でのプラごみ汚染 = 実態調査
2019年9月、有人潜水調査船「しんかい6500」を使って、房総半島から500kmほどの沖合にある「黒潮続流・再循環域」の直下の深海平原(水深5,718−5,813m)で実態調査を行ったそうだ。その結果、この深海平原にもプラごみ汚染が広がっていることが明らかとなったという。
見つかったごみの大部分(8割以上)はポリ袋や食品包装などの「使い捨てプラスチック」でした。
昭和59年(1984年)製造と記された35年以上前の食品包装がほとんど無傷かつ印刷も鮮明なまま見つかり、水温の低い深海ではプラスチックがほとんど劣化しないことがわかりました。当該海域の深海底に到達したプラスチックは、極めて長い時間残り続けると考えられます。 (出所:JAMSTEC)
そこでの、プラごみの密度は平均4,561 個 km-2となっており、過去に記録された深海平原におけるプラスチックごみと比べて2桁も高く、海溝や海底谷など、ごみなどが集まりやすいと考えられる窪地と比較しても高い値を示しましたという。
NHKによれば、一方、 陸に近い、沿岸からおよそ20キロの相模湾の水深1400メートルの海底では、プラごみの量は1平方キロ当たり1950個と推計され、比較的少なかったという。
今後の調査 = プラごみ生命圏
JAMSTECによると、海洋の表層ではごみに特異的な微生物群集やごみの増大により生息域を広げる生物など、ごみ生命圏の存在が明らかとなっているそうだ。深海底で大量にごみが集積する場所が見つかれば、深海ごみに特異的な生物群集が見つかる可能性もあるという。
東アジアの大量排出域や日本南方から黒潮にのって運ばれるごみは、四国沖の「黒潮・再循環域」にもトラップされ、その表層に長時間滞留する可能性が想定されます。
ここでは時計回りの巨大渦の形成が通年安定しているため、その表層ではこれまでに類を見ない高濃度のごみが集積している可能性が高く、また、その直下には表層から供給されたごみが大量に溜まり続け、局所的に巨大なごみ溜まりを形成していることも想定されており、今後調査を実施していく予定です。 (出所:JAMSTEC)
JAMSTECは、今後の展望とし、「黒潮がプラスチックごみを運び、海底へと輸送するメカニズム、さらに輸送されるごみの量、日本周辺の深海底に広がるプラスチックの存在量を明らかにし、行方不明プラスチックの隠れ場、ひいてはプラスチックごみ生命圏の実体を明らかにしていく予定です」という。
廃プラスチックスからメタノールを作る
アクリル(PMMA)などを生産する三菱ガス化学が、バイオマスなどの非化石原料やにプラスチック廃棄物等をリサイクル原料にしたCO2を含む多様なガスからメタノールを作る製造技術を新規に開発、2023年内に、この製造技術のライセンス供与を開始すると発表した。
プラごみの海洋流出の原因のひとつに埋立地から漏れ出ることがあげられている。
こうした技術を海外移転し、プラごみ処理の一助とし、海洋流出防止に役立てればいいのかもしれない。
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