Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

【賢い選択なのか】ポルシェはEVシフトのためバッテリー工場を作り、なぜか eフューエルの工場も作る

 

 EV電気自動車がカーボンニュートラルの切り札と語られる。少なからずとも主要国ではEVの普及が政策の中心のひとつになっている。EUでは、2035年までにガソリン車の新車販売を、事実上禁止する案をどこよりも早く発表し、その中にはHVハイブリッド車も含まれる。自動車メーカ各社のEVシフトを加速させたい思惑があるのだろう。

 欧州には、CAFEと呼ばれる企業平均燃費規制があり、2020年からこの規制が強化された。完成車メーカーに対して課す総販売台数の二酸化炭素排出量の平均値の上限を走行1km当たり130gから95gに引き下げた。完成車メーカーはこの基準を1g超えるごとに、その年に販売した新車1台当たり95ユーロの罰金を支払う必要があるという。

自動車「脱炭素」規制めぐる米国 vs. 欧州の興味深い立ち位置 | Business Insider Japan

 Business Insiderによれば、独フォルクスワーゲンの場合、CAFE規制に及ばず、1億ユーロ(約130億円)を超える罰金を科されたという。

 

 

 今や自動車は生活にかかせなくなっている。コロナ渦にあっていち早く自動車産業が回復に向かったのもその証なのだろう。その自動車からの二酸化炭素の排出を減らすことは科学的知見もあってのことだろうが、ごく自然なことのように思われる。

 しかし、世の中には分析を専門する人たちもいて、その流れに疑問を投げかける。

楽観主義者はドーナツを見て、悲観主義者はその穴を見る」ということかもしれない。

 TechCrunchによれば、そういう人たちは、従来型の自動車からEVへの置き換えが進んでも、世界の二酸化炭素排出量削減の効果はあまり大きくないという。それどころかかえって排出量を増加させてしまう可能性もある、というのだ。

【コラム】材料、電池、製造の炭素排出量を積み上げたEVの本当のカーボンコスト | TechCrunch Japan

問題となるのは、発電時の炭素排出量ではない。

顧客がEVを受け取るまでに発生する、私たちが気がついていない炭素排出量、すなわちバッテリーの製造に必要なすべての材料を入手し、加工するという迷路のように複雑なサプライチェーンで発生する「エンボディド・カーボン(内包二酸化炭素環境負荷の指標)」のことだ。(出所:TechCrunch)

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 TechCrunchの記事はリチウムイオン電池の製造において発生するであろう、膨大な二酸化炭素の排出を問題視し、特にレアメタルなどの資源採掘の問題を指摘する。それに加え、その炭素排出量の増加を改善させる現在考えられている方法にまで疑問を呈す。

それにはバッテリーの化学的性質の改善(1kWhの蓄電に必要な材料の削減)、化学プロセスの効率化、鉱山機械の電動化、リサイクルなどが挙げられ、いずれも「避けられない」あるいは「必要な」解決策とされることが多い。

しかし、EVの急速な普及を想定した場合、これらはいずれも大きなインパクトがあるものではない。(出所:TechCrunch)

 

 

EVにおける炭素排出量削減に関する主張は、詐欺とまではいかなくても、操作の対象となることが避けられない」。

 どんな科学的知見も、それが100%正しいことはない。最新のテクノロジーを駆使しても正確な天気予報ができないことと同じだ。そこには、仮定や推測、曖昧さがある。

 記事は、バッテリー化学や採掘の革命を待つまでもなく、技術者は目標を達成するためのより簡単で確実な方法を開発済みだと指摘し、燃料使用量を最大50%削減できる内燃機関はすでに存在しているという。そうした燃費の良い自動車を購入を推奨すれば、3億台のEVが供給されるよりも早く実現でき、安価という。そしてその検証は透明で、不確実性は存在しないという。トヨタの主張に近いのだろうか。

現実的な解を求める一方で、さらに良くしていこうとするなら、常に新たな技術開発していかなければならない。それがまた新たな疑問を生み、分析の専門家の研究対象になるのかもしれない。こうした人々がいてこそ技術の進歩がある。なぜなら批判があれば、新たな課題発掘が容易になる。ときには辛辣な批判がお宝になることもある。

 

 

 独ポルシェが、EVシフトを加速させるため、ドイツ国内の工場でEV用電池を生産する計画するが、その一方で、南米チリに、eフューエル(合成燃料)の新プラントの建設を進め、2022年から生産する予定だという。

【環境負荷の低い燃料】ポルシェ 合成燃料工場の建設開始 ガソリンに代わる新しい選択肢 | AUTOCAR JAPAN

プラントではチリ南部の気候条件を利用して風力による稼働を行う。2022年に操業を開始し、2024年には5500万L、2026年にはその約10倍を生産する予定だ。(出所:AUTOCAR JAPAN)

「eフューエルは、内燃機関プラグインハイブリッド車に使用でき、既存の給油所ネットワークを利用できるなど、その応用のしやすさが特長です」と、ポルシェのオリバー・ブルーメCEOが語っているという。

 科学的知見にもとづいた現在の政策には従うが、そのリスクを鑑みて、バックアップも準備しておくという、賢い選択なのかもしれない。

 時間が経過すれば、事実が積み重なり、さらに予見がアップデートされ、精度も上がり、おのずとその結果が現れる。そのとき、バックアップがあれば、慌てずに済みということなのだろう。

 

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