Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

なぜ「人的資本」が重要視されるのか、企業はもっと人に投資するようになるのだろうか

 

「人的資本」というワードに注目が集まるようになっているのでしょうか。脱炭素化やデジタル化、コロナ禍など経営環境の変化が顕在化し、これによって生じた人々の意識の変化が背景にあるようです。

 経済産業省は以下のような事例を示しています。

✓ デジタルスキルの習得が間に合わず、新たなツールに順応できない主に 50代の社員と、若手の社員の間で、コミュニケーションの齟齬と価値観の相違が生じている。

✓ 脱炭素化の進展で、化石燃料を使用する分野に従事する社員が、自分のスキルが陳腐化することに不安を覚えるものの、他のスキルの獲得や、他の部門への異動には踏み出せないでいる。

✓ 長引くリモートワークにより、各部署の目標や、個々人の役割分担について認識を共有しづらくなり、組織全体の管理コストが上がっている。

出所:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~

 実際にありがちな事例なのでしょうか。しかし、こうしたことが、経営戦略と人材戦略の連動を難しくいているといいます。

 

 

 海外では以前から、「人的資本情報」の開示に向けた機運が高まっていたそうです。また、それが非財務情報の中核に位置するようになり、単なる情報開示ではなく、実際の経営課題としても重みが増しているといいます。

 経済産業省が公表した報告書( 人材版伊藤レポート2.0)では、この人的資本経営を本当の意味で実現するためには、「経営戦略と人材戦略を連動させるための取組」が重要とします。

 公表した報告書は、そのための人的資本経営という変革を、どう具体化し、実践に移していくかに主眼を置いているといいます。また、こうした変革を通じて、日本社会で働く個人の能力が十二分に発揮されるようになることも期待しているそうです。

それはとりもなおさず、今でも社会の一部に根強く残る、画一的な雇用システムから個人が解放され、社会全体として、個人のキャリアがますます多様化することでもある。

出所:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~

 そうした社会では、リスキルや学び直しの価値が社会全体としても評価され、多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、失敗してもまたやり直せる社会へと転換していくと報告書はいいます。

 そして、その結果として、企業の付加価値につながる変革やイノベーションが起こっていくともいいます。

 

 

 企業は経営不振に陥れば、リストラ 構造改革を実行し、事業の取捨選択を行い、人員適正規模に整理します。しかし、改革がそれで終わってしまったなら、経営不振が再び起きかねません。経営不振も突き詰めれば、人を起因として起こるものではないでしょうか。卓越した企業文化や人事システムがあれば、それを避けることはできるのかもしれませんが、それらが錆びつくことで、やがて組織が硬直し、経営不振になっていくのかもしれません。

.....しかし、世界は変化する。いずれ、ルールや指針た慣習が、組織本来の任務との関連性を失っていくのは避けられない......(引用:巨象も踊る ルイス・ガースナー

 企業文化や人事システムが、正しく人によってメンテされていなければならないのでしょう。

 企業文化とは、「卓越した顧客サービス」、「優秀さ」、「チームワーク」、「株主価値」、「社会的責任」、「誠実」といい、そして、経営そのものもと、IBMの元CEO ルイス・ガースナーはいいます。

成功している組織はすべて、その組織の偉大さをもたらす要因を強化する文化を確立している。(引用:巨象も踊る ルイス・ガースナー

「組織はそれを構成する人々が全体とし、どこまでの価値を生み出せるかで決まる」ともいいます。

 

 

 ルイス・ガースナーIBMのCEOを務め、改革を実行したとき、「完全性の追求」「最善の顧客サービス」「個人の尊重」を基本信条にしたそうです。

できるのは企業文化が変わる条件を作ることだけだ。

動機付けを与えることならできる。市場の現実を示し、目標を設定することはできる。しかし、その後は信頼するしかない。結局のところ、経営陣が文化を変えるわけではないのだ。経営陣は社員に、自ら文化を変えるよう招待するだけである。(引用:巨象も踊る ルイス・ガースナー

 IBMの改革では、初期には戦略が練られ、ビジネスモデルが転換され、そして、改革後半には企業文化を変え、その定着に時間が費やされていきます。企業文化なくして持続的な成長は叶わないということなのでしょうか。

 経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」でも、「自社が社会・環境にどのようなインパクトをもたらすべきか、という観点から、企業理念や企業の存在意義を再考する。
また、自社事業の成功につながる社員の行動や姿勢を企業文化として定義し、浸透を図ることで、企業の競争力向上に貢献する」と指摘し、企業文化の重要性を説いています。

経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~

 DX デジタルトランスフォーメーション、GX グリーントランスフォーメーション、様々なトランスフォーメーション、変革が求められるようになってます。こうした変革を遂行していくにもまた、卓越した企業文化と、報酬・給与体系、目標・モチベーション管理などの優れた人事システムが必要不可欠なのかもしれません。

 結局、変革は人によってなされるものなのですから。

 

「参考文書」

「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました (METI/経済産業省)

人的資本開示で経営刷新: 日本経済新聞

人を大事にしない企業が丸分かりに? 「人材版伊藤レポート 2.0」が示す成長可能な企業のポイント:編集部コラム - ITmedia エンタープライズ