東北電力の女川原発2号機が東日本大震災から13年7カ月たちようやく再稼働しました。被災地に立地する原発で初めてのことといいます。しかし、予定した発送電は危機のトラブルで延期となり、点検を経て、原子炉を起動することになりました。
東北電力、女川原発2号機の発送電延期 原子炉止め不具合点検へ - 日本経済新聞
再稼働した原子炉をとめなければならなかったのは、発電機の試験中に原子炉内の中性子を計測する機器を入れる際、途中で動かなくなったためで、配管接続部分のナットの締めつけが不足が原因だったといいます。13年間、稼働を止めていたことによる悪さなのか、それとも原発稼働マネジメントの弱さなのか、どちらなのでしょうか。
女川原発2号機は、福島第1原発と同型の沸騰水型軽水炉 BWRで、西日本ですでに再稼働した12基の加圧水型軽水炉 PWRと比べ、事故時に放射能を閉じ込める格納容器の容積が小さく、新規制基準適合に必要な審査項目や対策工事も多く、大幅に遅れることになったそうです。
対策多く、審査・工事に時間 福島第1原発と同じ「沸騰水型」―女川原発:時事ドットコム
しかし、当初、16年3月に完了予定だった安全対策工事は7回延期され、結果8年遅れることになったといいます。電力を安全に、安定的に、そして安価に供給しようという電力会社の本分を忘れてはいないでしょうか。その意識があれば、事故のリスクがゼロにならないという困難さがあるにしても、それをミニマイズ化させようと努力し予定通り稼働させるはずです。そのためにはマネジメント、管理能力を徹底的に磨き上げることも問われます。こうした意識の欠如が甘えとなって言い訳を許し、遅れにつながったということはないのでしょうか。
再稼働にこだわるのであれば、安全確保のため、引き続き監視し、定期監査によって確認していかなければならないのでしょう。そうすることで原発運転のノウハウが蓄積されていくのではないでしょうか。
完成しない核燃料サイクル
原子力発電所から出る使用済み核燃料を一時預かる中間貯蔵施設が全国で初めて、青森県むつ市で稼働したそうです。この中間貯蔵施設は東京電力と日本原子力発電の原発からでる使用済み核燃料を再処理するために一時的に保管する役割を担うそうです。再稼働を目指す東電 柏崎刈羽原発にたまる使用済核燃料をまずは保管するといいます。
一方、使用済核燃料再処理工場の完成はたびたび延期されています。この再処理工場が稼働しなければ核燃料サイクルが完成せず、中間貯蔵施設に使用済燃料がたまり続けることになるといいます。原発推進に欠かせない核燃料サイクル、完成時期が見通せないようです。こうした実態が原発への信頼回復を鈍らせてはいないでしょうか。
青森県六ケ所村にあるこの施設を運営するのは日本原燃。このずさんな状態を見かねてなのか、電気事業連合会が経営支援に乗り出すそうです。
電事連、日本原燃への経営支援を強化 再処理工場遅れで - 日本経済新聞
電事連はこれまで、審査対応などを支援する人員約100人を日本原燃に派遣してきたそうです。今後は、経営会議に電事連の副会長が出席して、進捗の把握や助言を行い、早期の完成を後押しするといいます。
この日本原燃は、電事連に加盟する電力会社と日本原子力発電が出資して設立された会社で、社長は東京電力から、また取締役は、各電力会社や原子力関連法人、日立、三菱重工、東芝などからむかえているそうです。
お粗末な原発の実態
原子力規制委員会が先日、日本原電の敦賀原発2号機の再稼働を認めない判断をしました。日本原電はあくまでも再稼働を目指すようで、こちらでもまた電事連が支援するそうです。電事連の林会長は原子力発電の必要性は揺るがないと、支援する理由を述べています。
敦賀原発2号機 電事連会長“再稼働の取り組み支援” | NHK | 各地の原発
日本原電は大手電力5社から13年間に計約1兆4500億円を受け取り運営されてきたといます。しかし、現時点では保有する原発4基はどれも再稼働できない事態になっています。ガバナンス、マネジメント、企業経営のすべてがおかしくなっているとしか思えてなりません。原子力発電を担う事業者としては失格ではないでしょうか。
日本の原発関連があまりにもお粗末に見えます。コストがかかりすぎているうえに、生産性も悪そうです。こんな状態のままではとても安価な電気価格の実現はありえません。
社説:党首選の論点 強まる「原発回帰」 負の側面語らぬ思考停止 | 毎日新聞
事故の教訓に目をつむり、既成事実化を図るようでは思考停止というほかない。 「負の側面」を真正面から議論すべきだ。(出所:毎日新聞)
地に落ちた原発への信頼をいかに回復させるのか、解決しなければならない課題が多々ありそうです。福島原発では、溶け落ちた燃料デブリの取り出しに難航し、政府が目指す51年の廃炉完了が危ぶまれています。関連技術の開発の弱さも気になります。
AIの普及と原発推進
脱炭素に加え、AIの爆発的普及に伴う電力需要の急増に対応するため「原発推進」が、世界的な潮流となりつつあるといわれます。すでに米国ではIT大手が原発活用に動き始めています。
Google・Microsoftが原発推進 AIの電力需要急増で選択迫られる日本:日経ビジネス電子版
スリーマイル島原子力発電所1号機を再稼働させ、AIで使用するデータセンターに20年間にわたり電力を供給を受けるのはマイクロソフト。 スリーマイル島原発は1979年に、2号機でメルトダウン炉心溶融する事故がありましたが、今回、2300億円を投じて安全対策を進めて、原子力規制当局の許認可を得たうえで、2028年までに1号機を再稼働させるそうです。
こんなことに振り回されてはならないのでしょう。むしろ原発関連技術の劣化、そして遅れを嘆くべきなのかもしれません。根本的に見直し、最適なスキームを作り直さないと本来の目的の実現もままならなくなりそうです。未曾有の原発事故を経験した日本の原発政策、エネルギー基本計画はどうなっていくのでしょうか。
「参考文書」
女川原発2号機の原子炉を再起動 東北電力、19日までに発送電 - 日本経済新聞
東北電、女川原発2号機を再稼働 13年ぶり、大震災被災地で初 | 共同通信
青森の中間貯蔵施設稼働、搬出先は見通せず 回らぬ核燃料サイクル - 日本経済新聞
デブリの試験的取り出し成功 事故後初、廃炉向け一歩―東電福島第1原発:時事ドットコム
原発・出口なき迷走:原発は「脱炭素電源」か 続々と回帰する世界 日本はどうする? | 毎日新聞
三菱重工・日立、原発技術者育成に動く 国民民主躍進で政策転換の兆し :日経ビジネス電子版
エネルギー基本計画に「原発新増設」の現実味 主導役は国民民主か:日経ビジネス電子版
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