秋の味覚に異変あり 🐟🦑。不漁が続いたサンマやイカが、今年は豊漁が続き、価格もかつてのうれしい値段が戻ってきたようです。
サンマ漁獲量が前年超え、6年ぶり水準 黒潮大蛇行終息でエサ豊富か - 日本経済新聞
サンマの漁獲量は、10月中旬に4万トンに達し、前年実績の3万8千トンを超えたといいます。4万トンを上回るのは2019年以来6年ぶりのことだそうです。一方で、カツオは不漁が続き、戻りガツオの漁獲量が伸び悩んでいるといいます。カツオの水揚げ量が28年連続1位の気仙沼では深刻な状況といいます。
魚によって「明暗」がはっきり。この劇的な変化の背景に、過去最長7年9か月続いた黒潮大蛇行が2025年4月に解消した影響があるようです。
黒潮大蛇行の終息と漁業の「明暗」 🌊
黒潮大蛇行とは、日本の本州南岸を流れる黒潮が紀伊半島沖で大きく南へ蛇行する現象です。2017年8月に発生したこの大蛇行が2025年4月に終息したと、気象庁と海上保安庁が、2025年8月29日に発表しました。この期間は7年9か月に及び、観測史上最長でした。
【サンマは再び庶民の味に?】
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) 2025年8月29日
黒潮「大蛇行」終息、過去最長の7年超https://t.co/kHojJX4MOW
近年相次ぐ豪雨や高温などの異常気象はこの大蛇行が一因との指摘もあります。「世界三大漁場」の一つとされる三陸沖の漁業にも大きな影響を及ぼしてきました。 pic.twitter.com/6uE46wB97A
黒潮が大きく南に蛇行すると、サンマの漁場が沖合に遠ざかり、漁獲量が激減する一因になったいたといわれます。大蛇行の終息により、サンマが例年通り日本の近海に戻りやすくなった可能性が指摘されています。これにより、豊漁につながっているといわれますあ。
スルメイカなども同様のようです。スルメイカは東シナ海で産卵し、稚イカが黒潮に乗って北上・成長しますが、大蛇行によって潮流が変わったことで、漁獲量が激減したと言われています。 黒潮が本来の流れに戻り、イカが獲れていた頃と同じような潮の流れとなって、漁獲量の回復に期待が寄せられているといいます。
一方、カツオなどの暖水を好む魚は、大蛇行によって沿岸に近づいていたものが、流路の復元により遠ざかったとの懸念があるそうです。
科学の現在地:身近な現象も「未解明」な海洋の謎 🔬
しかし、黒潮大蛇行の解消が豊漁・不漁の直接的な原因であるとは、まだ科学的に証明されていないそうです。わかっていることは、過去のデータから黒潮の流路と漁獲量に強い相関関係があることは確認されているといいます。
なぜ海流が変わると魚の群れが移動するのか? 生態学的な詳細なメカニズムや、大蛇行がなぜ発生し、なぜ終息するのかという根本的な物理メカニズムは、依然として完全には解明されていないといいます。
黒潮研究
現在の黒潮大蛇行についての研究は、JAMSTEC 海洋研究開発機構が中心的な役割を担っています。
2025年11月22日までの黒潮「長期」予測(JAMSTEC 2025年9月25日発表)
研究テーマは、「黒潮流路の予測」、「大蛇行のメカニズム解明」。メカニズム解明においては、九州南東沖の「小蛇行」がどのように大蛇行へと発達し、長期間安定して維持されるのかという発生・持続の物理メカニズムの解明に取り組んでいるといいます。
また、この他にも「海洋・気象への影響評価」も研究し、黒潮の変動が海洋熱波や沿岸の海水温上昇を通じて、日本の気象(猛暑、豪雨)に与える影響の評価を、高解像度の気候シミュレーションを用いて実施しているといいます。

JAMSTECの他、複数の大学が、黒潮の変動がもたらす影響のメカニズム解明に取り組んでいます。また、水産庁関連の水産研究・教育機構が、黒潮の変動が漁業に与える影響に特化した研究を行っているといいます。
テクノロジーの進化と「謙虚さ」
この黒潮大蛇行の事例は、地球そのものが持つ巨大なシステム、特に海洋のダイナミクスがいかに複雑で、いまだに多くの謎を秘めているかを改めて教えてくれています。特に海は、その広大さと深さから「最後のフロンティア」とも呼ばれ、未だに月の表面よりも探査が進んでいない領域が多いともいわれます。今回の黒潮の事例は、テクノロジーの進歩に慢心することなく、自然に対する謙虚な姿勢と、基礎的な探求を続けることの重要性を私たちに示しています。
気候変動という「最大の未解明問題」 🌡️
「未知なるものの多さ」で言えば、地球温暖化・気候変動という問題もまた同様です。気候変動は、海洋、大気、氷床、生物圏という地球のすべてのシステムが絡み合う、極めて複雑な現象です。テクノロジーが進化してもなお未知の部分や複雑性が多く残されています 🌍。テクノロジーの進歩、スーパーコンピューターや衛星観測により、気候変動の基本的な傾向はわかっても、地域ごとの正確な影響や、氷床崩壊などの不可逆的な「ティッピング・ポイント」がいつ訪れるのかは、科学者にとっても最大の未解明要素になっています。
「ティッピング・ポイント」とは、地球システムが元に戻れない状態へと一気に移行してしまう転換点のことです。
グリーンランドや西南極の巨大氷床が、温暖化によってどれだけ早く溶け出し、不可逆的に海面上昇を引き起こすか。アマゾンの熱帯雨林などが干ばつによって大規模に枯死し、二酸化炭素の吸収源から排出源へと変わる転換点がどこにあるのか。海底に眠る大量のメタン(強力な温室効果ガス)が、海水温上昇により放出される臨界点がどこにあるのか。これらを正確に予測するモデルはまだ確立されていません。これらは、気候予測モデルの最大の不確実性要因となっています。
地球全体の平均気温の上昇傾向は予測できても、私たちが生活する地域ごとの気象がどう変わるか予測するには、まだ不確実性が伴います。ある年に特定の地域で記録的な豪雨や熱波が発生する頻度が、温暖化によってどれだけ増加するのかを正確に予測することは、黒潮大蛇行の影響を予測するのと同じように困難です。
海洋は地球上のCO₂の約30%を吸収していますが、その吸収能力が今後どう変化するかも未知数です。黒潮のような大循環の変化や、表層水の酸性化が進むことで、海洋生態系(プランクトンなど)によるCO₂吸収のメカニズムがどう変化するかは、今後の研究課題です。
このように、気候変動の問題は、人類の文明と未来に直接関わる重大な課題であるにもかかわらず、その全貌の解明には、さらなる科学の進歩と国際的な研究協力が不可欠な状況になっています。

まとめ
この身近でおきた秋の味覚の変化は、地球というシステムの複雑さと、私たちがまだ知り得ない海の巨大な力を示唆しています。この「わからないこと」の現実こそが、テクノロジー、科学技術を進歩させる源泉になるのではないでしょうか。しかし、テクノロジーは現象を「観測」し「予測」する能力を高めてくれますが、どんなに進化しようが「創造」や「制御」はできません。それゆえ、私たちは自然に対して常に謙虚である必要があるのではないでしょうか。
「参考文書」
北海道:小型イカ釣り漁船が22日から休漁へ…水産庁の定める漁獲枠を超えたため:地域ニュース : 読売新聞
大きなサンマはこの辺りで取れそう!◆AIの漁場予測が進化、サイズ別に表示へ【大漁!水産部長の魚トピックス】:時事ドットコム