前回、私たちはロケット開発という国策の場で、**TPS(トヨタ生産方式)という世界最強の哲学が組織のサイロ化によって力を失い、SpaceXに遅れをとった現状を見ました。
【サイロ化するニッポンの未来への問い②】哲学の喪失と海外依存—SpaceXのリーン生産と日本の高コスト体質 - Up Cycle Circular’s diary
しかし、この「哲学の停滞」と「サイロ・エフェクト」**が最も深刻で、私たちの生活に直結する分野こそ、エネルギー政策です。
ガソリン減税の矛盾に見られるように、目の前の電気料金や燃料代の問題は、目先の政治的な解決策によって覆い隠されがちです。しかし、その根底にあるのは、電力業界・政治・官僚が長年かけて作り上げてきた、**強固な「文化のサイロ」**なのです。
電力業界に立ちはだかる「既得権益のサイロ」
日本のエネルギーインフラは、長らく「地域独占の電力会社」という強固な構造によって支えられてきました。これは、安定供給という絶対的な価値を生んだ一方で、市場競争や効率化の哲学を遠ざける「巨大なサイロ」を生みました。
このサイロは、ジリアン・テット氏の指摘する「サイロ・エフェクト」をさらに強固にする、以下のような「ボーイズ・クラブ」的な結びつきによって、難攻不落の壁となっています。
- 政治家と業界の結託: 企業・団体献金や組織票という形で、特定のエネルギー産業と政治家が持ちつ持たれつの関係を築いています。これこそ、前回指摘した、「国民全体の利益」を覆い隠す資金的なサイロのパイプです。
- 官僚と業界の移動: 政策を立案する官僚が退職後に業界団体や電力会社へ天下る構造は、**「政策決定の公平性」**というサイロを壊し、業界の利益が国家の哲学として優先される土壌を作ります。
この結果、**「安価で持続可能な電力システム」**という新しい哲学が外部からもたらされても、サイロ内の既得権益がそれを防衛するために、規制やコスト増という形で排除されるのです。
「失敗を許さない」文化の硬直性
この文化のサイロがもたらす最大の弊害は、**「アジャイルな改善ができない」**ことです。欧米諸国が、「速く失敗し、速く学ぶ」というリーン・スタートアップの哲学をエネルギー分野にも適用し、太陽光発電や蓄電池などの分散型システムを積極的に試行錯誤しているのに対し、日本はどうか。
- 大規模な既存システムを維持することが最優先され、海外で進む「市場原理に基づく自由なエネルギー取引」や「家庭・企業でのエネルギー自給」といった新しい哲学を、硬直した送電網や規制の壁で受け入れることができない。
- かつてTPSの哲学が目指した「ムダを恐れず、常に現状を否定し、カイゼンし続ける」という精神は、このエネルギー政策の領域では、「失敗は絶対に許されない」という同調圧力によって窒息させられています。
日本のエネルギー政策の議論においては、コスト削減やイノベーションが優先されず、「誰の責任でもない状態」を維持することに、政治的・組織的なエネルギーを注いでいるようです。
未来への突破口
しかし、私たちは立ち止まる必要はありません。このサイロの壁は、「国民全体の意思」と「新しい哲学」によって必ず打ち破れます。
私たちは、ガソリン減税や電気料金の値上げといった目の前の問題に対して、「なぜ、海外は安くできるのに、日本はできないのか?」と問い続けるべきです。この問いは、硬直化したサイロへの「哲学的挑戦状」です。
企業・団体献金の廃止は、資金的なサイロのパイプを断つ重要な一歩です。そして、エネルギー政策を「国民全体の利益と、COP30で誓った地球規模の脱炭素」という、一貫した一つの哲学のもとに再構築し、政治家、官僚、業界に対して透明な説明責任を求めることこそが、この硬直した文化を変えるための確かな道筋です。
エネルギーの未来は、決して特定の誰かや特定の業界に委ねられるものではありません。私たち国民一人ひとりが当事者となることで、日本は再び、世界に誇れる強靭で安価なエネルギーシステムを構築できるはずです。
次回予告: 最終回では、この連鎖するサイロを打ち破るための具体的な道筋、そして日本が持つ潜在的な「哲学」の力を探ります。
「参考文書」
米政策転換でも世界の再生可能エネルギー拡大へ IEA報告書 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
エアコン需要、2050年までに3倍以上に 国連が警告 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
再エネの発電設備、日本製停滞 海外メーカー高いシェア | NEWSjp
パワーエックス伊藤正裕社長CEO「日本をエネルギー自給国に」:日経ビジネス電子版
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