今、日本で**「哲学」や「リベラルアーツ」への関心が高まっています。これは、世界がVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)**の時代と言われ、過去の成功法則が通用しなくなったからです。特に日本では、長年の懸案である少子化、財政、そしてエネルギーなど、さまざまな問題がいつまでも「解決されないまま」放置されています。
なぜ、私たちはこれほど優秀で真面目な国民性を持っているのに、簡単な問題さえ解けないのでしょうか?
その答えを、今政治の場でも議論されている物価高騰対策、特に電気・ガス料金の補助金導入から分析してみましょう。これは単なる経済対策ではなく、日本の構造的な病理が凝縮された事例です。
1. 衝撃の事実:「無料の恩恵」と「補助金のツケ」 💸
🌍 豪州の「常識を覆す哲学」
まず、海外に目を向けます。オーストラリアでは、大規模な太陽光発電と屋根置き型太陽光の普及の恩恵で、昼間の時間帯に発電量が需要を大幅に上回る**「昼間余剰」**が発生するようになりました。
オーストラリアが昼の電気代「3時間無料」に 再生可能エネルギー普及、世界で需給にひずみ - 日本経済新聞
この余剰によって電力市場価格がゼロ円、あるいはマイナス価格になる時間帯さえ頻繁に出現しています。このため、電力会社は昼間の電力を無料または安価にすることで、消費者に**「昼間に電力を使う」よう促し、需給バランスのひずみを是正**しようとしています。これは、「電力は常に貴重で高価なもの」という従来の常識を覆す哲学から生まれた、未来志向のアイデアです。
🇯🇵 日本の「高止まり」と矛盾
一方、わが日本ではどうでしょうか。
再生可能エネルギーのポテンシャルが高い北海道でさえ、電気料金は高止まりし、原発再稼働が進んだ九州と比べ25%割高の状態です。これは、せっかく作った再エネ電力を**「出力制御」という形で捨てているためです。それにもかかわらず、高コストな火力発電は温存され、政府は国民の税金から巨額の補助金**を出して料金を抑え続けています。
🚨 日本の構造的な矛盾:「アクセルとブレーキの同時踏み」
この現状は、私たちが**「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」**矛盾した状態を示しています。
- アクセル(脱炭素): 国際会議では脱炭素を誓い、再エネ普及や原発再稼働に多額の資金を投じる。
- ブレーキ(化石燃料の奨励): 国民の不満を抑えるため、補助金を出して化石燃料の価格を人為的に下げ、消費を奨励する。
この自己矛盾した政策こそ、私たちがいつまでも**「無料の恩恵」を得られず、「補助金」**に頼り続けなければならない根本原因です。
2. なぜ矛盾が生まれるのか:「壁」と「空気」の病理 🧱
なぜ、この矛盾に気づきながら、日本は政策を転換できないのでしょうか? その背景には、私たちの組織文化に根差した二つの病理があります。
① 構造的な病理:「縦割りの壁」(サイロ)
組織論でいう**「サイロ」、すなわち「縦割りの壁」**が、必要な情報とエネルギーの流れを遮断しています。
- 地域間の壁: 北海道の例が示す通り、「地域独占」という古い固定概念に基づく送電網の**「縦割りの壁」**があるため、安価な再エネ電力を本州に送れず、高コストな火力発電に頼り続けるしかありません。
② 文化的な病理:「空気の支配」(集団浅慮)
そして、この縦割りの壁の中で、**「集団浅慮(しゅうだんせんりょ)」**が蔓延します。これは、古賀史健氏らが指摘するように、優秀な人が集まっても、場の空気に流され、個人の能力以下の愚かな結論に至ってしまう病です。
- 思考の固着: 「安定供給には大規模火力か原発しかない」という、古い時代の成功体験に固執し、「再エネと蓄電池、広域連携で実現する方法はないか?」という新しい問いを立てることができません。
- 対話の失敗: 補助金が構造改革を遅らせると知っていても、**「次の選挙が不安」「和を乱したくない」という「忖度(そんたく)」が働き、異論が封じられます。誰もが内心反対していても、誰も発言しない「発言なき合意」**が生まれてしまうのです。
この**「縦割りの壁」と「空気の支配」**が、問題の解決遅らせる真因になっているようです。
3. 遅れを挽回する:哲学と科学の武器 🛡️
集団浅慮の根源である「思考の浅慮」は、既存の枠組み(成功体験や固定観念)に固執し、反証となるデータを集めないことから生まれます。**実験計画法(DOE)**は、この非科学的な思考パターンを打ち破ります。豪州のようなスピードで構造改革を成し遂げるには、固定概念を打ち払う「アンラーニング」と科学的な「実験計画法」によるアプローチが求められます。
1. 「アンラーニング」が仮説を生む
まず、**「思考の固着」を打ち破るために、「アンラーニング(Unlearning)」**が必要です。
アンラーニングとは、「学んだ知識や過去の成功体験、固定観念を意図的にリセットすること」です。私たちは、**「電力は常に高価だ」「大規模電源こそ絶対」**という固定観念を否定し、「本当にそうなのか?」という根源的な問い(仮説)を生み出します。
2. 「実験計画法」が検証を効率化する
アンラーニングで生まれた大胆な仮説を、日本の硬直した政策決定プロセスに適用するためには、実験計画法(DOE)が提供する**「科学的な技術」**が必要です。
- 要因(因子)の明確化: 政策の結果に影響を与える因子を「短期的な支持率」ではなく、**「脱炭素目標の達成率」「コスト競争力」「財政健全性」**といった長期的な指標に明確に定義し直します。
- 交互作用の発見: 「再生可能エネルギー導入」という一つの因子だけでなく、「規制緩和」や「蓄電池補助金」といった複数の因子を組み合わせて政策を試行し、最も効果の高い**「交互作用(シナジー)」**を効率的に見つけ出します。
- ノイズの分離:たまたま経済状況が良くなったことによる景気回復(ノイズ)と、**特定の政策(因子)**による本質的な効果を冷静に分離し、再現性のある成功法則のみを次の政策に反映させます。
「アンラーニング」と「問い」で硬直した思考の枠組みを解体し、その後に**「実験計画法的な仮説と検証」という科学的な改善サイクル**を回すことこそが、集団浅慮を克服し、アジャイルな国家経営を実現するための道筋となります。
国民の行動変容が未来を拓く 💡
哲学ブームの今、誰もがこうした素養を身に着けていくのが好ましいことではないでしょうか。それによって、私たちは政策の矛盾を見抜くことができるようになりますし、誰を選ぶかという選挙においてもそれが手助けになるはずです。
国民のこうした行動変容が政治を変え、官僚機構に変化をもたらし、産業界も変わっていくことが可能になるのではないでしょうか。
**哲学は「自由になるための技術」**です。それは、「空気の支配」から脱却し、自分で問いを立て、自分で人生を決定する「自由になるための技術」なのです。
「参考文書」


