Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

【連載:Z世代と循環】石化業界がZ世代を巻き込むための「情報の見せ方」~数字だけのカーボンフットプリントは、なぜ誰にも刺さらないのか?

 前回、メルカリやセカンドストリートが成功しているのは、消費者の手間を「利益」や「楽しみ」に変えているからだと分析しました。

「Z世代と循環」メルカリ・セカストが成功し、プラスチック回収が苦戦する理由 ―「売ればお金になる」と「捨てればゴミになる」の決定的な差 - Up Cycle Circular’s diary

 一方で、石油化学業界をはじめとする製造業は今、必死に「カーボンフットプリント(製品の製造過程で出たCO2量)」や「トレーサビリティ」を数値化し、開示しようとしています。しかし、正直に言って、その数字を見てワクワクするZ世代がどれほどいるでしょうか。

「CO2を20%削減しました」という数字は、企業の報告書には必要ですが、若者の心を動かし、行動を変えるための「情報の見せ方」としては、決定的に何かが欠けています。

 

 

スペック(事実)とストーリー(意味)の断絶

 石化業界が提示するデータの多くは、客観的な「スペック」です。しかし、Z世代が求めているのは、その製品を選ぶことが**「自分のアイデンティティをどう形作るか」という「ストーリー」**です。

  • 石化業界の提示: 「このプラスチックは再生材を30%使用し、CFPは〇〇kg-CO2eです」
  • Z世代の感性: 「それで、私の生活はどう変わるの? それを持っている私は、周りからどう見えるの?

 アディダスの海洋プラスチックスニーカーが成功したのは、数字を誇ったからではありません。「海を汚すゴミを、最高にかっこいい靴に変えた」という劇的な価値の転換を、デザインという直感的な言語で伝えたからです。数字は、その物語を補強するための「証拠」に過ぎません。

「自己表現のツール」としてのトレーサビリティ

 Z世代にとって、消費は「自分は何者か」を示すタグのようなものです。メルカリで服を売買することが「賢い消費」としてクールに見えるように、プラスチックを循環させることもまた、**「クールな行動」として可視化(ゲーミフィケーション)**されなければなりません。

 例えば、ブロックチェーンを用いたトレーサビリティ技術を、単なる管理ツールで終わらせない方法があります。 自分が戻したペットボトルが、次にどのブランドの、どのジャケットに生まれ変わったのか。その「旅の軌跡」がスマホに届き、SNSでシェアできるとしたらどうでしょうか。

数字」という無機質なデータを、「貢献」や「つながり」という情緒的な価値に翻訳すること。これこそが、石化業界に求められるマーケティングイノベーションです。

「実証実験」から「日常のブランド」へ

 石化業界の「循環」の取り組みは、いまだに「実証実験」という言葉の陰に隠れ、消費者から遠い場所にあります。 しかし、Z世代を巻き込むためには、企業の裏側の努力を「ブランド」として表舞台に出す必要があります。

「このロゴがついているプラスチックは、海を救い、何度でも生まれ変わる魔法の素材である」。 そんな共通言語(ブランド)を業界全体で作り上げ、消費者がその「輪」に入ること自体に誇りを感じる設計ができるか。2000兆円の個人資産を動かす鍵は、エクセル上の数字ではなく、**スマホの画面越しに伝わる「納得感」と「ときめき」**にあるのです。

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(資料:アディダス

 

 

情報の「接合」が未来を創る

 石化業界には、世界を救う素晴らしい技術とデータがあります。しかし、それが「誰にも刺さらない数字」のままでは、宝の持ち腐れです。

高度な管理エンジニアリングが弾き出した「正解」を、人間の「欲望」や「感性」といかに接合するか。この情報の翻訳作業こそが、サーキュラーエコノミーを実証実験から本物のビジネスへと引き上げる、最後のミッシングリンク(失われた輪)なのです。

次回は、この「循環」がもたらす新しい付加価値の形――**「所有から制御へ」**という、私たちの価値観の根本的な変容について考察します。

次回予告:所有から「循環の制御」へ ―― 新しい付加価値の形
「物を持ちたくない世代が、なぜ『循環の輪』をコントロールしたがるのか?」