前回、万博の日本館が示した「資源自給型国家」のグランドデザインについて触れました。そのビジョンを「空」の領域で最も早く、かつ劇的に実装しようとしているのが、日本の航空産業です。
日本館が示した「循環」のビジョン ― 万博の先にある未来:「資源自給型国家」へのグランドデザイン - Up Cycle Circular’s diary
今、空を飛ぶために不可欠な燃料を、化石燃料(石油)から循環可能な資源へと置き換える**「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」**の波が、私たちの移動のあり方を根本から変えようとしています。
「ミドリムシ」が拓いた、日本独自のエネルギー源
万博でもその可能性が示された「藻類」。その象徴とも言えるのが、ユーグレナの取り組みです。「ミドリムシで空を飛ぶ」――かつては夢のような挑戦と言われましたが、彼らは廃食油とミドリムシ由来の油脂を原料とした国産SAF「サステオ」を実用化し、すでに実際のフライトを成功させています。
世界環境デーとエネルギー白書】ユーグレナのバイオジェット燃料が空を飛んだ日 - Up Cycle Circular’s diary
藻類は食料と競合せず、日本の限られた国土や海を活用して生産できる「純国産エネルギー」になり得ます。ユーグレナの挑戦は、日本という資源のない国が、自らの技術で燃料を産み出す**「エネルギーの自給自足」**への一歩を切り拓いたのです。
「使う側」の覚悟:JALが描く脱炭素の未来
一方で、この新しい燃料をどう社会に実装していくか。JAL(日本航空)でSAF戦略を推進する小川宣子氏は、Forbesのインタビューで「2030年までに全燃料の10%をSAFに置き換える」という野心的な目標を語っています。
JAL小川宣子が語るSAF戦略 廃食油で空を飛ぶ脱炭素の未来 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
JALが取り組んでいるのは、単なる燃料の買い替えではありません。
- 供給網の構築: 廃食油を家庭や自治体から回収する仕組み作り。
- 産業の接合: 石化企業やプラントメーカーと連携し、国産SAFの製造・供給体制をゼロから構築すること。
小川氏が強調するのは、「廃食油で空を飛ぶ」という具体的な物語が、消費者の意識を変える力を持っているということです。これはまさに、「仕事のシステム(供給網)」を「人間中心の価値(納得感)」に接合する作業そのものです。

移動の「罪悪感」を「希望」に変える技術
飛行機による移動は「フライト・シェイム(飛び恥)」とかつては言われたもので、環境負荷への罪悪感を伴うものでした。
しかし、もしその燃料が、自分たちがキッチンで捨てた油や、日本独自の藻類技術から生まれたものだとしたら、その景色は一変します。 石化産業が培った「分子を組み換える技術」によって、廃棄物が価値あるエネルギーに生まれ変わる。SAFの実装は、移動というワークシステムを維持しながら、「自分たちの選択が地球を再生している」という誇りを消費者に提供する挑戦なのです。
空から始まる、新しい「動脈と静脈」の合流
SAFの衝撃は、単なる燃料の入れ替えに留まりません。それは、エネルギーを外部に依存する「一方通行の産業構造」から、国内で資源を回し続ける「循環型産業構造」への転換を象徴しています。
この「静脈(廃棄)」を「動脈(エネルギー)」へと統合する動きは、さらに深く、素材産業の心臓部へと波及していきます。次回は、SAFの背後で起きている**「石化産業再編」の真意**に迫ります。リサイクルを「おまけ」ではなく「メインストリーム」へと据える、新生・素材産業の姿とは。

次回予告:第7回:石化産業再編の真意 ―― 静脈産業を「メインストリーム」へ
「廃棄物処理という『静脈』を、高付加価値を生む『心臓』へと変える構造改革」
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