私たちはこれまで、マーケティングという名の下に「顧客は何を欲しがっているか?」という正解を追い続けてきました。しかし、その結果生まれたのは、流行とともに消費される「使い捨ての日常」でした。
そんな中、欧州で熱狂的な支持を集めるスマホ「フェアフォン(Fairphone)」の存在は、私たちに重要な問いを投げかけています。「修理する権利を取り戻す」。彼らは顧客の要望に応えるのではなく、「自分たちはどうありたいか」という意志を表明しました。これは古典的なマーケティングの終焉を意味するのかもしれません。
1. 「欲求」への対応を捨て、「意志」を提示する
これまでのマーケティングは、「顧客は何を欲しがっているか?」という正解を探してきました。しかし、山口周氏が指摘するように、パタゴニアやテスラ、あるいはフェアフォンのような企業は、市場の顔色を伺うことをやめています。
彼らがやっているのはビジネスという名の「社会運動」です。「地球環境を保全する」「文明のあり方に終止符を打つ」「修理する権利を取り戻す」。こうした**「自分たちはこうありたい」という強烈な意志**が、結果として熱狂的な共感を生んでいるのです。
お仕着せのSDGsバッジを付けることよりも、一つの「おかしい」という違和感に従って仕組みを書き換える。その清々しい頑固さこそが、今の日本に最も欠けている「自治」の形ではないでしょうか。

2. 「正解」への依存が、価値を安っぽくした
日本でSDGsが「バッジを付けるだけの行事」になりがちなのは、それを「外部から与えられた正解(ノルマ)」として受け取ってしまったからです。
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借り物の言葉: 「地球にやさしい」という言葉は、誰にとっても正解であるがゆえに、誰の心にも刺さらない「空疎な広告」になりました。
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自治への転換: フェアフォンのように「修理代が本体より高いのはおかしい」という**個人的な違和感(問い)**を起点にすること。他人が決めた17のゴールを目指すのではなく、自分たちが許せない「不条理」を解決するために動く。この主権の回復こそが、価値を本物にします。
3. 「地球にやさしい」が致命傷になる理由
「地球にやさしい」という言葉が、時として企業の致命傷になるのは、それが自らの痛みや意志を伴わない「借り物の言葉」だからです。
なぜ「地球にやさしい」は企業の致命傷になり得るのか【脱やったつもりのサステナビリティ経営♯後編】 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
顧客が求めているのは、綺麗なパンフレットではなく、その企業が「どんな文明を信じ、何に怒っているのか」という手触り感のあるストーリーです。
消費を「欲望の処理」から「意志の表明」へと変えていく。 「これが便利だから買う」のではなく、「この企業の掲げる自治に賛同するから、一票を投じる」。 こうした**「意志としての経済」**が根付いたとき、日本経済は再び、世界から尊敬される「意味のある価値」を生み出し始めるはずです。
まとめ:「マーケット」ではなく「文明」への挑戦
かつてのGoogleや現在のテスラがそうであるように、彼らは「顧客が欲しがっているもの」を作ったのではありません。**「文明のあり方として、こちらの方が格好いいし、正しい」**という意志を提示したのです。
顧客の要望に応えるだけの仕事は、いずれAIに最適化されます。しかし、「化石燃料文明を終わらせる」といった**「意志(Will)」**はAIには持てません。
欲望を満たすための消費を卒業し、企業の意志に共鳴して「社会運動」に参加するように購入する。このシフトこそが、日本経済が再び「意味のある価値」を生み出す鍵となり、そこから新しい経済の形が生まれてくるのではないでしょうか。
