かつてESGにおけるサプライチェーン管理は、「E(環境負荷の低減)」や「S(児童労働や強制労働の排除)」に主眼が置かれていました。しかし、イランで有事の火の手が上がり、ホルムズ海峡の緊張が極限に達した今、ESGの「G(ガバナンス)」の一丁目一番地に躍り出たのが、**「経済安全保障としてのレジリエンス(強靭性)」**です。
「安さ」というリスク、 「距離」というコスト
このイラン情勢の緊迫化は、石油や天然ガスだけでなく、中東を経由するあらゆる物資の供給網を麻痺させています。地政学リスクを無視して「コストの安さ」だけで構築されたグローバル・サプライチェーンの危うさが露呈しています。
投資家は今、企業に対し、効率性を犠牲にしてでも、供給網を「要塞化(フォートレス化)」することを求めています。
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フレンド・ショアリング: 同盟国や価値観を共有する国々へ拠点を移転する。
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マルチ・ソーシング: 単一の国や地域への依存を排し、予備の供給源を常時確保する。
これらは短期的な利益率を下げ、一見すると「非効率」に見えます。しかし、2026年以降のガバナンスにおいては、この「安保コスト」を支払わないことこそが、企業の持続可能性を毀損する最大のガバナンス不全と見なされるようになりました。
サイバー攻撃 ―― 目に見えない戦線へのガバナンス
重要インフラを標的としたサイバー攻撃もまた激化しています。エマニュエル・トッド氏が示唆するように、現代の戦争は、物理的な破壊とデジタルな麻痺がセットになった「ハイブリッド戦」」であり、その境界線はもはや消滅しつつあります。
特に、イスラエルがイランに対して展開している「軍民一体」のサイバー作戦は、企業統治のあり方に衝撃を与えました。
イスラエル、軍民一体の「サイバー戦闘力」 イラン攻撃の裏で脅威に - 日本経済新聞
国内のアプリや防犯カメラがハッキングされ、AIを使った市民監視やSNSでの調略が活発化する。軍関係のIT企業が暗躍するこの「サイバー戦闘力」こそが、現代の軍事作戦の核心です。
この現実は、企業統治(G)においてサイバーセキュリティがもはやIT部門だけの仕事ではないことを意味しています。サプライチェーンのどこか一箇所が攻撃されれば、グループ全体、ひいては国全体の機能が止まる。 実際に、サイバー攻撃を受けた企業の株価回復が鈍いというデータも出始めており、セキュリティ対策は今やESG評価の不可欠な軸となりました。
サイバー攻撃被害、株価戻り鈍く 対策がESGの評価軸に - 日本経済新聞
有事の際にどう事業を継続(BCP)させるか。この「守りのガバナンス」の質こそが、2026年以降、企業の格付けを左右する真の指標となっているのです。
「参考文書」
イランの報復攻撃に「サイバーゲリラ」が加勢 イスラエルなど標的に - 日本経済新聞
