食卓で、健康・美容意識の高い人にも「海のスーパーフード」としてなじみ深いサバが、供給不足を背景に高騰しています。国産よりも脂が乗り、遠い北欧から運ばれてくるのに驚くほど安いノルウェーサバは庶民の味でした。しかし、漁獲枠の大幅減少でこの高騰はあと1〜2年は収まりそうにないといいます。
背景にあるのは、地球温暖化がもたらした海の変容です。海水温の上昇によってサバの回遊ルートが変化し、これまでは無縁だった国々との間で「獲り合い」が激化、資源量が急速に減少しました。事態を重く見たノルウェー政府は、資源を守るために「漁獲枠の5割削減」という極めて厳しい規制に踏み切りました。
私たちが今、直面している高騰は、未来の資源を枯渇させないためのコストが価格に反映されたという不可避な現実です。

日本の海でも.... しかし
目を日本近海に向けても、状況の深刻さは変わりません。サバの漁獲量は急減し、かつての勢いは失われています。しかし、その不漁の裏側には、自然現象だけでは説明のつかない『管理の腐敗』が浮かび上がります。
サバの価格高騰が止まらない…ノルウェーが獲らない「小さすぎる魚」まで獲りまくる日本のヤバさ | ライフ | 東洋経済オンライン
厳しい資源管理によって『大きく育ててから、価値を高めて売る』北欧。対して日本は、まだ価値の低い『幼魚』までを一網打尽にし、あろうことか安値で海外へ輸出してしまう実態があります。まさに、明日の資源を今日使い果たすような持続不可能な自傷行為。規制強化の動きはあるものの、現場の実効性は伴わず、空転しているのが現状です。

『なんだかな』と溜息が漏れるこの構図は、海の上でも地上の言論空間でも、驚くほど似通っています。私たちはいつまで、未来を前借りして今を凌ぐという不作為を続けるのでしょうか。
新たな動きも
しかし、この「サバ消滅」の危機を前に、ただ手をこまねいているわけではありません。環境の激変を「適応」の好機に変えようとする、新たな動きが始まっています。
海水温の上昇という物理的限界に対し、水温を完全にコントロールできる「陸上養殖」への挑戦がその一つです。
陸上養殖、事業化相次ぐ ニッスイはサバを25年めど - 日本経済新聞
水産大手ニッスイなどが本格展開させています。拠点である「米子陸上養殖センター」では、年間175トン、将来的には年間250トンの安定出荷を目指す計画を進めています。現在は、スーパーの鮮魚コーナーで「誰もが日常的に目にする」というレベルにはまだ至っていませんが、「特定の外食チェーン」や「こだわりの飲食店」を通じた市場浸透は確実に進んでいるようです。アニサキス・フリーも陸上養殖の強みになっています。
一方、品薄のサバに固執するのではなく、北欧から質の高い「ニシン」を代替として輸入し、新たな食卓の主役に据えようとする水産商社の試みも注目されています。
ノルウェーサバ品薄…代役にニシン 「日本産よりおいしい」水産商社が着目【大漁!水産部長の魚トピックス】:時事ドットコム
「日本産より美味しい」という評価すらあるニシンへのシフトは、もはや一時的な代役ではなく、私たちが選ぶべき「新しい日常」の選択肢なのかもしれません。
また、コスト増という壁にぶつかりながらも、飯田商店のように「食卓からサバが消える日」という強いメッセージを掲げ、消費者の意識に直接訴えかける企業が現れています。
食卓からサバが消える日…ノルウェー漁獲枠5割減と国内不漁の危機 | 株式会社飯田商店のプレスリリース
これらは気候崩壊時代の「生存のリアリティ」なのかもしれません。
サバが消え、ニシンが並び、陸上養殖の魚がブランド化していく。その変化の裏にある構造を正しく理解し、新しい「美味しい」を自ら見つけ出すこと。これこそが、私たちが今すぐ始められる最も身近な「適応」ではないでしょうか。

「安くて当たり前」の時代が終わり、私たちは今、食卓を通じて地球の悲鳴を味わっています。しかし、ニシンの美味しさに驚き、陸上養殖の技術に未来を託すとき、私たちはただの消費者から、未来を選択する当事者へと変われるはずです。今夜、あなたが選ぶ一切れの魚。そこには、どんな未来が映っていますか?
