Up Cycle Circular’s diary

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ナフサショックが暴いた建築多重下請けの宿痾 - 「リスクの押し付けピラミッド」を壊すRIZAP

ナフサショックによるシンナーや塗料の不足は、現場の職人や小規模な工務店を消耗させているようです。ここで私たちが直視すべきは、「原材料が足りない」という物理的な問題以上に、「なぜ、最も汗を流している末端の現場だけが、これほど一方的にコストとリスクを背負わされるのか」という構造の不条理ではないでしょうか。

本来、国際情勢の緊迫化による資材高騰のリスクは、発注者や元請け(ゼネコン)、一次下請けといったサプライチェーン全体で分散して負担されるべきものです。しかし現実には、上流の企業は「当初の契約価格の据え置き」や「自社のマージン」を確保することで自らの身を守ることができます。

結果として、価格交渉力の最も弱いピラミッドの最底辺─すなわち現場の一人親方や末端の施工業者が、高騰した資材コストを押し付けられることになっているようです。この「リスクの押し付けピラミッド」こそが、現在のナフサショックを「現場の悲鳴」に変えている原因の一つになっているのではないでしょうか。

日本産業の宿痾:「多重下請け」という機能不全

この末端の消耗を引き起こしている背景には、日本の建設業界(そしてITインフラ業界、物流業界)に根深く残る、産業の宿痾とも言える「多重下請け構造」が存在します。

この構造の最大の問題は、単に「何層もの業者が間に挟まっている」という物理的な手間の話ではありません。本質的な病理は、元請け企業が自ら施工のリスクや責任を負うことをせず、情報の非対称性(現場の実態や適正価格が上流に見えにくいこと)を利用して、マージンだけを抜くことが構造化していることにあります。

  • 平時の多重下請け: 労働力を柔軟に調達するための「バッファ(調整弁)」として機能する。

  • 危機の多重下請け: 上流がノーリスクで利益を確保し、下流へ行くほどリスクが乗算される「搾取のパイプ」に変貌する。

中抜きが繰り返されることで、末端の職人への報酬は限界まで削られていくようです。これでは、どれだけ現場が命がけでインフラを支えても、若者が集まるはずもありません。結果として起きるのは、深刻な人手不足、技術承継の断絶、そして資材高騰が重なることによる公共事業の入札不調や住宅着工の遅れです。

政府がいくら「一人親方にまで目配せする温かい救済策」や「手続きの調整」をアピールしたところで、この利権とリスクの非対称性が放置されている限り、それはゾンビ化した不透明な構造を税金で延命させているに過ぎません。産業が自ら窒息していくカウントダウンを、政治のパフォーマンスはただ覆い隠しているのです。

RIZAPが仕掛ける破壊:階層をショートカットする「構造の再定義」

この硬直した「リスクの押し付けピラミッド」に対し、官の救済を待つのではなく、自律的なビジネスの論理で風穴を開けようとする民間の動きが生まれつつあります。その興味深い一例が、近年、建設・内装業界への本格的な参入を進めているRIZAP(ライザップ)グループの動向です。

RIZAPグループ、内装工事に参入 ホワイトカラー500人職人に転向へ - 日本経済新聞

一見すると「アテンション(テレビCM等)の会社」と思われがちな同社が、なぜ最も泥臭い建設の現場に投資しているのでしょうか。彼らが目指しているのは、まさに多重下請けの階層そのものを「直取引・直雇用・直発注」の3つの「直」で、ショートカットする「情報のパイプの書き換え」です。

従来の構造では、発注者から末端の職人に至るまでに何層もの中間業者が挟まり、その都度マージン(中抜き)が発生していました。

  • コスト25〜30%削減: チョコザップの出店実績をもとに、従来比で大幅なコストカットを実現します。
  • 工期を半分に短縮: 複数店舗の同時着工などにより、開業までのリードタイムを大幅に短縮します。
  • 中間マージンの排除: すべてを内製化するわけではなく、外注時も専門工事会社へじかに発注します。

彼らのアプローチは、自社で職人を直接抱え、あるいはダイレクトに現場とつながることで、不透明な中間コストを徹底的に排除することにあります。

(画像:RIZAPグループ株式会社)

末端の職人がナフサショックのシワ寄せを一身に背負わされている中で、中間マージンを排除して現場に正当な対価を支払う仕組みをつくる。これは、単なるコスト削減の次元を超えた、産業の持続可能性を取り戻すための「生産性の再定義」に他なりません。政治が「目詰まりの解消」を口先で唱えている間に、民間はすでに、パイプの構造そのものを根底から変えることでリスクを吸収し始めているのです。

まとめ

こうした事例からすると、長期化するホルムズインフレや構造的な人手不足を前に、政府がなすべき真の対策とは、毎回ミクロな流通の現場にしゃしゃり出て「情報の交通整理」という手続きのアピール(お芝居)をすることではありません。また、補助金をつぎ込んで、多重下請けという不透明な構造を延命させることでもないはずです。

官が果たすべき真の役割とは、市場の歪みを正す「ルールメーカー」に徹することです。多重下請けにおける不透明な取引を是正する法整備の厳格化や、取引プロセスのデジタル化(可視化)による不当な中抜きの抑制など、「企業が健全な競争をし、適切なバッファ(備蓄)やリスク管理を行えるような枠組み(インフラ)の構築」こそが、政治の領分です。

そして、その枠組みの中で、サプライチェーンを整流化し、産業をアップデートしていく実際のイノベーションは、RIZAPのような民間のダイナミズムに委ねるべきなのです。

ナフサショック、ホルムズインフレ。この終わりの見えない危機は、変わらない政治と、その機能不全によって引き起こされているといっていいのではないでしょうか。

 

 

「参考文書」

www.dailyshincho.jp

 

(画像:RIZAPグループ株式会社)