Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

未来を志向するGX構想は実現するのか、日本経済活性化を阻むものは何か?

美しすぎる構想と残酷な現実

 日本の経済界に衝撃が走った、三菱商事グループによる洋上風力発電プロジェクトからの撤退。これは、単なる一企業の判断ではなく、日本経済の「具現化力」が抱える深刻な問題を象徴しています。

洋上風力発電は「技術・経済的に困難」 日本貿易会の安永竜夫会長 - 日本経済新聞

 アベノミクス以降、日本は「Society 5.0」や「新しい資本主義」といった、**「人間中心」の未来志向的なGX(グリーン・トランスフォーメーション)とDX(デジタル・トランスフォーメーション)を軸とする、素晴らしい経済転換の「構想」**を打ち出してきました。

 D・ヒュー・ウィッタカー氏も、その方向性自体は評価しています。しかし、なぜ私たちは、この美しすぎる構想を、一向に現実に変えられないのでしょうか?

 結論から言えば、日本の最大の敵は**「構想力の欠如」ではありません**。むしろ、その**「具現化力」**を阻む、**政府の古い"こだわり"**にあるのです。

 

 

構想力はあるが故の「残酷なギャップ」

具現化を阻む3つの構造的な逆風

 日本経済は今、理想的な構想とは裏腹に、極めて強力な構造的逆風に直面しています。

  1. エネルギーの海外依存: 資源に乏しいという根源的な脆弱性
  2. 地政学リスク: 中国への技術・サプライチェーン依存と、高まる緊張。
  3. コストとスピードの欠如: GXインフラの整備コストが国際水準よりも割高になりやすく、政策決定と事業開始までの時間が長すぎる。
 三菱商事の撤退が突きつけた現実

 三菱商事の事例は、この逆風が民間企業の努力だけではどうにもならないことを示しました。巨額のリスクを引き受けるはずの巨大商社ですら、市場の激変(急激な円安、資材高騰)に対し、政府の入札制度や許認可プロセスの硬直性という「人災」が加わることで、採算が完全に崩壊したのです。

 これは、「公平性」や「手続きの厳密性」に固執するあまり、市場のスピードと国際競争力を完全に無視した制度設計が、最終的に日本のGX:グリーントランスフォーメーションの具現化を阻んでいる、という構造的な欠陥を浮き彫りにしました。

具現化を阻む「政府のつまらないこだわり」

 この構造的欠陥を生み出している根源こそ、**「制度の硬直性」と「リスク回避の文化」**に根差した、政府や政策決定層の「つまらないこだわり」です。

「国産」への過度な固執がスピードを奪う

 GXを加速させるには、コスト競争力に優れた中国製の太陽電池や蓄電池を**「戦略的資源」としてどう賢く活用するか、という現実的な構想力**が必要です。遅れを挽回するには、そのスピードが不可欠だからです。

脱炭素「中国抜き」でやれるのか 太陽光パネルで欧州ジレンマ、産業界は悲鳴 - 産経ニュース

 しかし、「安全保障上の理想」や「国内産業保護」といった大義名分の下、安価な海外リソースの戦略的活用を妨げる過度な「国産」へのこだわりが、GXの導入スピードを著しく鈍らせています。必要なのは、国内の次世代技術育成と、海外リソースの戦略的活用という**「二段構えの計画力」**です。

外交面における「戦略的曖昧さ」の限界

 また、外交面における硬直性も問題です。

 中国に対しては、「安易な依存」も「不必要な緊張」も避ける、極めて高度な戦略的柔軟性が求められます。しかし、脱炭素への取り組みの遅れは、国際社会での日本の交渉力を弱めます。さらに、サプライチェーン多角化を声高に叫びながら、そのための大胆な経済外交や、民間企業を支援するリスクヘッジの枠組みづくりが進まないことが、具現化を妨げています。

突破口:「商社」と「技術」による民の実行力

 では、この硬直した現状をどう打ち破るのか? 鍵は、「民のリーダーシップ」、そして**「技術」**にあります。

縦割りを打ち破る商社の「コンポーザー」能力

 GX・DXは、電力、デジタル、金融、地域社会を統合しなければ成立しません。この**「インテグレーション(統合)」**を担えるのは、異分野・異文化のハブである総合商社しかありません。

 特に、伊藤忠商事が石炭火力からの撤退や非資源分野を軸に推進する戦略は、**「政府を待たず、市場とリスクを先取りし、業界の方向性を変える」という、民間主導の具現化の模範です。商社には、この「コンポーザー」**として、縦割りの企業を束ね、リスクを配分するリーダーシップが求められています。

「切り札」ペロブスカイトの成否が問うもの

 日本が技術的優位を持つ**ペロブスカイト太陽電池(PSCs)**のビジネス化は、まさにこの具現化力が試される「総合試験」です。

 PSCsは、その軽量・柔軟性で日本の狭い国土という制約を打ち破る可能性を秘めています。

 しかし、この技術を単なる研究成果で終わらせないためには、商社が研究機関・金融・建設業を統合し、政府が**「建築基準法」**などの規制を迅速に緩和する、官民一体のスピード感が不可欠です。このPSCの成否こそが、日本のGXが「構想」から「具現化」へ移行できるかどうかの試金石となるでしょう。

 

 

まとめ:政府は「制御された非均衡」を受け入れよ

 ウィッタカー氏の著書が突きつける最終的な提言は、**「制度の制御された非均衡(controlled dis-equilibrium)」**の受容です。

 政府の最大の「つまらないこだわり」は、安定に執着し、変化とリスクを嫌うことです。しかし、安定を守るための硬直性が、逆に国全体を停滞させているのです。

 日本経済を真に前進させるには、政府は民間企業の実行力とリスクテイクを阻む制度の壁を速やかに取り払い、「未来への成長」のために「変化に伴うリスク」を進んで引き受けるという、新しい哲学が必要です。

 構想は美しい。しかし、その構想を実現するのは、覚悟を持った「実行」あるのみです。

 

 

「参考文書」

シリコンバレー支配のAI時代、英オックスフォード大教授が説く「ハードxソフト」融合戦略 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

再生可能エネルギー追求、日本の条件 不利補う構想力はあるか 編集委員 松尾博文 - 日本経済新聞