Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

ネイチャーポジティブ「守る」から「自然を増やす」へ ― シーベジタブルの海の自然再興

気候変動による海水温の上昇(海洋熱波)は、いま国内沿岸の「藻場(海の森)」を激減させ、深刻な磯焼けを引き起こしています。これまでの環境保護の多くは守備的なアプローチが主流でした。しかし、いま市場で起きているのは、そうした限界を突破する「ネイチャーポジティブ(自然再興)」への構造転換です。

海藻栽培から海の生態系再生へ。シーベジタブルが実践する源流経営 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

Forbesなどの報道でも注目を集める合同会社シーベジタブルは、その最前線を走っています。同社は、独自の陸上・海面栽培技術を用いて、人が能動的に管理する「養殖藻場」を日本各地に形成しています。これが天然の藻場の代わりとなり、魚介類の産卵床や隠れ家となることで、激減していた海の生物多様性を実際に「回復(反転)」させる効果をもたらしています。天然資源に依存するだけではなく、海藻を「育てる」インフラを創り出すことで、環境を再生しながら地域の漁業者に安定した新たな生業(経済価値)をもたらす「源流経営」が、いま現実のものとなっているようです。

(写真:合同会社シーベジタブル)

企業版ふるさと納税と本業を掛け合わせる「共創の仕組み」

この取り組みが単なる一過性のボランティアで終わらないのは、民間企業のESGマネーや自治体の仕組みを巻き込む、極めて高度な「共創のエコシステム」が確立されているからです。

シーベジタブルは、官民共創プログラムを通じて、全国11の地方自治体と面的な実証実験を展開しています。

全国11自治体で新たな海藻栽培の実証実験に向けた「企業版ふるさと納税」の募集をスタート – SEA VEGETABLE COMPANY

ここで原資として活用されているのが「企業版ふるさと納税」という国の税制です。寄付する企業側は実質1割の負担で自然資本の再生に貢献でき、自治体や地元の漁業者は公金や自己負担のリスクを負わずに新産業の実験をスタートできるという、制度をレバレッジにした資金循環モデルを構築しています。

さらに、この「SEA VEGETABLE Co Creation Project」に参画するパナソニック、セブン&アイ、東京建物、サラヤ、みずほフィナンシャルグループといった主要企業たちは、単に資金を出すだけの「寄付」ではなく、自社の本業の強みをダイレクトに掛け合わせています。

  • パナソニック:最先端のAI技術を栽培現場に導入し、生産効率化のデータを蓄積する。

  • セブン&アイ:栽培された海藻を用いたオリジナル商品を共同開発し、安定したサステナブル食材の調達ルートを確保する。

  • サラヤ:環境に優しい製品づくりのため、工業・化学原料として海藻を用いた酵母づくりの研究を進める。

パッケージを緑色にするような表面的なイメージ戦略ではなく、「海藻が増えて海が豊かになるほど、自社の事業も成長し、リスクが分散される」という経済合理性。本質的なレジリエンスへの投資が始まっています。

都市と地方を循環させる「まちづくり」への応用

この無理のない適応の型は、食品や一次産業の枠を超え、都市を開発する不動産デベロッパーの戦略にまで応用され始めています。

総合不動産大手の東京建物は、神奈川県湯河原町およびシーベジタブルと包括連携協定を締結。企業版ふるさと納税を通じて地方の海藻栽培を支援するだけでなく、2026年3月には東京駅から徒歩3分の八重洲の拠点に、海藻の新しい食文化を発信する初の常設店「シーベジスタンド」をオープンさせました。

海藻ラーメンから海藻料理まで。海藻を主役にした新しい飲食体験。東京・八重洲/日本橋エリア「シーベジスタンド」3月2日オープン | 合同会社シーベジタブルのプレスリリース

デベロッパーが海藻の再生に投資する理由は、単なるビルの環境アピールではありません。地方の自然資本(海や山)の崩壊は、都市に集まる豊かな食文化の消滅に直結するという危機感があるからです。都市の消費力や空間をプラットフォームとして提供し、地方の生産現場(源流)に資金を還流させる。そして、海藻を主役にした美しい空間や新しい食文化という「高い体験価値」に変えて都市へ還元する。

「環境のために我慢する」のではなく、都市と地方が本業を通じて共に良くなる「システム(Regenerative City)」を構築すること。これこそが、他分野にも応用できる持続可能なレジリエンスのフレームワークなのです。

(写真:合同会社シーベジタブル)

山と海のつながり、私たちの購買がインフラの一部になる

私たちは誰もが、山と海、そして都市と地方の循環の中で生きています。大船渡の山火事が綾里(りょうり)のわかめ漁に影響を及ぼしたように、陸の異変は必ず海へとつながり、巡り巡って私たちの食卓へと返ってきます。

地球の沸騰や生態系の激変を前に、私たちができるのは「これまで通りの消費を頑なに続ける」か「本物を一切諦める」かという二者択一の硬直性ではありません。

企業の「自然を増やす変革」や、都市と地方をつなぐ新しい試みを、私たち生活者が解像度高く見極め、選択していく。このような自発的な行動の積み重ねが、気候変動の荒波から豊かな食を物理的に守る、最も本質的な生存戦略になるのではないでしょうか。

 

「参考文書」

海藻の力で、海の未来を耕す。秋田県男鹿市で“養殖藻場”の実証実験を開始 | 合同会社シーベジタブルのプレスリリース

海藻産業を共創し、持続可能な未来を描く。「SEA VEGETABLE Co Creation Project 2026」第二期募集開始 | 合同会社シーベジタブルのプレスリリース