Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

成功するグローバル企業は、サスティナビリティと利益のどちらを優先するのだろうか

 

 アフリカ南東部にマラウイという国がある。内陸国で、大地溝帯マラウイ湖によって隔てられた高地の地形が特徴だという。そのマラウイでは、まだ電気を使えない人々がいるそうだ。

 AFPによれば、北部の村ヨベヌコシに住む一人の男性が自家製の水力発電機で、周辺世帯に電気を供給していると伝える。

冷蔵庫部品でDIY水力発電機 村に電気を運ぶマラウイ男性の挑戦 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News

 家の前の小川で水力発電をはじめたという。ありあわせの部品で発電機を作り、小川の水力を利用して発電、家に電気を引いたそうだ。

うわさは瞬く間に広まり、近所の人たちが携帯電話の充電をしに定期的に訪れるようになった。

「電気を使いたいという声が届き始めたので、規模を大きくすることにした」 (出所:AFP BB NEWS)

 

 

 その男性は、古い冷蔵庫のコンプレッサー(圧縮機)を再利用、タービンに改造して小川に設置、6世帯分の電気をつくったそうだ。現在は、使われなくなったトウモロコシの実を軸から外す機械のモーターを再利用し、より大きな水車を回し、村に電力を供給しているそうだ。村人は月に1ドル(約110円)あまりの維持費を支払っているという。

 SDGs、持続的な開発目標のお手本のようなものなのかもしれない。

 その小さな発電所を開設した彼は、小規模電力網を周辺地域にも広げたいと考えている.....

 1ドルの維持費では、ビジネスとしては成り立たないのだろう。それより、それを広めて困っている人々の役に立ちたいとの動機が彼をかりたてているのだろうか。もしかしたら、その彼も何年後には立派なビジネスマンになっているかもしれない。

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 飲料メーカのサントリーは、社会との約束として「水と生きる」を掲げ、水資源の保全活動に力を入れているそうだ。天然水がビジネスの生命線ということが理由のようだ。

サステナビリティーは競争戦略: 日本経済新聞

 日本経済新聞によれば、サントリーは2003年から「水源涵養(かんよう)活動」に力を注ぎ、グループの国内工場でくみ上げる地下水量の2倍以上の水の涵養を実現という目標を19年に達成したそうだ。今後は、その知見をグローバルに広め、世界の水危機回避のために貢献していくという。

 

 

 そう話すのは、サントリーの新浪社長。「サステナビリティを新しい産業にしていく、新たな成長の糧にしていくという考え方が大変なスピードで広がっています」といい、「世界はその競争戦略の渦に巻きこまれ、我々もいや応なくその中で戦うことになります」と指摘する。

お金を動かしてもうけるというグリーディー(貪欲)な考え方の中に、リサイクルなどを通じて自然資本の使用を最小限に抑える仕組みを持ち込むことで、サステナビリティを実現しながら経済を成長させなくてはなりません。(出所:日本経済新聞

 環境保全活動のルール作りが欧州で進み、そこに中国や米国も入り込んできている.....

「日本の企業もグリーディーな部分を強く出していかないといけません」、「より貪欲にもうける、勝ち抜く強い意志と企業の新陳代謝をどんどんやっていかないと更に海外に後れをとってしまう。そんな危機感を持っています」と、新浪社長はいう。

 違和感のある発言だ。

 欧米のグローバルに成功している企業は、「サスティナビリティの実現」を目標にし、ビジネスによってそれが達成できることを知っている。それを実現すれば、顧客からの支持を得て、信頼が増し、さらにビジネスが発展していくことも知っている。そして、その結果が利益だ。利益は顧客からの支持のバロメーターに過ぎない。

 

 

 彼らは「サスティナビリティ」の実現に貪欲なのかもしれない。だからこそ、大きな利益が上げることができ、グローバル企業にも成長したのだろう。世界一の企業になったアップルはその好例だろう。

 結果だけをみれば、勘違いするのかもしれない。

 ティムクックCEOは、アップルは地球環境のために働くとはいうが、決して利益のために働くとはいわないだろう。そして、毎年期末にはこれだけ利益があったと報告するだけだ。

「日本はもっとグローバルな戦いの方向にかじを切らなければやっていけません」、「日本は多くの場面で蚊帳の外だった」と新浪社長はいう。儲けることばかりに執着し、貪欲になるから蚊帳の外になったのではなかろうか。

 もうけることばかりのサントリーは、「水と生きる」といいながらも、マラウイの彼を支援しようとはしないのだろう。儲からないという理由で.....

 

【アフターコロナの脱炭素】欧米の物価高・インフレ、中国では仮想通貨が違法に

 

 まだ油断すべきではないのだろうが、コロナ渦から抜けつつあるのだろうか。ここ最近の欧米でのインフレ高進との報道を聞くとそんなことを感じる。

世界のインフレ急進が経済への目先のリスク-OECD最新見通し - Bloomberg

新型コロナのデルタ変異株を封じ込めるための新たな行動制限が一部地域で経済活動の足かせとなる一方で、サプライチェーン混乱と商品相場上昇が物価圧力を高める中、OECD日本以外の全ての主要7カ国(G7)の今年と来年のインフレ率予測を上方修正した。 (出所:ブルームバーグ

 ブルームバーグによれば、OECDは、ワクチン接種の急速な進展や家計貯蓄の急速な減少は需要を押し上げ、失業を減らす一方、目先のインフレ圧力を強める恐れがあると分析しているそうだ。

 ごく自然な流れなのだろう。新型コロナが収束に向かえば、消費が拡大する。ただ、その需要を満たすほどに供給が追いつかない。東南アジアでは感染の影響がまだあるようだ。

 

 

 ナイキのベトナム工場が閉鎖されてままだという。政府の命令によるものだそうだ。

ナイキ、通期売上高見通し引き下げ 年末商戦の生産に遅れも | ロイター

ベトナムではこれまでに10週間分の生産が失われており、完全な生産体制に戻るには数カ月を要する見通し (出所:ロイター)

 SDGsに熱心なナイキのスニーカーの供給が一時的に止まっても、急に困ることにはならない。それでも需要はあるというのだろう。それをベースに生産計画が立てられ、材料が手配され、商品は作られていく。その商品が店頭にならび、消費を喚起して、モノは売られていく。

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 止まっていた経済が動き出しことで、海上輸送が活発になる。急激な経済回復でコンテナとそれを運ぶ船が不足し、運賃が高騰する。旺盛な輸送需要に応えようと船会社は新造船に投資する。あるものは現状と同じ形式の船を発注し、またあるものは脱炭素を考慮し、LNG船を発注する。まだ水素船は少しばかり時期が早いのだろう。

 経済活動が弱まれば、二酸化炭素の排出が減じるかもしれないが、経済が活発化することで脱炭素が加速するともいえそうだ。

 

 

そんな中、中国がビットコインなどの仮想通貨を全面禁止にするそうだ。

中国人民銀、仮想通貨を全面禁止 「違法」と位置付け | ロイター

 ロイターによれば、中国人民銀行を含む中国の証券、銀行規制当局などの10機関が、暗号資産(仮想通貨)の取引と採掘(マイニング)を全面的に禁止すると発表したという。

 仮想通貨に関連する活動を「違法」と位置付け、海外の取引所が中国本土向けのサービスを提供することも禁止すると表明したそうだ。

仮想通貨のマイニング活動は中国の経済成長にほとんど貢献しない一方で、カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)達成を阻害するとし、マイニングに必要な資金支援と電力供給を断ち切る (出所:ロイター)

暗号資産の全面禁止、中国当局を動かした「思想」 専門家はこうみる:朝日新聞デジタル

 この中国の動きを専門家は、「中国は今のところ暗号資産で国際的な主導権をとる国ではないので、市場の動揺も限定的だ」という。ただ、注目すべきは、この規制がほ他の国にも受け入れられるかどうかと指摘する。

 環境問題など世界的な規制のイニシアチブをとるのがうまい欧州などで、規制の動きが出始めたら大きなインパクトになるだろうという。

字幕:ビデオグラフィック「電力を大量消費するビットコイン」 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

 AFPによれば、ビットコイン関連の2021年の年間消費電力は、128テラワット時と推計されているといわれ、世界の総発電量の0.6%という。スウェーデンノルウェーでの消費電力とあまり変わらないともいわれる。また、採掘(マイニング)工場が特に多いのは中国(65%)で、米国(7.2%)やロシア(6.9%)にもあるそうだ。

 また、マネーロンダリングの温床ともみられてきた。

 

 

 ここ最近、中国は規制を強化している。経済を多少減速させてまで格差など様々なことの是正に力をいれているかのようにもみえる。当局の思惑は別として、表面だけをみれば、世界の流れに大きく矛盾することはないともいえそうだ。ついつい目先のことだけで物事を自分の都合のよいように考えてしまうが、いずれ世界一の経済大国になるといわれている国なのだから、要注意ということなのかもしれない。

 

高まる気候変動による債務不履行リスク、再燃する気候テック

 

 国連総会が始まり、気候変動が主要な議題となっているようです。

「今後は、海外で石炭火力発電所を新設しない」と、中国の習近平主席が明言したといいます。驚きです。変われば変わるものです。

習主席 国連総会一般討論で演説「中国が覇を唱えることはない」 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

 真意は定かではないですが、その方向に向かうということは歓迎されるべきではないでしょうか。

 安保理では「気候変動による安全保障へのリスク」がテーマにあがったといいます。それだけ、様々なところで状況が深刻化してきたということなのでしょう。

 

 

 欧州では、ECB欧州中央銀行が、ユーロ圏経済への気候変動の影響を分析する調査結果を公表したといいます。

気候変動、金融機関に深刻な影響 ECBが調査結果公表: 日本経済新聞

「気候ストレステスト」と名付けられた調査では、世界の400万社以上、1600のユーロ圏の銀行への気候変動の影響を3つのシナリオに沿って分析したそうです。

 気候変動には自然災害の頻度や規模が拡大することによる物理的なリスクと、温暖化対策を進めるためのコストが膨らむ移行リスクがあるといいます。

 日本経済新聞によれば、対策をしなければ移行に伴うコストはほとんどないが、物理的なコストが大きく膨らむといいます。計画的に移行を進めていくことが、コストを最小にとどめるとECBは結論づけたそうです。

欧州の銀行は温暖化対策をしなければ、不良債権処理損失が自然災害の増加によって大きく膨らむことになる。2050年には計画的に移行を進めた場合に比べて、債務不履行の発生確率が8%も高まるという。(出所:日本経済新聞

 こうしたことでまたESG投資が加速し、銀行の融資にも変化が起きるのでしょうか。

 

 

 ベンチャーキャピタルの投資先にも変化が現れているのでしょうか。これまでなら、AI、自動運転などいわゆるテクノロジーと称されるソフト分野への投資が主流だったように思いますが、ここ最近では気候変動対策関連技術への投資も目立ちます。

「気候テック」「バイオインフォマティクス」「分散型のインターネット」 、これらが今注目すべき対象だと、ベンチャーキャピタルのCoral Capitalはいいます。

気候テック、バイオ、分散型ネットがカンブリア爆発期に入ろうとしているワケ | Coral Capital

Climate Tech(気候テック)」と言う新しい呼び名のもと、クリーンテックのブームが再燃していると、Coralはいいます。

 人類史上最大とも言える課題と指摘、ロボティックスやIoT、エネルギー、材料工学、AIなどをはじめとした多くの分野に対して、この先数年で多額の投資が必要になるといいます。

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バイオインフォマティクス」、ソフトウェアとバイオの融合のことをいうそうです。

 mRNAワクチンを事例に、Coralは説明します。

モデルナ社は、なんとウイルスの遺伝子情報を解析してから48時間もたたないうちに、ワクチンの完成バージョンの設計にまでたどりついています。

しかも、実際のサンプルを入手する前に、ウイルスのデジタルコピーだけを使って完全にコンピューター上で完成させたというのです。 (出所:Coral Capital)

 VCが、こうした分野が注目するのは善い流れではないでしょうか。ただソフトを強調することには多少抵抗感を覚えます。そこに競争力や差別化の源泉を求めることはわかりますが、まずは気候危機を回避するためのテクノロジー開発とその社会実装、そして、その収益化にもっと力を注ぐべきです。

 必要なテクノロジー開発を効率的にしてくれたり、その社会実装を効率的にしてくれるのがソフトの力のはずです。ソフトが今ある問題をひとりでに解決してくれるわけではありません。今求められていることは、有効な解決策を早期に実用化できるかといことではないでしょうか。それを見極められる目が求められているように思います。

 資金は確実に「気候変動」関連に向かい始めているようです。生活に身近なところで、それが体現できるようなモノ、サービスが登場して欲しいものです。

 

【ESGと人権】強制労働など人権問題への対策 法整備は進むのか

 

 10年近く前のことだが、アップルのiPhoneなどを生産するフォックスコンの深圳工場で自殺者が続発したり、その後、煙台工場では児童労働があったと問題になったことがあった。iPhoneが急激に売れはじめていた頃、そればかり目が奪われいた。そんな時のこうした問題はショッキングな出来事だった。当時はまだ人権問題としてあまり語られることはなかった。

 何か問題が生じれば、その問題の対策が求められる。注目される企業であれば、なおさらだ。問題をなおざりにはできない。それでも、この種の問題はなくならない。

 リチウムイオン電池に使われるコバルトが児童労働によって採掘されていると、アップルが提訴されることもおきた。そうした背景も理由になったのだろうか、アップルは自分たちでリサイクルの研究開発を始め、それを実用化していった。

 

 

 アップルは主要な取引先だった。アップルで問題が起きれば、それは自分たちの問題とみておいたほうがいい。何時その対策を求められるかわからない。

 フォックスコン深圳工場での問題の直後、トップダウンで、その工場である商品を生産することが決まった。アップル向けの製品ではなかったが、あまりいい感じはしなかった。生産が始める前、その工場に打ち合わせに行くことになった。ニュースを聞くとどんな劣悪な環境なのだろうかと想像してしまう。現地を行ってみれば、想像に反して、全くもって普通の工場だった。環境が悪い工場ならいくらでもある。ただ工員たちが暮らす寮を見る機会はなかった。何か対策があったのだろう。その後、同じようことが再発することはなかった。

 当時の幹部はこうしたことに無関心、無頓着で、業績ばかりが気にしていた。そのプロジェクトはあまり長続きしなかった。

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 経済産業省と外務省が連名で、上場企業など約2700社を対象に人権問題への対応状況を把握する調査を始めたという。

ビジネスと人権~責任あるバリューチェーンに向けて~ (METI/経済産業省)

 JIJI.COMによれば、強制労働が国際問題化しており、対応が不十分と見なされれば日本製は海外市場から締め出され企業の競争力低下が避けられないという。

強制労働などを排除し、供給網での人権侵害リスクを予防するため、対策実施と情報開示を義務付ける「人権デューデリジェンス」を制定する動きが欧米を中心に広がっている。

日本は先進7カ国(G7)で法規制の準備が進んでいない唯一の国で、取引や投資などで支障が生じる恐れがある。企業側には「法整備を求める声がある」(経産省幹部)という。 (出所:JIJI.COM

「人権デューデリジェンス」、事業活動における人権侵害リスクを把握し、その予防策を講じること。サプライチェーン上での強制労働や児童労働の排除も含まれる。

 企業活動における人権尊重は、「ESG投資」Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)のうち、「社会」に区分される重要な要素の一つとされるようになっている。

 

 

 もう10年以上前のことだが、勤務地が変わり、たまたま入ったスタバの雰囲気がとてもよくて通うにようになった。バリスタたちが明るく楽しそうに働いているところに魅了されたのかもしれない。

 2年くらいしてからまた勤務地が変わった。車通勤になった。街道沿いのスタバを見つけ、毎朝立ち寄ることになった。その店もとても雰囲気がよかった。その前に通った店と同じように、バリスタが楽しそうに働いていた。

 あるとき、バリスタから1冊の本を進められた。当時CEOだったハワード・シュルツ著作の「スターバックス再生物語」。スタバ誕生の話など興味をもって読んだ。

 この本で、ハワードの従業員やバイトに対する姿勢を知り、それがお店の雰囲気になっていることがわかった。また、スタバのフェアトレード、倫理的な調達の取り組みについても知ることができた。

 本がきっかけでバリスタたちとも気軽にそのことについても話するようになった。マイボトルを勧められ、使い捨てカップを使わなくなった。そのときは環境とか脱プラではなく、限りある資源を大切にしようとの気持ちが強かった。思い起こせば、それら10年以上もの時間が経過している。

 なぜ、もっと早く動くことができないのだろうか。海外ばかりではない、国内にも外国人技能実習制度や入管問題など、人権にかかわるような問題がなおざりにされている。

 

【移行金融と脱炭素】国が作る産業別工程表は二酸化炭素の排出削減目標の根拠に資するのか

 

 国内企業の多くもカーボンニュートラルを宣言するようになり、脱炭素社会に向けて、順調か思えば、必ずしもそうではないようである。

 企業の自主性に任せたところで国際公約となるNDC(未提出)、温室効果ガスの削減目標が勝手に達成される保証はない。一方、国の関与が強まれば、計画経済になりかねない。しかし、NDC(国が決定する貢献)の科学的根拠が乏しければ、実現可能性が疑われ、国際社会からも批判を受けかねない。

 企業側にも憂慮があるようだ。

カーボンニュートラルに至るハードルの高さが改めて認識されるようになった」。

30年や50年という年限付きの目標設定への反発や、国の事情によって違うやり方を許容すべきだとの意見も大きくなっている。

とりわけ、製造業では政策や規制が特定技術の禁止に結びつくことへの懸念が高まっている。(出所:日本経済新聞

 ガソリン車の販売禁止がその典型と、日本経済新聞は指摘する。

 

 

 二酸化炭素の排出量が多い産業が特定され、そうした産業は国の監視下にあるようなものだ。

 鉄鋼、化学、電力、ガス、石油、セメント、製紙・パルプ、そうした産業が対象に上がり、自動車もそれに加えてもいいのかもしれない。

「今の延長線上に未来はない」、「製造業は時代遅れだ」

 こうした意見への反発もあるという。さらに、多くの製造業が恐れているのは、足元で温暖化ガス排出削減を進めようとしても「多排出産業」だとの理由で投資家や金融機関が資金調達に応じてくれないということもあるそうだ。

 ESG投資が活発化すれば、こうした事態になることもうなづける。ありがたいことに国が問題ある企業を特定しているようなものなのだから。

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 国は「トランジションファイナンス」を重視し、これを促進するため、投資家や金融機関が、多排出産業への融資を検討する際に参照できるロードマップをつくることを決めたという。最終的にカーボンニュートラルに到達するまでのプロセスを可視化しようという試みと日本経済新聞は説明する。

「移行金融」、まず鉄鋼で行程表 脱炭素へ設備支援: 日本経済新聞

 まず、鉄鋼が対象となったようだ。

そこでは①世界的な将来動向、国内生産量やマテリアルフロー②日本の鉄鋼業の強み、既存の製鉄プロセスの概要③二酸化炭素(CO2)排出量、プロセス別排出源単位④カーボンニュートラル実現に向けた中長期的な技術オプションの内容⑤カーボンニュートラルのために国内で必要になると想定される技術開発――について50年までの時間軸にマッピングしたチャートなどを掲載、詳述している。 (出所:日本経済新聞

「トランジションファイナンス」に関する鉄鋼分野におけるロードマップ(案)(経済産業省)

 こうしたロードマップが出来上がることで、2050年への道筋が明確になり、目標達成への説得力が増す。海外から「日本は脱炭素社会の実現に後ろ向きだ」と見られがちな印象の払拭に役立つかもしれないと日本経済新聞はいう。

 ただ、こうした数値が盛り込まれることで、鉄鋼業界にとっては自由な事業活動が制約されるという懸念があるという。

 

 

 二酸化炭素の排出量が多い産業での、CO2削減に資する技術開発が活発化しているのだろうか。

 日本製鉄が、常圧のCO2からポリウレタン原料を直接合成することに世界で初めて成功したという。

日本製鉄、常圧CO2からポリウレタン原料: 日本経済新聞

 脱炭素が鉄鋼業に重くのしかかる中、製鉄所でのCO2排出削減に寄与する技術として、注目が集まっていると日本経済新聞はいう。

 日本製紙が、セルロースナノファイバー強化樹脂の実証生産を本格化しているという。

CNF強化樹脂の実証生産を本格化|ニュースリリース|日本製紙グループ

 様々な課題はあるのだろうけれども、そろそろ温室効果ガス削減目標の根拠を明確にする必要があるのだろう。

 

【脱炭素社会を目指しているのではないか】風力発電で動くガンダム、カーボンニュートラルに動く企業たち

 

 新電力のみんな電力が、横浜山下埠頭にあるバンダイナムコグループの「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA(ガンダムファクトリーヨコハマ)」に、横浜市⾵⼒発電所「ハマウィング」で発電した電力を供給することに合意し、今年5月から供給をはじめたという。

 実物大の全高18メートルの動くガンダムが、再生可能エネルギーで作動する、少しばかりうれしくなるニュースだ。

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(写真:みんな電力

 バンダイナムコグループも、CO2排出量の削減目標を設定し、その削減に努めてきたという。2020年度のグループ全体の排出量は2013年度対比約29%の削減となる52,256t-CO2となったそうだ。2021年4月には脱炭素化社会に向けた目標として、2050年までに社屋、自社工場、直営アミューズメント施設等自社拠点におけるエネルギー由来の二酸化炭素排出量 実質ゼロを掲げ、目標達成に向けた取り組みを推進しているそうだ。

 

 

 国がカーボンニュートラル宣言を行ったことで、こうした企業による取り組みが加速している。

 日立製作所も、2050年度までに自社だけでなく取引先などを含むバリューチェーン全体で二酸化炭素排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラル目標を発表した。取引する約3万社の中で調達額などを加味し約800社を選定、目標達成に向け計画を策定するそうだ。

日立、バリューチェーン全体でCO2実質ゼロへー取引先と計画策定へ - Bloomberg

19年度のバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量約1億1000万トンのうち、9.2%が原材料・部品の調達といったサプライチェーンの上流、約87%が販売製品の使用や廃棄・リサイクルなどの下流から出たものだった。(出所:ブルームバーグ

 電波新聞によれば、脱炭素社会づくりに役立つ事業や技術の開発を推進、再生可能エネルギーで発電した電力を長距離でロスなく送電する取り組みに注力するとともに、エネルギー効率の高い高速鉄道車両などの提供にも取り組む方針という。

 日立の発表資料には、アップルのように残る二酸化炭素の排出分の相殺方法についての記載はないが、それでも、1億トン以上の二酸化炭素の排出を削減し相殺し、なおかつ成長を維持しようといていくのだろう。

 

 

 国内企業からはさまざまな環境目標が示されているが、排出量の多い製造業でバリューチェーン全体(自社の生産活動、調達、製品・サービスの使用など)のゼロ目標を出すのは珍しいとブルームバーグはいう。

 まだ産業界の一部かもしれないが、それでも脱炭素に向け動き始めている。

 政権が変わり、次の内閣が誕生すると、また、脱炭素政策が変わったりすることがあるのだろうか。

 脱炭素を是認しているのだろうけれども、候補者の中には、ロボットや半導体など、もう違う成長投資のことを言い出す人もいる。今の政権との違いを述べなければ、新しさがないと受け止めかねないからなのだろうか。

 しかし、それでいいのだろうか。今までと変わり映えのしない相変わらずの経済中心の発想ではなかろうか。それがムダを生み出し、気候危機につながったのではないであろうか。脱炭素を目指す社会にあって、そこで成り立つ経済社会を考えること、それを天命とすべきではなかろうか。

 日本も世界の中のひとつの国である。その世界も脱炭素社会を目指し、気候危機に挑戦している。しかし、まだそれに乗り切れない途上国がたくさんある。その中にはまだ日常的に電気を利用できない人たちさえいる。そうした人々を包含し、そしてその人々とともに持続的な成長路線を築いていくことがSDGsの精神にもかなうのではなかろうか。もうそろそろ目を覚ましてもらわなければいけない。

 

【環境危機】未来が怖いと感じる若者、現実を見ようとしない人たち

 

 気候変動の問題と地球の未来について不安を抱いている若者が世界では9割以上になるとの調査がまとまったという。調査を行ったのは英バース大、米国、英国、インド、フィリピンなど世界10カ国、16~25歳の若者1万人が対象。

若者9割超が気候変動不安 「未来怖い」75%、政府批判も―10カ国調査:時事ドットコム

 JIJI.COMによれば、各国政府の取り組みが不十分との見方も多数を占め、若者たちにいら立ちが広がっている実態が浮き彫りとなったという。

気候変動とその影響が「心配」と答えたのは95%。このうち、「とても心配」は32%、「極めて心配」は27%だった。また、45%以上が「気候変動問題への不安が日常生活に否定的な影響を及ぼしている」と回答した。さらに75%は「未来が怖い」と感じ、「環境危機への不安から将来子供を持つことにためらいを覚える」と答えた人も約4割いた。 (出所:JIJI.COM)

 意識するしないにかかわらず、多くの人たちが将来に不安を感じたり、心配しているのではなかろうか。それは漠然としたものなのかもしれない。

 

 

 政府が2050年のカーボンニュートラル達成を目標にすると、産業界が一斉にそれに向かって動き出したが、なかなか実感が伴わない。30年先のことを想像することは難しいし、絵空事のように聞こえてしまうのかもしれない。

 水素の活用というけれど、FCV燃料電池車、エネファームはどれだけ普及しているのだろうか。それよりは、再生可能エネルギーの利用拡大で価格が下がったというような話があれば、もっと現実味を帯びるのかもしれないが、そうならない。世界の多くの国で、太陽光や風力、無償のエネルギー利用で電気料金が下がっているというのに、まだ石炭や石油より高いというのだから、矛盾を感じずにはいられない。

 企業の一部からも同様に、再生エネコストが「非常に高い」との声が上がり、世界がカーボンニュートラルを目指す中で、国内生産を維持できなく恐れがあるという。

ローム社長、半導体生産の海外移転「検討の余地」-再生エネ負担 - Bloomberg

ロームでは現在、前工程の半導体を国内拠点で生産している。工場は原則24時間稼働で、再生エネコストの安い電力の安定的な確保が利益率なども左右する。ブルームバーグNEFのリポートによると、例えば日本の太陽光発電コストはドイツや米国、中国より2-4倍高い。 (出所:ブルームバーグ

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 東電が、福島第一原子力発電所事故に伴う廃炉など約16兆円の関連費用を捻出するため、経営改善に取り組んでいるというが難航しているという。

 柏崎刈羽原発での相次ぐ不祥事で、柱になるはずの原発再稼働見通しが立たない。こうした状況下、再エネ事業の拡大で活路を見いだそうとしているという。

東電HDの再エネ子会社、環境債の継続発行や他社との連携推進へ - Bloomberg

 ブルームバーグによれば、風力発電など再エネ事業開発で2030年度までに1兆円程度の投資が必要になるという

 

 

 自民党の総裁選が始まった。各候補がそれぞれの主張を繰り広げる。地球温暖化の抑制に極めて大きな影響を及ぶすエネルギー政策においてもその違いが現れている。

 小型モジュール原子炉や地熱発電の利用を説く人がいる。今、ここにある現実を直視ているのだろうか。もう現実的に考えなければならないときのはずだ。新たな技術開発を伴うことを持ち出して、はぐらかし、問題を先延ばしてはならない。

 再生可能エネルギーの利用拡大と脱原発の問題を避けて、もう前に進むことはできないはずだ。