米GEが火力発電から撤退すると聞いたときは少々驚いた。GEの祖はトーマス・エジソンだ。彼が火力発電で電気をおこし、白熱電灯を灯したことで電気の時代の扉が開いた。もう150年近い前のこと。今では誰もが電気を使るようになった。エジソンのおかげなのかもしれない。
GEによれば、米ニューヨーク州北部に位置するスケネクタディという町で、エジソンが発電機の製造を始めたことで、この地が電気発祥地と呼ばれることになったという。GEは祖業のひとつから撤退することになったが、発電機事業自体は、130年以上前からこの町の工場で続いているという。
GEが採用した「リーン・マネジメント」
GEがこの工場の「リーン方式」によるカイゼン活動、経営改革を紹介する。この内容を誇らしいと思っていいのか、複雑な気分といっていいのかよくわからない。
「リーン方式」とは、他ならぬ「トヨタ生産方式」のことで米国で昇華したといわれる。
GEスケネクタディ工場に導入された最新鋭の設備が投入された工程では改善がみられ生産量が増加したというが、それはさに新たな問題を発生させることになったという。結局、リードタイムや在庫の問題解決にはならず、売上が伸びることもない。
事実、トヨタ生産方式を実現した大野耐一は、こうした「量産の無駄」を製造における「最大の罪」と表現しています。 (出所:GE Reports)
「作業場の設備を撤去することで、「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)として知られるもう一つのリーン原則に焦点を当てることが可能となりました」。
「リーン方式」の考え方が、米国産業界に取り入れられていることは知ってはいたが、こう具体的に書かれると、日本の製造業が競争力を失ったのもわかるよう気になる。
「まずは現場の掃除からです」とアームストロングは説明します。
「現場が整理されていないと、人間工学的にも安全性の面でも問題が生じるだけでなく、その日に必要となる銅線が十分にあるかどうかも分かりません。すべてを整理整頓することで、日々の業務に必要となる工具や材料を目視して確認することができました。」
さらに、生産ラインからは個人用ロッカーも撤去することで、従業員がロッカーから自分の工具を取り出す手間を省くことができました。
「これには反論もありました」とアームストロングは認めます。「現在はワークステーションのシャドウボード(工具の形を描いた壁)に必要な工具が完備されています。すべて共用可能で、現在の新型コロナウイルス・パンデミックに対応した安全・衛生措置も強化されました。」 (出所:GE Reports)
「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」、「ムダの排除」、「効率化の追求、徹底」が世界標準になっているとは知ってはいたが..... ここまで徹底されるようであれば、必然生産性は向上するのだろう。
「リーンは生き方そのもの」とGEはいう
「リーンマネジメント」は、 GEの変革の中核的なツールであるという。
日本から導入されたリーン生産方式は、米国企業に劇的な変化をもたらしました。
数多くの経営手法と同じく、この方式にも独自の用語集やアイデアが含まれていますが、日本語で継続的な改善を意味する「カイゼン」という一つの単語に要約することができます。
「カイゼン」とは日常的な作業の改善に努めることを意味し、発電機の製造工場や会計事務所、家庭にさえも適用することが可能です。
リーンは「複数のツールのセットではなく、もはや生き方そのものなのです」とカルプは語っています。 (出所:GE Reports)
リーン生産方式の主要なツールである工場の「現場視察(ゲンバ・ウォーク)」を開始しました。
この観察に基づいて、GEの主力製品であるH53発電機の具体的な「バリューストリームマップ」が作成されました。
このマップは、全体的な製造プロセスを個々の生産工程にまで分解したもので、従業員とマネージャーがどの部分に価値を加え、どこにムダがあるかを特定することに役立ちます。
「重要なのは、お客様がリードタイムの短縮や品質の改善、商品の値下げを求めているという点です」 (出所:GE Reports)
「kaizen」や「genba」、「5S」など、トヨタ生産方式の重要なワードがそのまま使われていること少々戸惑うし、ここまで「カイゼン」が信奉されていることに驚く。
アマゾンのジェフベゾス氏やアップル、ナイキ、スタバなどそうそうたる企業がこの「リーンマネジメント」を経営に取り入れていると聞く。
リーンにおいては、経営陣から従業員までチーム全員が企業文化を変えることにコミットし、継続的な改善に集中する必要があります。
私たちは最初から彼らの賛同を得る必要がありましたが、それを可能にする唯一の方法は自らが模範を示すことでした。 (出所:GE Reports)
日本企業の「カイゼン」力はどのくらいなのだろうか
BNPパリバ証券市場調査本部の中空氏が、政府が、温暖化ガスの排出を2050年までにゼロとし、脱炭素社会実現を目指すことを宣言したことを、世界の潮流を踏まえた方針発表は海外からも称賛されたと指摘し、後は実行あるのみだという。そのための3つの提案を日本経済新聞に寄稿した。
その中で、中空氏は、国内に埋もれている技術を掘り起こし、活用することであるといい、「日本の製造業は技術が衰えてしまった」「時価総額の大きい『GAFA』のような企業は日本には生まれない」などと嘆いている場合ではないという。
とっぴな発想が不足しているだけで、日本人は目の前の課題を解決する能力にたけている。
「二酸化炭素の排出量を減らす」「プラスチック製品を循環型のものに変えていく」といった技術改良では、日本企業は必ずや成果を出すはずだ。そういう細かい技術を日本中のあちこちから発見し、サステナブルファイナンスで資金をつけ、その改良した技術を海外に輸出するのもいいだろう。 (出所:日本経済新聞)
少し買い被りし過ぎてはいないだろうか。GEのレポートを読んでそんなことを感じる。果たしてどこまで、目の前の課題を解決する能力が残っているのだろうか。
突飛なことを着想する外国企業も、結局、日々の活動では、「カイゼン」のような基本的なことをしっかりやり、原理原則に従って経営されているような気がする。逆に言えば、そうした活動があるから、突飛な発想に至るのかもしれない。それはトヨタをみてもいえることかもしれないが。
エネルギー関連産業での構造改革のニュースがしきりに流れる。独自技術はなく海外企業との提携する話ばかりだ。
マイケル・ポーター、フィリップ・コトラーに、チャールズ・オライリ、そんな輸入された理論ばかりでなく、日本生まれの経営手法に回帰し、徹底的に学び直す必要があるのかもしれない。そんなことを感じた。