Up Cycle Circular’s diary

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はじまった非効率石炭火力休廃止の議論と経産省のジレンマ

 

 7月3日、梶山経産相が、旧式の石炭火力発電所を2030年度までに休廃止する方針を示した。この具体策検討のため、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会」「電力・ガス基本政策小委員会」が、7月13日に開催されたようだ。

 

早期の休廃止に踏み切る事業者への優遇措置や、太陽光など再生可能エネルギーの導入促進に向けた送電線利用ルールの見直しなどを議論。

年内をめどに提言をまとめ、来夏にも改定するエネルギー基本計画に反映させる。 (出所:JIJI.COM))

 

 時事通信によれば、委員からは原発再稼働が遅れる中での安定的な電力供給維持や、休廃止で減る発電所立地地域の雇用への配慮が必要との意見が相次いだという。

 

www.jiji.com

 

 

 

 この小委員会開催にあたり、経産省が示した議事次第には、「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」を議事にあげ、同じタイトルでの資料に提示されたようだ。

 

資料冒頭には、「本日議論いただきたいこと」として梶山経産相の指示が示された。

7/3(金)の閣議後会見において、梶山経済産業大臣から、

(1)2030年に向けて非効率石炭のフェードアウトを確かなものにする新たな規制的措置

(2)安定供給に必要となる供給力を確保しつつ、非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設

(3)既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再エネ導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し

等の具体策について、地域の実態等も踏まえつつ、検討を進めるよう指示があったところ。そこで、本日は、上記具体策の今後の検討の方向性についてご議論いただきたい (出所:経済産業省公式サイト 「第26回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会」)

 

 石炭の現状、技術開発などが説明されたのち、建設中の最新鋭石炭火力の運転開始により、高効率石炭火力による発電比率が約20%となる可能性ことを指摘し、「エネルギーミックスの達成には、非効率石炭火力による発電をできる限りゼロに近づけていく必要」という。

 2030年のエネルギーミックスを実現するためには、非効率石炭火力の停止が必要になったということであろうか。

 

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(資料出所:経済産業省公式サイト「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」

 

 石炭に対する逆風としての、ESG投資やダイベストメントの動きが説明されている。

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(資料出所:経済産業省公式サイト「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」

 

「参考」としてながら、「巨大な台風や首都直下地震等の大規模災害の発生が予想されると共に、脱炭素化の要請が強まる中、我が国の電力ネットワークは、レジリエンスを抜本的に強化し、再エネの大量導入等にも適した次世代型ネットワークに転換していくことが重要」と経産省は指摘する。

 

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(資料出所:経済産業省公式サイト「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」

 

「非効率石炭火力のフェードアウトを進める中でも、エネルギーミックスの実現はもちろん、脱炭素化やレジリエンスの強化の観点から、あらゆるエネルギー源をバランス良く活用していくことが重要」と指摘し、「原子力発電所の最大限活用」を明記し、「再生エネルギーの主力電源化」という。

 

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(資料出所:経済産業省公式サイト「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」

 

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(資料出所:経済産業省公式サイト「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」

 

 経産省が示した資料を読むと、経産省の描く石炭火力の落着点とエネルギーミックスに対するジレンマが透ける。

 さしあたって、小委員会では、非効率石炭火力の「新たな規制的措置」と「早期退出を誘導する仕組み」が議論となるようだ。

 

www.meti.go.jp

 

 

 

 読売新聞によれば、これら議論の結論を年内に出し、省エネ法などの法令改正を進めるという。

 

13日の会議では、政府が打ち出した段階的な休廃止方針について、「事業者に大きな事業構造の転換を迫る」と前向きに評価する意見が出た。

一方で制度見直しを「小さな改革」で終わらせず、「抜本改革を速やかに進めることが大事だ」と注文もついた。 (出所:読売新聞)

 

 「石炭火力の休廃止が進めば、代替電源が必要となる」。「複数の委員は、休止が続く原子力発電所の再稼働拡大が必要だと指摘した」と読売新聞は伝える。

 

www.yomiuri.co.jp

 

 環境団体の気候ネットワークは、7月3日の梶山経産相の方針表明を受け、「政府方針は石炭火力の延命策にすぎず、全く不十分だ」と指摘していたという。

 

 気候ネットワークの平田仁子理事は「休廃止の数では英断のように映るが、見せかけの方針だ」と批判した。 (出所:共同通信

  

this.kiji.is

 

 非効率石炭火力の休廃止ということで、気候変動対策としては一歩前進したとみていいのかもしれないが、様々な課題が山積していそうだ。

 国民生活に影響を出さずに現実的な対応することも求められるので、難しいかじ取りが必要ともいえる。

 

 「経産省としてもう一歩踏み込んでいけるのか」、気候変動を抑え、現実的に、理想的なエネルギーミックスを実現するためには経産省の英断が求められているのかもしれない。

 

 

「関連文書」

dsupplying.hatenablog.com

 

www.itmedia.co.jp

 

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