成田エクスプレスで成田空港に向かう車窓から見える風景が好きだった。成田駅を過ぎてしばらくすると里山の風景が広がる。小高い丘が点在し、その間を埋め尽くすように水田が拡がる。そんな風景をぼんやりと眺めていた。心が落ち着くということだろうか。無意識の中では何かを想像していたのかもしれないが、意識下では認知はされていない。やがて電車はトンネルに入る。成田空港が近づく。意識はもう出張のことに切り替わる。
そんな繰り返しがしばらく続いたあと、海外赴任になった。シンガポールに6年近くいた。住んでいたのは街の中心だった。緑が多いとはいえ都会だ。慣れない土地で暮らすことを考えて便利さだけからその場所を選んだ。選んだアパートは北向きの部屋。南国では当たり前のことのようだ。強い陽射し入らずにすむ。部屋のなかは石づくり。ひんやりとした感じがした。
サプライチェーン関係、調達の仕事をしていた。マレーシアペナン近くの工場では200万台/月近くの生産をしている。その工場に資材を供給するための仕事だ。その関係もあってよくマレーシアには出かけてた。
マレーシアの高速道路を走っていると小高い丘にアブラヤシを見かける。成田空港近くでみた風景を思い出したりしていたのかもしれない。でも、その時は、熱帯雨林を伐採してまでアブラヤシ畑にする必要があるのだろうかとぼんやりと考えていたことを記憶している。インドネシアでの焼き畑での煙害が毎年のようにあったからもしれない。
顧客は米国企業がメインだった。サプライチェーンでの品質や環境にうるさかったし、要求事項も多かった。その上、たびたびアップデートされる。専門チームが訪問してくることもたびたびあった。比べると日本企業のほうが甘いなと感じていた。
彼らから学ぶことが多くあった。
合弁会社ができるということもあって日本に帰任した。帰任して選んだのも駅近、便利なところだった。会社が近かったこともあって、歩いて通勤したので、何も駅近を選ぶ必要はなかったかもしれない。
帰任してからしばらく経ったあるとき、新聞の里山特集に目が止まった。興味があったのか、同じよう記事を探してはスクラップブックを作ったりもした。意識はしていなかったが、赴任前に眺めていた風景の影響があったのかもしれない。でも、その習慣もいつしか終わっていた。
そんな時だっただろうか、スタバのバリスタに勧められマイボトルを持つようになった。森林資源の保護に役立つからと言われ、それならばと思って習慣だった紙コップでのコーヒーを止めることにした。
荒廃した森林が、昨年の台風15号での大きな被害をもたらしたとNHKのニュースが伝える。
少しばかり気になる。
ボランティアで森林保全活動をする責任者の方が「倒木を防ぐためにも、人が手を加えた森は人が責任を持って手を入れ続けなければならないことを知ってほしい」と話す。
オーストラリアやカリフォルニア州で起きる森林火災のことも気にしている自分がいる。言語化はできていないが、森林に対する思い入れがあるのかもしれない。
かつて数千年の間、どの土地でも先住民たちは火との健全な関係を維持してきた。地球上で初めて森林火災が起こって以来、火は常に生態系のリセット役となっており、先住民たちはこの働きを理解していたのだ。小さな火で茂みを焼いておけば、あとで成長しすぎて手の付けられない大規模火災に発展するのを防ぐことができる。(出所:wired)
こうした記事を読んでは、先人たちの智慧から何かを学びたいとも思っているのかもしれない。
森や木とかかわる 林野庁の「森林 × SDGs」
林野庁が進める「森林 x SDGs」に目がとまった。食い入るように見る自分がいる。けっこうときめいたりもしている。
(資料出所:林野庁「SDGsと森林・林業・木材産業の関係性」)
「森林 x SDGs」のコンセプトブック「私たちと森のこれから~幸せな未来に向けた5つのアクション~」を林野庁職員有志によるプロジェクトで作成したという。
「私たちの暮らしが、森や木と関わったら、もっと幸せになれるのではないか」という願いをこめているという。
ちょっと手間や時間をかけて、森を訪れたり、暮らしの中で木をつかったりすることの先には、とても心地いい暮らしに出会えるのではないか・・・そんな気づきを与えてくれる、素敵な事例の数々をご紹介します。
(資料出所:林野庁「私たちと森のこれから~幸せな未来に向けた5つのアクション~」)
このコンセプトブックはこんな文言で始まる。
あなたは、2050年にどんな暮らしをしていたいですか?
移動や通信の⼿段がもっと便利になったら、決まった家に住むのではなくて、あちこちを⾃由に⾏き来して、もしかしたら、宇宙にだってエレベーターで簡単に⾏けるかもしれません。AIはますます発達して、仕事は全て代わりにテキパキ⽚付けてくれます。そんな姿に魅せられて、あなたの⼦どもは、ロボットと結婚するかもしれません。世界の⼈⼝が爆発的に増えて、⾷料の奪い合いになったら、栄養補給さえできれば、⾍だってなんだって⾷べましょう・・・巷には、そんな未来予想図があるようです。
そんな未来の中で、私たちの”幸せ”は何なのでしょうか?
世の中が究極的に便利になっていったら、逆に⼈は、⼿間や時間をかけなければ実現できないことに、本当の喜びを⾒出すのではないでしょうか。
(出所:林野庁「私たちと森のこれから~幸せな未来に向けた5つのアクション~」)
「忙しい毎⽇の中で森を訪れたり、便利な暮らしの中で⽊をつかったりすることは、ちょっと⼿間や時間がかかることです。でも、その「ちょっと」の先には、すごく幸せで、温かくて、⼼地いい暮らしに出会えるのではないか・・・そんな気づきを与えてくれる、素敵な事例の数々をご紹介します」。
(資料出所:林野庁「私たちと森のこれから~幸せな未来に向けた5つのアクション~」)
たぶん遠回りをしているのだろう。
最短距離をまっすぐにいけるのであれば、この方法がよさそうな気がする。