何事も一直線に問題が解決されることはない。紆余曲折、多少の寄り道があって、曲がりくねった道を進むことになる。
脱プラ、この課題もその道を辿っているのだろうか。コロナ渦で、使い捨てプラスチックスが増え、それに合わせ廃棄物も増加する。ロイターが「特別レポート」を発行し、世界の「プラ危機」を報告する。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)でプラスチック業界が激震に見舞われている。武漢からニューヨークまであらゆる地域で、フェイスシールドや手袋、食品のテイクアウト用容器、オンラインショッピングで注文された商品の配送用緩衝材などの需要が増えているが、こうした製品はリサイクルできず、廃棄物が急増している (出所:ロイター)
ロイターによれば、コロナ禍でリサイクル品とバージンと呼ばれる新品プラスチックスの間で価格競争が激化、世界各地でリサイクル品が、その競争に負けている実態が明らかになったという。
- 原油価格の下落が追い打ち
- プラスチックスの増産に動く石油・ガス業界
- プラスチックスの海に溺れる
- 企業はプラごみの削減を支援するというが
- 海洋に漂うプラごみは無くならない
- 海洋の底に1400万トンにおよぶプラごみ、陸上はもっと深刻との声
- 2021年 欧州で始まるプラごみ税
- まとめ
原油価格の下落が追い打ち
工場から出荷される混じり気のない新品プラスチックス材料を「バージン材」と呼ぶ。そのバージン材の価格は、一般的なリサイクル材の半分ということもあるとロイターは報告する。
市場調査会社ICISによると、ペットボトル用のリサイクルプラスチックスにおいてはバージン材に比べ83 - 93%高だという。その理由は、バージン材の原料となる原油価格の下落による。原料の価格が下落すれば、当然、それをもとにして作られるバージン材の価格も下落する。
ロイターによれば、新型コロナ感染拡大以降、世界各地のリサイクル業界は大打撃を被り、その落ち込みは欧州で20%以上、アジアの一部では50%で、米企業の一部は60%に達しているという。
プラスチックスの増産に動く石油・ガス業界
今後5年間に4000億ドル(約42.3兆円)がプラスチックスの増産のために投資される計画があるという。石油・ガス業界はバージン材の需要増が今後の石油・ガスの需要の伸びを支えると期待しているそうだ。
その背景には、アジアなどで中間層が新たに大量に生まれ、プラスチックス製消費財の利用が高まるという。
エクソンモービルの広報担当者は「向こう20年から30年間にわたり、人口と所得の伸びによってプラスチックの需要が増える見通しだ。
プラスチックは安全で、便利で、高い生活水準を支える」と述べた。 (出所:ロイター)
エクソンモービルが、2018年の向こう7年の投資計画で二酸化炭素の排出が増加するとの検討していた内部文書をブルームバーグが公表した。こうした見通しがあっても不思議なことではないのかもしれない。
新興国で生まれる新たな中間層も豊かな生活を送る権利を持っている。それは住む環境に依存することなく、先進国の人々と同じように消費を楽しむことになっていく。
プラスチックスの海に溺れる
「廃棄物処理やリサイクルで制度の整備が遅れている国は、さらに廃プラが増えれば処理する体制が整わないだろう」。
と指摘する投資会社のサステナビリティ責任者の声をロイターが紹介する。
「われわれは文字通りプラスチックの中におぼれつつある」
2017年に科学誌サイエンスに掲載された調査よると、1950年以降に世界中で発生したプラスチック廃棄物は63億トンで、その91%はリサイクルされていない。 (出所:ロイター)
リサイクル会社QRSのグレッグ・ジェーソン氏は、
「パンデミックで新プラの津波が一段と大きくなった」と話しているそうだ。
企業はプラごみの削減を支援するというが
多くの企業が、プラごみに懸念を表明し、削減を支援している。しかし、それはほんのわずかにすぎない。
ロイターによれば、「廃棄プラスチックをなくす国際アライアンス」と石油・化学企業が約束した廃プラ対策投資は5年間で総額20億ドル余りで、年間では4億ドルで、売上高に占める比率は極めて小さいという。バージン材のための投資に比較しても微々たるものだ。
海洋に漂うプラごみは無くならない
ロイターによると、各社が発表済みのリサイクル目標を達成しても、海洋投棄されるプラごみは現在の1100万トンから2040年には2900万トンに増加し、投棄の総量は6億トンに達するという。
「廃棄プラスチックをなくす国際アライアンス」のジェイコブ・デュアーCEOは、
「一夜では変わらないと分かっている。われわれにとって重要なのは、私たちのプロジェクトが終着点ではなく出発点だと見なされることだ」
と話したとロイターは伝える。
その国際アライアンスは発展途上国で清掃作業を行っている小規模なNGOと協力関係を結ぶと発表しているそうだ。
これが現実ということであろうか。
海洋の底に1400万トンにおよぶプラごみ、陸上はもっと深刻との声
世界の海の底に1400万トンものマイクロプラスチックスが堆積しているかもしれないとオーストラリアの研究機関CSIROが発表したという。その内容をBBCが写真付きで公表した。
研究を行っている科学者の1人であるDenise Hardesty博士は、1400万トンは本当に大きいように見えるかもしれませんが、毎年海に入ると考えられているプラスチックの量と比較して、少ないと述べているという。彼女はまた、海よりも陸に閉じ込められているものがはるかに多いとも述べているそうだ。
2021年 欧州で始まるプラごみ税
EUでは、リサイクルできないプラスチック廃棄物1キロ当たり0.80ユーロのプラごみ税が2021年から開始される予定になっているという。この先、EUがどんな形でプラごみ問題に対し、対応していくか注目されることになるのだろう。
一方で、ベルギーのブリュッセルタイムズは、EUの厳しいプラ対策があっても、まだ様々な課題ががあることを指摘する。
EUは、リサイクルされるプラスチック廃棄物の割合を2025年までに50%、2030年までに55%にするという目標を設定しているが、プラスチック廃棄物の3分の1を輸出して処理しており、残った廃棄物はあまりリサイクルされていないという。しかし、2021年1月にはバーゼル条約が施行し、ほとんどのプラスチック廃棄物の出荷は禁止される。
これは、EU内でこの廃棄物を処理する能力の欠如と相まって、新しい目標を達成するための別のリスクになるとブリュッセルタイムズは指摘する。そのリスクに、違法な輸送や廃棄物犯罪の増加などがあるという。
まとめ
世界の動向を見てみると、どの国も「脱プラ」に苦慮している姿が見えてくる。
海は全世界共通の財産であり、世界のどこにもつながっている。一国だけが対策したからといって、海洋のプラごみ問題はなくならない。各国での政策的な規制も必要なことだろうし、リサイクル政策も欠かせない。そして、何よりも企業努力が不可欠であることは言うまでもない。
国内でも様々な脱プラにつながりそうな動きが出てきている。みながもっと協力できればいいのかもしれない。国内にサーキュラー・エコノミーの基盤を作り、漏れ出るごみを抑制、プラスチックスの使用量自体も減っていくことが望ましいのだろう。
「脱プラ」、広く目を世界に転じてみれば、まだスタート地点に立っていないのかもしれない。国際貢献をどう果たしていくかということも真剣に考えないければならないのだろう。そんなプレイヤーが増えることを切に願うばかりだ。
もちろん、個人の脱プラ活動が必要ということに変わりはないが。
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