EUが脱炭素への動きを加速させています。欧州委員会が、域内の温暖化ガス排出量の大幅削減に向けた包括案を公表しました。
ロイターによると、フォンデアライエン欧州委員長は「欧州は50年にクライメートニュートラル気候中立を宣言する最初の大陸となり、欧州は世界で初めて具体的なロードマップを明示したと述べたといいます。
ただ、この包括案はEU加盟国や欧州議会での審議と承認が必要で、約2年を要する可能性があるそうです。
ガソリンやディーゼルなどの内燃機関エンジン車の新車販売を2035年に事実上禁止する他、域外から輸入する炭素含有量の多い鉄鋼やアルミニウムなどに対する国境炭素税を導入する計画。 (出所:ロイター)
中国では、全国的な炭素の排出量取引制度(ETS)が月内に正式に開始されるといいます。
ETSの第1段階では2000以上の発電所が対象となり、いずれセメントや鉄鋼、アルミニウムなど、他のセクターにも広げると説明した。具体的な日程は明らかにしなかった。 (出所:ロイター)
欧州の国境炭素税の導入は国際社会の理解が不可欠と言われていました。中国の発表はEU政策を追認すると同じ意味なのでしょうか。
環境省によれば、「カーボンプライシング」とは、排出されるCO2(二酸化炭素:カーボン)に価格付け(プライシング)する温暖化対策の仕組みのことをいいます。
「炭素税」:燃料・電気の利用(=CO2の排出)に対して、その量に比例した課税を行うことで、炭素に価格を付ける仕組み
「国内排出量取引」:企業ごとに排出量の上限を決め、「排出量」が上限を超過する企
業と下回る企業との間で「排出量」を売買する仕組みのことをいいます。炭素の価格は「排出量」の需要と供給によって決まるといいます。
「クレジット取引」:
- 非化石価値取引:再生可能エネルギー(太陽光・風力等)・原子力といった化石燃料でない(非化石)エネルギーがもつ価値を売買するもの
- Jクレジット:先進的な対策によって実現した排出削減量を「クレジット」として、売買できるようにするもの
- JCM(二国間クレジット制度):途上国と協力して実施した対策によって実現した排出削減量を「クレジット」として、削減の効果を二国間で分け合う制度
- ゼロエミッション車クレジット取引:販売するゼロエミッション車をクレジット化し、自動車メーカーに対し一定比率以上のクレジットの取得を求めるもの(米国ではカリフォルニア州など10州で実施
「炭素国境調整措置」:CO2の価格が低い国で作られた製品を輸入する際に、CO2分の価格差を事業者に負担してもらう仕組み。
※CO2の価格が相対的に低い他国への生産拠点の流出や、その結果として世界全体のCO2排出量が増加することを防ぐことが目的
※EU・米国で検討が進行中
国内では、「カーボンプライシング」については経団連が反対の立場を表明し、経産省と環境省との間でも、温度差が生じているといわれています。
国内議論を早期にまとめ上げていく必要がありそうです。
国内世論がオリンピックで揺れています。気候変動、脱炭素では世界的なリーダシップを発揮できるのでしょうか。
2021.7.18 追記
中国で16日、温暖化ガスのETS排出量取引制度の取引が始まったそうです。1トン=48元(7.42ドル)の初値を付けたとロイターが報じました。
それによると、ETSは第1段階で、約2225の発電所、二酸化炭素排出量で40億トン以上を対象とし、排出量で世界最大の市場となるといいます。
初値は、試験的に取引されている7つの市場の平均価格40元より高いが、EUでの平均取引価格の約50ユーロ(59.02ドル)を大きく下回る。終値は6.7%高の1トン=51.23元(7.92ドル)。上海証券報によると、410万トン分の排出枠が取引され、出来高は2億1000万元(3200万ドル)だった。 (出所:ロイター)
EUが示した「炭素国境調整措置(国境炭素税)」の導入案は、EUのETS排出量取引制度で取引されている「排出枠」の価格を基に、輸入品の製造過程で生じた温室効果ガスの排出量に応じて賦課金の額を算出し上乗せする仕組みといいます。3年間の移行期間を経て、2026年から実際に徴収を始めるそうです。
EUに輸出する企業が自国内で「炭素価格」を支払い済みだと証明できれば、その分は控除可能となる。まず想定されるのは、EUのようなETSを導入している場合だ。すでに韓国やカナダが類似制度を持つほか、中国も今年運用開始。米国ではカリフォルニアなど一部の州が導入している。(出所:JIJI.COM)
「カーボンプライシング(炭素への価格付け)」の取り組みに遅れる日本が、将来的に影響を回避できるかは不透明だとJIJI.COMは指摘します。
ロイターが報じた中国の非営利環境団体「環境防衛基金」のフレッド・クルップ理事長の言葉が印象的です。
「中国は気候行動の進展において重要な節目に達した。世界最大の炭素市場に必要な最後のピースが埋まった」。
企業の権益を優先させるばかりの議論ではなかなかまとまらず、内容も希薄化することはないのでしょうか。企業にとっても気候変動対策は避けることはできないはずです。EU、中国の動きからすれば、十分に対策を行えば、長い目でみれば、それが企業の利益になるということではないのでしょうか。
社会課題を解決しようという強い意志がなく、未だに短期的に、楽に儲けることばかり考えているようしか見えないのが残念でなりません。