政府の口先介入でも止まらなくなった円安が、日銀植田総裁の先週末のフォワードガイダンス的は発言を手がかりに、円高に転じたようです。これをきっかけにして、市場にも動揺が走ったようです。
長期金利が急上昇し、株式市場では銀行株が大幅高となり、不動産株は下落したといいます。
長期金利急上昇、日銀総裁引き締め示唆との観測-円上昇、銀行株高い - Bloomberg
日銀が7月に長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)の運用を柔軟化し、市場で浮上していた金融正常化の実現時期を巡る観測が今回の総裁発言を受けて一気に前倒しされてきた格好だ。(出所:ブルームバーグ)
金利ある世界
専門家たちが総裁発言の真意を探っています。来週21、22日に開かれる金融政策決定会合に注目が集まり、政策決定後の植田総裁の会見が焦点といいます。
「金利ある世界」はどうなる? ローンや財政に影響大 - 日本経済新聞
いずれにしてもこれまでの常識が覆り、この先は「金利はない」から「金利はあるもの」へと変わっていくことになるのではないでしょうか。今、その端境期なのかもしれません。
金利が上昇すれば、住宅ローンも金利が上がる一方で、貯金金利も上昇していくのでしょう。その影響は国の財政にもおよび、プラスマイナスで様々なことに広がっていくことになるのでしょう。
確信持てないインフレ、デフレからの脱却
消費者物価が3%を超える日々が続いています。しかし、未だインフレに確信を持てず、デフレ脱却の兆しが見えてきた段階というのが市場関係者の見方のようです。
ただ値上げは食品を中心にして進み、3%以上物価が高騰していると感じている消費者が多いのではないか、個人消費はそろそろ値上げに耐えかね、節約モードになるのではないかという専門家もいるようです。国内の値上げ品目数が少なくなっていることからも、価格転嫁に個人消費がついていけない状態になりつつあるのではないかと指摘しています。
賃上げへのハードル
そうなると次の焦点は賃上げということでしょうか。植田総裁も「来春の賃上げが十分だと思える情報やデータが年末までにそろうことも可能性としてはゼロでない」と発言、来年の賃金上昇を見極めようとしているようです。
他方、経団連は「2024年度税制改正に関する提言」を発表、従業員の賃金を引き上げた企業の法人税を軽くする特例の拡充を要望し、赤字で税優遇を受けられない企業に配慮した制度の新設を提案しているといいます。
少子化対策へ消費税増税「有力な選択肢」 経団連が提言 - 日本経済新聞
また、「次元の異なる少子化対策」などの社会保障制度の維持のための財源確保に向けては、消費税の引き上げが中長期の論点になると指摘したといいます。政府政策を是とし、経済界にとって好ましいのは消費税増税ということでしょうか。虫が良すぎるような気がします。
そんなことで持続的な賃上げははたして実現するのでしょうか。越えなければならないハードルがありそうです。
悪循環
一方で、政府は放漫財政を放置したままのようです。「事項要求」に、「補正回し」、政府の財政が膨張を続ける要因になっているという指摘もあるそうです。
財政膨張? 私たちの税金めぐる気になる動き | NHK | ビジネス特集 | 財務省
少子化や物価高騰への対策で事項要求が多発、これまで予算の膨張を防ぐために「シーリング」によって厳しい上限を設けていましたが、今ではそれも形骸化しているようだといいます。
そればかりでなく、緊急時に編成される補正予算が常態化し、その中に緊急案件でない予算を潜り込ませる「補正回し」も横行するようになっているそうです。補正予算で思考される事業には上限はなく、これもあって補正予算は膨れがちだといいます。
▽ロケット開発支援事業(文部科学省 188億円)
▽ETCの普及に向けて行う高速料金割引事業(国土交通省 78億円)
こうして税金が次々とばらまかれて、必要なところではおカネが足らなくなり、増税とか、国債発行との話になるのでしょうか。国債を発行すれば金利負担を生じます。長期金利が上昇すれば、国の金利負担も増加し、さらにそこにおカネが必要となります。
国は「金利ある世界」に移行する準備はできているのでしょうか。悪循環を断ち切り、常識を変え、必要なところにだけおカネを使う習慣を身につけていかなければならないのでしょう。
「参考文書」
世界企業の利払い負担、過去最大18兆円 デフォルト増加 - 日本経済新聞
マイナス金利解除「物価上昇に確信持てれば選択肢」…植田日銀総裁インタビュー : 読売新聞
アングル:日銀の早期修正思惑に戸惑い、不動産株が「リトマス紙」に | ロイター
NY市場の反応、マイナス金利は「絶滅危惧種」 - 日本経済新聞
ガソリン価格を抑える補助金が逆に物価を上げる 今や秋の風物詩「補正予算」は見せかけに堕した | 岐路に立つ日本の財政 | 東洋経済オンライン