Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

テスラの「マスタープラン 3」が示す「持続可能なエネルギー経済」への移行

 

 テスラが3月1日、投資家向けイベントを開催し、イーロン・マスクCEOが、世界を救うという野心的な計画「マスタープラン3」を公表しました。

テスラが基本計画で示した「持続可能なエネルギー経済」と、見えてこない“低価格EV”の姿 | WIRED.jp

製造業に10兆ドル(約1,360兆円)を投資することで、世界は再生可能エネルギーによる電力網に全面移行できる。そして電気自動車(EV)や飛行機、船に電力を供給できる──というのだ。(出所:WIRED)

 興味ある内容ですが、投資家にとっては退屈な内容だったといいます。

 記事によれば、「地球は持続可能なエネルギー経済に移行できる」と宣言、2050年までに実現する可能性が見えてきたと強調したそうですが、肝心の「次世代のEV」についての情報が乏しく、それが失望感へとつながったようです。

 

 

 この他、テスラは効率化の独自の取り組みとして、将来の工場での天然資源消費量を4割削減することを計画しているとし、次世代モデルの製造コストを半減させるとは表明したそうです。

マスク氏の新基本計画に失望感、テスラ次世代モデルの詳細欠く - Bloomberg

 また、新たに手掛ける可能性のある製品の一つがヒートポンプをあげ、ヒートポンプが自宅とオフィスの暖房コストを劇的に下げる可能性があり、持続可能なエネルギーへの移行で容易に達成できるものの一つだと指摘したといいます。

マスタープラン

 イーロン・マスク氏は2006年、「まずは電動スポーツカーを生産して販売し、そこで得た資金で次々に低価格なEVを投入していく」というシンプルでわかりやすく革新的な内容の「マスタープラン」発表し、2016年にも「マスタープラン 2」を発表しました。

dsupplying.hatenablog.com

 ただ、どの「マスタープラン」も完全に実現していないとwiredは指摘します。たとえば、モデル3以降、安価な新モデルの投入はなく、またそのモデル3も他社に比べる魅力ある価格ではなくなっているといいます。

(写真:テスラ)

 「マスタープラン」は事業計画ではなく、理念やビジョンに近いようなものに感じます。

 そこから大きく逸脱することなく、そのストーリーを違えずに、ビジョン実現に近づいているのなら、もう少し評価があってもよさそうですが、期待が高いテスラだけに批判の声が大きなるのでしょうか。

 

 

動き出す日本企業

 日本では政府の宣言以降、多くの企業が2050年度のカーボンニュートラルの達成に向けての方針を示すようになりました。

 三井不動産もそうした企業のひとつで、カーボンニュートラル達成のための行動計画を策定しています。その実現のため、太陽光発電設備の開発・運用を自社で行い、自社保有物件に「自己託送」で送電すると発表しました。

 

(資料:三井不動産

 三井物産によれば、北海道苫東地域や関東2県、山口県に計7か所に、まずは合計2,300万kwh/年を発電する大規模太陽光発電施設を建設し、首都圏や北海道、中国地方の自社保有物件に、FIT 固定価格買い取り制度を利用せず、送配電気事業者の送電網を利用し送電するといいます。

三井不動産 | 東京ミッドタウン日比谷他国内保有施設に自己託送メガソーラー事業、約2,300万kwh/年分新たに確保

 自前の太陽光設備で電力を確保することで、「非化石証書」だけに依存しないリアルなグリーン電力への切替が進み、通常の電力利用に比べてコスト低減も可能となるそうです。その効果は、1物件当たりの電力代は年間で数百万円安くなるといいます。また、これによるCO2削減量は年間約1万トンになるといいます。この事業は、23年末頃より順次稼働するそうです。

 

 

 設備投資を伴いますが、電力の自給自足がコスト抑制となり、脱炭素に貢献するばかりでなく、昨今のエネルギー価格高騰にも有利に働くようです。

(写真:三井不動産

 テスラほど野心的になることができなくとも、ビジョンやミッションを明確にし、その行動計画を立案できれば、それは実現に向かうのかもしれません。

 緻密な実現可能な計画を策定することは、それによって計画の80%が達成されることになると話もあります。計画がされなければ、ことが前に進むことはないのでしょう。

 

「参考文書」

テスラのマスクCEO「脱化石燃料は見えた」、地表0.2%に再エネ30TW導入で | 日経クロステック(xTECH)

 

【人的資本経営】相次ぐ不正、今求められるウェルビーイングという考え方

 

 ユニクロなどを展開するファーストリテイリングの入社式が3月1日に行われ、柳井社長が「世界に通用する最高水準の基本を身につけること、素直であること、そして正しさにこだわって成長し、お客様に満足を提供してほしい」と新入社員に語りかけたそうです。

ファーストリテイリングの入社式 柳井会長「最高水準の基本を身につけ、お客様に満足を」

 不正など陰鬱なニュースが相次いでいます。柳井社長のメッセージはこうしたことを憂いてのことなのでしょうか。

 率直さ、誠実さが今の社会から薄れつつあるのかもしれません。社会の一員として、その大切さ、そして、これらが経済活動において何よりも尊いものであることを学ぶ機会にして欲しいものです。

 

 

「人的資本経営」や「ウェルビーイング経営」に注目が集まるのがわかるような気がします。

 ただ単にコンプライアンスを問うたところで、規範意識が薄れていては、遵法精神を維持することは困難なことなのかもしれません。

人的資本経営

「資本」と「富」の関係を、一橋ビジネススクール教授 楠木建氏は解説しています。

人的資本―その1 「資本」とは。 - Executive Foresight Online:日立

富と資本、どちらもお金といえばそれまでですが、意味はまったく違います。昔の王様はたくさんの金銀財宝を持っていましたが、それはあくまでも富であって、資本はゼロ。(出所:日立グループ

 富を得ようとする経営者は、何のために商売をやっているのかというと、自分のための富をつくるために働き、それで得たお金でベンツを所有し、毎週ゴルフを楽しむ生活を可能にするお金を求めるといいます。

 こうした思考が行き過ぎると、時に不正を招いてしまうのかもしれません。それゆえコンプライアンスが求められているのでしょうか。

 

 

を消費するということは、今持っているものの量を減らすことによって何かを得ること」といいます。

 それに対して資本とは、「将来に価値を生み出すもの」であって、商売を大きくしていくための投資の元手と説明しています。

 また、ファイナンスでは、現金として持っている資産は最も価値が低くく、その理由は将来の価値をつくるために動いていないからと指摘します。

「キャッシュが積んであるということは、投資をしていないことを意味しています。キャッシュはファイナンスでは偉くないわけです。(出所:日立グループ

 そして、人的資源と人的資本の違いを、「人を労働力として見るのが人的資源」で、「人を投資対象として見ること」が人的資本といいます。

 お金と人を同格で論ずるべきではないのかもしれませんが、お金も人も活用することに意義があるということなのでしょう。そして、人を活かすために投資し、人間的な成長する機会を与えるべきということなのでしょうか。

ウェルビーイング

ウェルビーイング」、主に「幸福」や「健康」と訳されます。

 この「幸福」は、より包括的で、「私の人生は辛いことも苦しいこともあったけど幸せ」といった、長期的な健やかさや、精神的な幸福感を意味するといいます。

 一方、同じ「幸福」との意味で、英語には「ハピネス(Happiness)」という単語があります。これは「ウェルビーイング」で訳される「幸福」とは異なり、一時の感情的なものをいうそうです。

「幸福=ハピネス」ではない。なぜ世界がウェルビーイングに注目しているのか。 | ハフポスト NEWS

 ハピネス的な幸福は「金、モノ、社会的地位」から得られる幸福感で、手にした直後は多幸感があるそうですが、一過性のものといいます。富を消費したときの感情といってよいのでしょうか。

 一方、ウエルビーイング的な幸福は、これらと異なり、「安全」「環境」「心的要因」の3要素で得られる幸福といいます。

 この「幸福」を構成する3つの要素のうち、日本は、「安全」と「環境」は世界トップクラスの水準を誇るといいますが、「心的要因」においては先進国の中で最下位というデータがあるそうです。

 

 

 企業は人的資本という考え方を中心にし、人材のウェルビーイングの向上に重きを置いていかなければならないのかもしれません。

 こうした取り組みによって、従業員の幸福感が醸成されれば、それに比例して生産性や売り上げが伸び、離職率や欠勤率が下がるというデータも数多く存在すると記事は指摘しています。

 個人や社会の「ウェルビーイング」を実現することは、SDGsが根幹の「誰も取り残されない社会」にも繋がるといいます。

 またそれは「誰も取り残されない社会」の実現を目的にするのであれば、「ウェルビーイング」は不可欠な要素であり、そのために「人的資本経営」が問われているということではないでしょうか。企業が早急に取り組むべき課題のように思われます。

 

日本の再エネ比率90%も可能との研究結果がまとまる

 

「やろうと思えばできる」、あとは国の対応次第。

 まだ総発電量の2割程度にとどまっているクリーンエネルギー(含む原発)を2035年までに90%まで引き上げることが可能との見解を、米エネルギー省の研究機関であるローレンス・バークレー国立研究所が公表したそうです。

クリーンエネルギー、日本では35年に9割達成可能=米国立研究所 | ロイター

 この研究所が公表した「日本の電力の脱炭素化に関する研究結果」によれば、化石燃料の輸入は金額ベースで85%削減でき、発電の平均卸電力コストは2020年比で6%減にできることが分かったといいます。

 その上、LNG 液化天然ガス火力発電所の新設や石炭火力発電所の稼働を想定しなくても、電力システムの信頼性が保たれるとの見解を示したといいます。

 

 

国富流出の抑制効果も

 この試算は、2020年以降、日本に毎年10GW分の再生可能エネルギーが導入され続けることを前提にしているそうです。また、このシナリオの実現には国の政策的支援が不可欠としているともいいます。

日本の電力の脱炭素は2035年にも9割実現、日米研究機関が試算 | 日経クロステック(xTECH)

 記事によれば、これを実現するための再生可能エネルギーや連系線、水素インフラなど、2020年以降の設備導入費用の合計は原発関連を含めないで、2035年時点で累積約38兆円に上るといいます。

 一方で、化石燃料の輸入について、石炭はほぼゼロになり、LNGも大幅に減らせるといいます。その費用は2020年の3.9兆円から2035年には85%減少し、5900億円になる試算しているそうです。2035年以降は、国富流出を防ぐことができ、またこの削減効果は関連設備の導入費用を充当できるといいます。

企業の取り組み事例~積水化学

 積水化学工業が築50年にもなる大阪本社をリニューアルすると発表しました。

積水化学大阪本社の入居ビル改修 外壁に新型太陽電池 - 日本経済新聞

 従業員の働きやすさと働きがいを両立する職場づくりと建築物の長寿命化によるライフサイクルCO2の排出削減を目指しているそうです。また、外壁には自社開発の「ペロブスカイト太陽電池」を使い、その他にも自社製品を建材の一部として利用するといいます。

 様々な工夫により高い断熱性能や日射遮蔽性能によって省エネを実現し、室内の快適性も向上させるそうです。

(画像:積水化学工業

 記事によれば、ビル内の電力は非化石証書付きの電力で、再生可能エネルギー100%を実現するといいます。

 

 

海外でも活発化する小規模な地域ソーラー

 国土が狭く太陽光発電の適地も少ないオランダは、創意工夫し、複数の用途を持って土地を利用することで、太陽光発電比率がEU加盟国中トップになったといいます。

アングル:国土狭いオランダ、創意工夫でソーラー発電大国に | ロイター

 駐車場や湖、羊の放牧地、イチゴ農園、使われなくなった教会、鉄道の駅、飛行場などにあらゆる場所に太陽光パネルを設置するその取り組みは、世界中で再生可能エネルギー施設の設置問題に新たな智恵を与えてくれるかもしれないと記事は指摘しています。

 また、オランダの太陽光発電業者は地域社会に投資する傾向があり、新しいプロジェクトは地元の利益をしっかりと考慮したものになっているそうです。

 米国でも同様な動きが見られるのでしょうか。

 首都ワシントンの土壌汚染によって使用されなくなった土地に太陽光パネルが設置され、そこで生まれる電力は、地元の低所得世帯約7000戸の電気料金負担は半減しているといいます。

焦点:クリーンエネと低所得層支援、米で「地域ソーラー」拡大 | ロイター

 広大な土地を有し、太陽光発電の適地も多いはずの米国でも、さまざまな用地を利用し、小規模な地域プロジェクトが活発化しているといいます。

 連邦政府もこうした地域プロジェクトを後押しし、その発電量は2020年から2025年にかけて700%拡大させることを目標としているそうです。また、今年に入り「地域ソーラーが輝く時」と題する会議も開催しているといいます。

 日本政府、地方自治体はどんな対応策を検討しているのでしょうか。G7 主要7カ国は35年までの電力部門の大部分の脱炭素化で合意しているが、日本は明確な道筋を示していないといいます。

 

 

輸入に頼る太陽光パネル

 現状、多くの太陽光パネルが中国からの輸入されていることを心配しているのでしょうか。それも一種の国富流出です。それゆえの原発の新増設なのでしょうか。

 しかし、安価な中国製パネルには、競争に勝つために中国政府が多額の補助金を出しているといいます。それを利用することはある意味で、「中国国民の税金を日本などそれを輸入する国でのエネルギーコストを下げるのに使える」ということであると日経クロステックは指摘します。

「ペロブスカイト太陽電池」など国産の次世代太陽電池に移行するまでの間、割り切って安価な中国製パネルを活用し、欧米に負けじと、再生可能エネルギーを拡大させていくのも悪くないのかもしれません。

 このご時世、実利を優先してもいいのではないでしょうか。

 

「参考文書」

大阪本社を全面リニューアル開始 | 積水化学工業株式会社

 

【賃上げ、研究棟増設】素材には社会を変える力があると信じる東レのチャレンジ

 

 オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が発表した報告書で、今後数十年間の経済成長と軍事力にとって重要とみなされる44の技術分野のうち37分野で、中国の研究成果が世界を圧倒していることが明らかになりました。

China takes ‘stunning lead’ in key technological research, think tank says | The Japan Times

 その範囲が広範囲に及んでいることに驚きます。

 一方、日本のテクノロジーは衰退が顕著のようです。世界で注目される論文数はピークから2割近くも減り、2000年代初頭に4位であった国別順位はじりじりと後退し、今では12位になっているといいます。また、世界で高い評価を受ける日本人研究者は14年と比べて半減しているといいます。

 

 

「DX」、デジタルによる変革という言葉があふれ、デジタルが何でも解決してくれるような感覚を持ち、それが最先端であるかのような錯覚に陥りますが、そうではないのかもしれません。

研究開発

「DXにしろ、そうしたものをいかに使いこなして効率よくやるかということは大事。だけど、やっぱり基本的な原理原則は人間が考えなきゃいけないということだと思うんです」と東レの日覺社長が述べています。

【製品値上げ・賃上げをどう実現?】東レ社長・日覺昭廣の極限追求戦略 「人を大事にする経営に徹してこそ」 | 財界オンライン

生産現場はほとんど無人化しているし、やはり研究開発がメインになる」と日覺社長はいいます。

「素材には社会を変える力がある」と訴え、革新的なものを世の中に送り出すとして、炭素繊維やRO 逆浸透膜、ナノアロイなどの革新的な製品を次々と世に送り出しています。そして、それらは様々な分野で既に利用されているそうです。

 

 

素材づくりは「ポリマーとか焼成のものとか、現場のそういう技術の蓄積がないと前に進まない。そうした蓄積の上にブレイクスルーを起こして先へ進んでいく。それには時間がかかるし、そういう意味からすると、今の短期志向の経営の下ではできない」。(出所:財界オンライン)

 その東レは、先端材料研究所やフィルム研究所、電子情報材料研究所などの研究施設を有し、社員の3人に1人が研究開発技術者といわれています。

 東レGAFAやテスラのような業績をあげている訳ではありませんが、それでも素材という製品を通じて今、この社会に貢献をしているのかもしれません。

賃上げ、働きがい、生きがい

経営トップとして、従業員の生き甲斐、働き甲斐を考えるときの賃金問題は最重要テーマの1つである。(出所:財界オンライン)

 東レはここ数年間、賃上げにも取り組んできたといいます。

「非常に厳しい競争に打ち勝ってきて、皆非常に努力してくれて、業績が上がってきましたからね」と日覺社長は述べ、「的確な賃金引き上げは頑張る原動力になる」といい、「それがまた革新的な製品の研究開発につながった」といいます。

 

 

新たな研究所

 今後の持続可能社会を見据え、多様な次世代モビリティに対応した研究・技術開発を目的に、名古屋事業場に新研究棟を設置するといいます。

持続型社会に貢献する新たな研究拠点を設置 -グリーントランスフォーメーション、次世代モビリティに対応するR&Dを強化- | ニュース一覧 | TORAY

持続型社会を実現するためには、素材機能を追求しながら環境配慮型素材への転換が必要です。また、モビリティ分野では、近年、社会のGHG排出削減に向けた電動化、軽量化に加え、自動運転、UAM(アーバンエアモビリティ)、ドローンなど多様な次世代モビリティの開発が活発化しており、世の中の変化に対して迅速な対応が求められます。(出所:東レ

 東レは、創業以来「研究・技術開発こそ、明日の東レを創る」との信念に基づいて、基礎研究・基盤技術を強化、技術融合と極限追求し、先端材料の研究・技術開発を推進してきたといいます。

(画像:東レ

「日本停滞」「日本衰退」といわれています。その兆候が現実化しつつあるようにおもえてなりません。

 今、こうしたとき、東レのような姿勢が求められてはいないでしょうか。

 

「参考文書」

先細る日本の「ノーベル賞人材」 30年代に受賞者急減も - 日本経済新聞

 

【人的資本経営】「サスティナビリティ」と「コンプライアンス」を両立させるためにも

 

 九州電力が、石炭火力の苅田発電所新1号機を2024年7月に計画停止すると発表、また、水力の夜明発電所で更新工事を行い、27年6月の使用開始する計画も公表しました。

九州電力、石炭火力の苅田新1号を2024年に計画停止 - 日本経済新聞

 石炭火力への依存が低下していく、こうした動きを歓迎します。

 しかし、一方で、九電を始め大手電力会社各社が送配電子会社を通じて、新電力など競合他社の顧客情報を不正に閲覧していた問題が起きました。

 残念なことです。サスティナビリティに取り組み、コンプライアンスの重要性も認識しながら、なぜこうした不正事件が起こってしまうのでしょうか。

 

 

人的資本経営とISO30414

 人的資本経営が問われています。また、人的資本情報の開示が求められるようになっています。

 欧米ではこうした情報開示を義務化する動きがあり、開示する項目と分量が明確にするため、国際的な人的資本情報開示のガイドライン「ISO30414」に準拠する動きがあるといいます。

 この「ISO30414」は、人材マネジメントに関する規格の検討から始まり、2018年に「社内外への人的資本レポーティングのガイドライン」として発行されたそうです。

ISO30414とは?人的資本情報開示が求められる理由等を解説

 投資家から企業の無形資産、人材情報に対する開示要求が強まったことが規格制定の背景にあったそうです。また現在では、サービス産業やソフトウエア産業が主流となり、企業価値の多くが無形資産となっていることも無縁ではないようです。

「ISO30414」は、「コンプライアンスと倫理」「コスト」「多様性」「組織文化」「生産性」「スキルと労力」など11の領域で構成されています。

 

 

 日本では総合商社の豊田通商が2022年10月に「ISO30414」の認証を取得したといいます。

豊田通商がアジア2社目のISO30414認証取得、「人の豊通」を目指す人的資本経営とは | Human Capital Online(ヒューマンキャピタル・オンライン)

 記事によれば、豊田通商はこの国際認証で推奨される指標を開示したそうですが、まだできていない点を自分たちで把握できたということに意義があったといいます。

人事の施策はその仕掛けの精度の前に、経営や事業にどう役立っているのかというアラインメントが最も重要です。

本来、事業戦略と人事戦略はコインの表裏であるものですが、従来は人事制度や施策の真の目的やその効果測定が必ずしも明確でないこともあったのではないでしょうか。(出所:ヒューマンキャピタル・オンライン)

「人的資本経営」は、人事だけでなく経営やマネジメントとともに取り組むものと、「ISO30414」の取得を主導した濱瀬CHRO(最高人事責任者)は指摘します。

(資料:豊田通商

 様々な企業が「サスティナビリティ」を追い求めていますが、未だ明確になっていないことが多々あるのかもしれません。

 豊田通商のように「ISO30414」の取得を通し、サスティナビリティを包含した経営目標と人事戦略を一体化させ、体系づけていくことが求められているのではないでしょうか。

元来、サステナブルなアクションとコンプライアンスが両立するものです。その理解の一助に「ISO30414」が役立てばいいのかもしれません。

 

 

 国際規格ISOを取得しようとすれば、ルール化や文書化など骨の折れる作業がばかりです。

 しかし、取得できれば、その努力は無駄にならないはずです。経験してわかったことですが、その取得によってどれだけ仕事が楽になったことはいうまでもありません。また、従業員みなが同じ価値基準を仕事できるようになることも大きな財産なのかもしれません。

 

「参考文書」

大手電力会社に相次ぐ不正閲覧 新電力の顧客情報盗み見て営業 自由化から7年、公正な競争にはほど遠く…:東京新聞 TOKYO Web

大手の送電部門の所有権分離提言、不正閲覧問題受け-内閣府会議 - Bloomberg

 

 

【異業種開拓】「ロートレシピ」製薬会社が食分野に進出する理由

 

 企業における異業種への参入が多く見受けられるになっています。

 縮小する国内市場を見え据えれば、当然の動きのようにも思えます。理由はそれだけではなく、様々なことが相まってのことなのかもしれません。

 同じ事業を続け、マーケティング理論を駆使し、マーケットイン思考で、手を変え品を変えたところで出てくる商品は同じようなものばかりで、結局、価格の競争になってしまいそうです。

 何から何までがらりを変わっていくこの時代にあっては、そうした思考はもう時代遅れということなのでしょうか。

 

 

市販薬や化粧品などの事業を展開するロート製薬が、食の新ブランド「ロートレシピ」を始動させ、食の複合施設 「ロートレシピ 茶屋町店」をオープンさせたといいます。

ロート製薬が「食」に本腰 健康食の新ブランド展開 - 日本経済新聞

できれば薬に頼らない製薬会社になることが本当の社会貢献だと考えている。そのためには、健康の元である食事に着目し、掘り起こしていく必要がある。人の健康を科学してきたロートだからこそ、その知見を使ってウェルビーイングの構図を作っていきたい(出所:日本経済新聞

 記事によれば、ロート製薬の檜山COOが、食事業を強化する理由をこう説明したといいます。「医食同源」という言葉を連想します。

 ロート製薬の創業は1899年、創業者は「万病の元は胃にある」と考え、それが胃腸薬の発売につながったといいます。そして、今では「コネクトforウェルビーイング」にというビジョンになり、体と心の健康につながる事業を目指すようになったといいます。

 ビジョンの実現のためなら、たとえ競争の激しい食分野であっても、あえて挑戦するということなのでしょうか。

ロートレシピ

「おなかの底から元気になれる」をブランドコンセプトに、その人その時にあった食事を、素材から調理までロートらしく調合することで「おいしく、健康的で、サステナブル」な食の体験をご提供していく事業が「ロートレシピ」といいます。

(資料:カフェ・カンパニー)

「ロートレシピ」の3つ目にあがる「社会と文化を未来に繋げる」は、循環型農業やフードテックを取り入れて環境や地域社会にも配慮していくとし、テクノロジーと未来の食についても積極的に取り組んでいくそうです。

 記事によれば、「フードテックやヘルステックにもつないでいきたい」と、「ロートレシピ 茶屋町店」を運営するロートウェルコートの熊澤社長は意気込みを語っているそうです。

 

 

新メニューを支えるフードテック

「ロートレシピ 茶屋町店」で提供される「南(ぱい)ぬ豚の網脂ハンバーグ」は、沖縄県石垣市で循環型農業で育てられたアグー豚を使用しているそうです。アグー豚は有機パイナップルの搾りかすを飼料にして育ち、その排せつ物を堆肥にして、またパイナップルを栽培しているといいます。

 また、沖縄の海で生まれたスーパーフード「微細藻類パブロバ」を使用した「海藻のペペロンチーノ (パブロバ藻のフェットチーネ)」も提供されているそうです。パブロバの風味を旨味として最大限活かしたパスタといいます。

(画像:オーピーバイオファクトリー)

「微細藻類パブロバ」は、微細藻類の一種で、モズクや昆布などにも含有される希少成分フコキサンチンを多く含み(モズクや昆布の100倍以上)、青魚の油脂成分である「EPA」や「DHA」などのオメガ3脂肪酸も多く含有しているそうです。

 パスタで使用される「パブロバ」藻粉末は、ロート製薬が2022年2⽉に、沖縄県のオーピーバイオファクトリーと共同で⽴ち上げた「AMU LABORATORY」での技術が活用されているといいます。

 

 

 また、この他にも、東南アジアや南米などで栽培される果実「ジャックフルーツ」を使用したメニューが開発段階にあるといいます。海外ではジャックフルーツの代替肉も開発されている注目食材です。どんなカタチになって提供されるのでしょうか。

まとめ

 こうしたテクノロジーを独自技術として、自社で研究開発できるのが理想的なことなのかもしれません。しかし、ロートのように外と連携し、その技術を活用、それを世に広めていくのもありなのでしょう。

 これまでのようなマーケットイン的な思考のままでは実現できなかったのかもしれません。

 そんな目利きができたり、それを具現化し、商品化する能力を持った人材も求められるようになっているのかもしれません。こうした「スキル」をリスキリングで身につけるのもいいことではないでしょうか。

 

「参考文書」

「おなかの底から元気になれる」食からウェルビーイングを叶える食の複合施設 「ロートレシピ 茶屋町店」詳細を公開|カフェ・カンパニー株式会社のプレスリリース

【PAVLOVA×ロートレシピ】沖縄の海で生まれたスーパーフード「微細藻類パブロバ」を使用した新メニューをロートレシピ 梅⽥NU茶屋町プラス店で提供開始!|オーピーバイオファクトリー株式会社のプレスリリース

 

【人的資本経営】増加する学び直しする人たち、その事例

 

「大仏商売」という言葉があるそうです。店主が座っているだけなので「人は来るがお金を使ってくれない」という現象になるといいます。

 多くの観光客が押し寄せる奈良県、しかし、訪日外国人の一人当たり消費額が都道府県別で47位に甘んじているといいます。その一因がこの「大仏商売」気質といわれるそうです。

奈良をスモールビジネスの町に!中川政七商店が県と進める「さらば大仏商売」 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 そんな窮状を救おうと、1716年、奈良で創業した中川政七商店の中川代表取締役会長が、地元の事業者や起業を考えている人に、経営や思考のフレームワークを教示、支援を始めているそうです。

 

 

出世払い、無料で支援する

経営において最も重要で、最初にやるべきことは事業計画書の策定」(出所:Forbes)

 中川氏が支援したスパイスカレーの専門店は、間借りなどの不定期出店から自店舗を持つようになり、コロナ禍の開業であったにもかかわらず2期目で黒字化に成功したそうです。

 中川氏は資金が十分でなかったこの店を無料で支援を始め、一定の売上額を超えた際、売り上げの1%を「出世払い」として支払うという約束で、中期経営計画策定等をサポートしたといいます。

 この店は約束の「出世払い」を果たし、一方、中川氏はこのお金の有効活用を考え、『恩送り制度』をつくったとそうです。先輩事業者たちの出世払いを使って、次の事業者の経営指導にあたる、そうすることで持続可能な事業者支援ができるようになったといいます。

人的資本経営

 企業の間で「人的資本経営」に注目が集まっているようです。

 ESG投資の「S」に深くかかわり、また、昨今では人手不足対応や人材確保の要素も加わっているのでしょうか。

社員を管理しようとするのはもうやめて、それぞれの人が持っている動機を人事が支援することが必要です。(出所:日経ビジネス

「人的資本経営」どう実践? ソニーGなどの人事トップに聞く:日経ビジネス電子版

 復活を果たし、再成長を始めたソニーには、従業員個人の成長を支援て、その結果、企業も成長してできればいいとの考えがあるといいます。

「個の挑戦を支援することによって、社員自らが学ぶカルチャーが定着し、自律的な成長を実現できた」と、ソニーグループ執行役専務の安部氏は述べています。

 

 

 そのために「人材理念」を整理したそうです。「社員が自らの意思で独自のキャリアと未来を築くこと」と、「ソニーという器の中で新しい価値が生まれること」との思いを込めたものといいます。その上で、事業の成長に最も適した個を求め、伸ばし、そして「生かす」よう支援したといいます。

 また様々な学ぶ機会を提供し、技術研修には年間で約2万6000人超が受講するようになり、メンターシッププログラムも始めたそうです。

大仏商売になっていないか

 ここ最近にあっては、持続的な賃上げが実現するのかに注目が集まります。一方、DX:デジタルによる変革、リスキリング(学び直し)などが求められるようにもなっています。

「大仏商売」のようにただ待っていては何も変化は起きようがないのかもしれません。

 仕事の中に学びがあればいいのではないでしょうか。また、その学びが仕事になればなればいいのかもしれません。 仕事も学びのやり方次第、それがわからなければ、それもまた学びの機会となります。

 うまくいっている企業がそうしているのですから、それに倣ってみてもよさそうです。