ここ最近、CSRや広報について考えさせられる報道が続いています。 吉本興業の闇営業問題が取上げられましたが、収束に向かって一つ山場を越えたのでしょうか。
この問題を一過性のこととはせず、少しだけ深堀して、ひとつの教訓にすべきかと思います。
吉本興業ホールディングスの大崎洋会長が12日、所属芸人が会社に無届けで反社会的勢力(反社)のイベントに出席、報酬を得ていた問題について日本経済新聞の取材に応じた。大崎会長は「10年前に反社との決別を宣言し、社員、芸人の研修も重ねてきたが、このような事態を招き無念だ。会社として責任を痛感している」と語り、再発防止策を進めていることを明らかにした。(日経新聞)
今回の一連の騒動で、いくつかの問題にスポットがあたり、SNS上でも一時の話題に上がりました。
・吉本の所属芸人が反社会的勢力のパーティーに参加、金銭の授受があった。いわゆる闇営業問題。
・芸人との契約問題。
・問題収束への対応のあり方
ここ最近、社会の目が厳しくなり、今まで顕在化しなかったような問題も瞬時に拡散してしまいます。拡散していく内容の良し悪しは別としても、企業側の対応が遅れれば、企業イメージ、ブランド価値を棄損し、業績に影響を及ぼす可能性があることを肝に銘じておくべきと思います。
忸怩たる思い 反社会的勢力とのかかわり と闇営業問題
問題が明るみが出てからの吉本興業の対応をよくみると、大﨑会長の姿勢を感じとることができる。6/27に、まず決意表明をHPで公表、続いて、7/13に、芸人13人の受領額を記した「修正申告及び寄付の実行に関するご報告」を公表した。
2009年に反社会的勢力とのかかわりを絶つため、吉本の株式を非上場とした。このときの社長が大﨑氏だ。
決意表明には、反社会的勢力とのかかわりについての決意が述べられているが、闇営業問題への言及はない。反社会的勢力とのかかわりは断じて許さないとの大﨑会長の強い決意が表れたのだろう。
「2009年に株式を非上場にして反社との関わりを絶ち、法令順守、行動規範の研修を全社員、全芸人に毎年実施してきたのに、十分ではなかった。深く反省し、二度と起きないようにする」(中略)
しかしながら、このような状況のもとで、所属タレントにおいて反社会的勢力との関わりが認められたことについては誠に遺憾であり、忸怩たる思いとともにその責任を強く痛感しております。
――今後の具体的な対策は。
「今は反社と直接関わることはなくなったが、今回のように会社に無届けで仕事をすると、知らないうちに反社につながることもある。今後は無届けの仕事は禁止する。届け出があった仕事は会社が徹底してチェックし、反社につながるリスクを排除する」 (7/12 日経新聞)
吉本興業の社風・文化
吉本は明治45年に創業を開始し107年の歴史をもつ。その中で培われきた芸人文化、企業文化もあろう。大﨑会長は日経新聞とのインタビューで次のように言っている。
「吉本は家族的、共同体的な色彩のある会社だ。昔の芸人の中には漢字が読めない人もいて、紙の契約書は存在しなかった。その流れが続いている。『本日から○○師匠に弟子入りしました』と挨拶にきて、『おう、そうか。頑張りや』。そんな口頭でのやりとりが契約だった。紙の契約書で縛ったりせず、出入りも自由だ。太平サブロー・シローのように、いったん吉本を出て、また戻ったなんて芸人もいる」
「世の中には経済的理由や家庭の事情などで、吉本に行かなければ他に行くところがないような子もいる。売れなくてもお笑いが好きで、吉本の芸人で居続けたいという人もいる。副業を自由にしたり、中には起業したりする人もいる。そういう人たちが自由に動ける空間を用意するのが、吉本という会社だ」 (7/12 日経新聞)
107年の歴史で形作られた家族的で、自由な空間であるという吉本の文化は、ある意味うらやましい。しかし、それが、”本来の仕事”からかけ離れた行動を生んでしまうことにならなかったのか。
芸人をルールや契約で縛ることの難しさを理解することはできるが、一方で社会は変化している。企業の小さな不祥事や理不尽な行為を許さなくなってきているのが現在の社会。それは芸人でも同じこと。
大﨑会長自身、一企業の経営者として、そのことをわかっているはず。
では、個人事業主である芸人たちはどうなのか。芸人であろうが、社会の一構成員であることに変わりない。何か特別視される理由はどこにもない。
吉本が 反社会的勢力とのかかわりを絶つために、株式を非上場にし、コンプライアンス教育を芸人たちにも行ってきた。それでも不祥事が後を絶たない。大﨑会長の忸怩たる思いがよく理解できる。
「やっている主体は『物』じゃなくて『人』ですからね。だからまたいつか次起こると思うんですよ。明日なのか10年後なのか30年後なのか。でもその度に猛烈に反省して再発防止の仕組みや目に見えない関係性を築いて、叱られて反省して、全社一丸となって強くなって、また進んで、またこけて、みたいなのを繰り返すしか仕方がないと言ってしまったら身も蓋もないですけど、そう思います」 (Forbes)
一方で、大﨑会長はこうも言う
「ただ今回のことがあったので、全社員、全芸人と共同確認書を交わす。これで反社との決別を改めて確認、徹底する」 (日経新聞)
全社員、全芸人と交わす「共同確認書」の中身はわからないが、そうした内容のものが吉本の気風、文化と定着しない限り、同じような問題は必ず生じるだろう。気風や文化を変えられるのは経営者でなく、今いる社員や芸人たちの行動だからだ。
水は方円の器に従うともいう
2009年に大﨑氏が社長に就任してからのこの10年の実績を辿ると、現在の吉本興業の進む方向なりが理解できる。
毎年、定期的にコンプライアンスや反社会的勢力との交際禁止の講習を課し、その対応は、反社一掃、マネーロンダリング防止に熱心な社員教育に取り組む金融機関と変わらないほどと評価されていた。そうした活動が評価され、中央官庁の政策イベントへの芸人派遣を多数実施していたという。
また、最近では、ノーベル平和賞受賞のバングラデシュの経済学者、ムハマド・ユヌスとソーシャルビジネスを展開しようとしていた。
この10年は、反社会的勢力との断絶、イメージ刷新に挑戦した時間であったのだろう。
水は方円の器に従うという。
大﨑会長の姿勢が、芸人たちに真に理解されたとき、吉本の文化が変わる時が来る。
ビジネスの世界でも同じだ。短時間で企業文化を変えることに成功した企業などない。
数々の不祥事を経験して、CSR活動に取組み、行動様式を見直し、時代にあった企業文化へと変化させてきた。それは創業時からの企業文化を捨て去ることとはまた違う。
企業の当初の文化は、創業者によって確立される。創業者の個人的価値観、信念、好みよって作られ、創業者の風変わりな部分を映したものになる。すべての組織はひとりの人間の長い影にすぎないと言われる。
(巨象も踊る ルイス・ガースナー)
今回の吉本騒動について、当初あまり興味がありませんでしたが、次の記事を読み、非常に興味がわきました。
吉本興業がノーベル平和賞を受賞したバングラデシュの経済学者、ムハマド・ユヌスとソーシャルビジネスの事業をしている。 (出所:Forbes)
「吉本興業はこんな活動をしていたんだ。それなのに何故?」というのが正直な気持ちでした。半端かな覚悟ではソーシャルビジネスに参加はできないはずなのに。
経済ジャーナリストの町田徹氏は自身の記事で、次のように指摘する。
「今回、的外れな反社会的勢力批判を防げなかったことは、広報・リスク管理の甘さとして吉本が反省すべき点だし、他の日本企業が他山の石とすべきポイントなのである。」
大﨑会長ご自身も理解されていることと思いたいが、こういう意見があることを記しておきたい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(参考文献) マスコミ対策、企業文化について参考としました。
- 作者: ルイス・V・ガースナー,山岡洋一,高遠裕子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
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