The North Faceから「ムーン・パーカ」の予約開始の発表があった。日経ビジネスによれば、スポーツアパレル大手ゴールドウインとバイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)が8月29日、人工たんぱく質の繊維を使ったダウンジャケットを発表した。石油や動物由来の原料を使わないこの商品、環境や社会への影響を配慮した製品を使おうとする「エシカル消費」をどこまで刺激するかと日経ビジネスはいう。
日経ビジネスの記事に違和感を感じた。記事では、『石油や動物由来の原料を使わないこの商品。環境や社会への影響を配慮した製品を使おうとする「エシカル消費」をどこまで刺激するか。』とある。細かなことなのだが、ダウンジャケットなので、当然ダウンが使用されてて動物由来の原料を使用している。記事趣旨をわかっての指摘だが、どうも流行り言葉を貼り合わせた記事に見えてしまう。
価格が15万円もするノースフェイスの謂わばフラッグシップモデル。通常、商品には何かのメッセージが託されている。記事の信憑性が気になり調べてみた。
- スパイバー 世界初、人工合成クモ糸の製品化に成功!
- ザ・ノース・フェイスの最高傑作「ムーンパーカ」
- ムーン・パーカに使われているクリーンダウンとは
- 比較事例 Nike USのサスティナビリティ
- 番外編 Nikeのもうひとつのストーリー
スパイバー 世界初、人工合成クモ糸の製品化に成功!
「蜘蛛の糸」は鋼鉄の340倍の強靭性があり、あらゆる産業に応用できる可能性がある。この「蜘蛛の糸」を人工的につくり、繊維に変える要素技術開発にチャレンジしたのがスパイバーだ。
「これまでの石油由来の繊維を置き換えてしまう、100年来の “夢の繊維” 」との呼び声も高い。(出所:iX未来を変えるプロジェクト)。
Spiber(スパイバー)を率いるのは関山和秀取締役兼代表執行役。2004年に慶応義塾大学で人工合成の「クモの糸」の研究に着手、2007年にスパイバーを設立した。
スパイバーは、クモの糸の繊維を微生物に作らせる基本要素技術の開発に成功した。この技術で造ったバイオ素材を「QMONOS(クモノス)」と名付けた。
クモの糸は、極めて強靭であるうえ、原料を石油に依存しない。
このためクモの糸を実用化しようという試みは、世界中で進められてきた。しかし、これまでの技術はどれも生産コストと安全性の面で課題を抱えており、量産化は難しかった。 (出所:日経XTECH)
日経XTECHによれば、2013年中に月産100kg以上のQMONOS Fiberを生産できる試作研究プラントを立ち上げ、QMONOS Fiberの量産化技術を開発し、応用開発に向けた検討を進めてきたという。続いて2015年にパイロットプラントを竣工、稼働させる。パイロットプラントは初年度年産10t規模でQMONOS Fiberを生産する計画だという。
ザ・ノース・フェイスの最高傑作「ムーンパーカ」
ファッション誌でも紹介され、「MOON PARKA(ムーンパーカ)」の注目度の高さがわかる。
“微生物”由来の構造タンパク質素材を使った、世界初のアウトドアジャケット
THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)が、構造タンパク質素材を採用した世界初のアウトドアジャケット「ムーン・パーカ」を2019年12月12日(木)より、計50着限定で販売する。
ザ・ノース・フェイスは、「ザ・ノース・フェイス エスピードット(THE NORTH FACE Sp.)」というコラボレーションプロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトのパートナーが、合成クモ糸繊維「QMONOS」で知られる繊維企業スパイバー社だ。
このプロジェクト によるの第2弾のアイテムが「ムーン・パーカ」だった。
Fashion Pressによれば、その最大の特徴は、3層から成る表地の表側の素材に、微生物による発酵プロセスを利用して製造される構造タンパク質「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN)」を100%使用していることだ。2015年にはそのプロトタイプが発表されていたが、4年間のさらなる開発を経て、生地の耐久性や安定性といった課題をクリアし、今回の商品発売が実現したという。
商品名の「ムーン・パーカ」は、“困難だが実現すれば巨大なインパクトをもたらす壮大な挑戦”を意味する「ムーンショット(Moonshot)」に由来するもので、持続可能な資源をベースとした循環型経済の実現に向けた大きな一歩である、という思いが込められている。(出所:FASHION PRESS)
スパイバーは、日本を代表するバイオテクノロジーベンチャー。WWD Japanによれば、ゴールドウインの30億円の出資を筆頭に、ベンチャーキャピタルやクールジャパンファンド、繊維メーカー、政府系金融機関などから300億円以上の資金を集め、現在の企業評価額は897億円。日本のスタートアップとしては、異例の企業価値10億ドル(約1050億円)以上の未上場企業ユニコーンに最も近い企業でもあるという。
WWD Japanはある大手繊維メーカーの幹部と関山代表の声を紹介する。
「人工タンパク質素材は、1953年に工業生産を開始したポリエステル以来の革命的な素材。本格的に普及することになれば、衣服の歴史に新しい1ページが加わることになる」(大手繊維メーカ幹部)
「タンパク質のすごいところは組み合わせが無限大である点。人類がタンパク質を使いこなせるようになると、オプションが飛躍的に広がる。石油という枯渇資源に頼る必要がなくなるし、動物を殺す必要もなくなる」(関山代表)
人工タンパク質素材は、クモの糸のような高機能繊維からカシミヤのような超ソフトタッチの繊維、さらには炭素繊維に匹敵する軽量で強靭な構造部材まで、多種多様な素材を遺伝子レベルで合成し、生産できるところにある。
つまり、ありとあらゆる種類の素材を、石油などの化石燃料を使わずに、しかも非常に環境負荷の小さい形で生産できるのだ。 (出所:WWD JAPAN)
ここまで調べてきて、スパイバーの関山社長のこの商品に賭ける熱い思いが伝わってきた。ただ、少し気になるのが、商品を販売するゴールドウイン側の情報発信力。これだけの商品であれば、もっとストーリー性を高めて欲しい。
従来のものづくり企業と同じ、「研究ラボからこんな素晴らしい商品ができました」では伝わらないものが多い。少しばかりもったいないと感じるのは私だけだろうか。
冒頭に紹介した日経ビジネスの記事は、『消費者の意識を喚起しつつ、どう商品ラインアップを拡大していくか。21年の工場稼働まで、両社は我慢のマーケティングが続くことになる。』ということばで締めている。
アパレル業界でも、エシカル消費を意識した行動、サスティナブルな活動は世界の潮流になっている。ZARA、ユニクロなどが積極的なよい例だろう。また、エシカルファッションなどのことばも現れてきている。
「非常に数は少ないが、この先の未来のスタートラインに立てた」と言う関山社長のことばと日経ビジネス記事の末尾のまとめの文章がどうしてしっくりこない。
企業の情報発信のあり方が問われていると同時にマスメディアもおなじではないだろうか。そう思うのはわたしだけだろうか。
ムーン・パーカに使われているクリーンダウンとは
ゴールドウインのページでもクリーンダウンが紹介されている。クリーンダウンの製造元は河田フェザーという会社。
『最先端テクノロジーを生かしたものづくり。共同開発の取り組み。』
ゴールドウインが表明しているpurposeのひとつの成果なのだろう。
でも、やっぱり従来のものづくり企業っぽさを感じてしまうのです。
比較事例 Nike USのサスティナビリティ
残念ながらNike Japanには「サスティナビリティ」のページがない。アメリカのページには素敵なページがある。でも、なぜ日本のサイトにはないのだろうか?
このページの一部分にムーン・パーカが入っても何にも違和感を感じることがないような気がする。「Innovating Sustainably」まさにぴったりの言葉だ。もし、こんなページから購入できるなら、消費者への訴求が格段とアップしていくのではないだろうか。
番外編 Nikeのもうひとつのストーリー
昨年だったか、テレビを何気につけたとき、NHKでNikeの創業者フィル・ナイトを紹介する番組が流れていた。ナイキ創業時の話で、日本の総合商社双日との関わりが深かったことを知らなかった。ナイキへの興味がさらに深まった。
xn--68jq6k1a3xsa3e9dse1a7089l92raxj9fja449v.xyz