中川政七商店の自社ECサイトが話題になっていた。1年まえに楽天から撤退の決断、1年の時間をかけずに、売上げを回復させたという。このニュースの中に、いくつか注目すべきコメントがある。
中川政七商店は2018年8月に楽天市場から撤退し、自社ECサイトに注力した。自社ECサイトで販売するほうが、大手ECモール(アマゾン、楽天市場、Yahoo!ショッピングが一般的)に出店販売するより、当然利益率は高い。ただ、消費者を自社ECサイトまで呼び込むことは簡単なことではない。 (出所:Business Insider)
中川政七商店 緒方恵さんのコメントから
ツイッターに緒方さんのこんな投稿がある。
ブランドコントロールについて長期で考えた結果、昨年の8月に楽天市場店を閉じた。
— 緒方 恵 / 中川政七商店 取締役 (@notmegumi) June 23, 2019
EC全体の4割を担っていた楽天を閉じるのは肝が冷えた。
が、1年かからずに本店サイトで楽天分をカバーできるように成長させることができそう。
勝因はひとえにメンバーの成長。これに尽きる。感慨深い。
楽天やアマゾンは「探し物を探す」には最適ですよね。なので、極端に言えばツールかなと。
— 緒方 恵 / 中川政七商店 取締役 (@notmegumi) June 23, 2019
でも、楽しい買物体験というのは「欲しいものに偶然出会う」「ワクワクする為に店に行く」という事かなと思ってます。
その為には自社サイトで自社が思うようにサービスできるようにしなきゃねと思ってます。 https://t.co/fCQKnEfgww
楽天撤退の理由
Bisuness Insider誌に以下のように書かれている。
楽天市場での店舗を閉じた理由もこの点にある。サイトで使用できるプログラミング言語など、プラットフォームのさまざまな制約があって、どうしても店側の表現が限られてしまう。しかし、自社サイトで行う分には自由に表現できる。
「私たちが求めているコミュニケーションができないチャネルでは、物はいったん売れるかもしれませんが、体験が良くなければ、そのお客さまは再来訪してきません。ブランドの総合体験を重要視した結果、それだったらやめましょうと閉じました」(緒方氏)
「ECに限らず、“店舗”は物を売るだけの場所ではなく、ブランドの世界観を味わってもらう場所。であればこそ、ブランドが求めるサービスが実現できない場合は、そこに出店し続けることは考え直さなくてはならない」(緒方氏)
楽天市場からの撤退、という選択は、今考えても大きな決断だったと振り返る。
「足元の売上減は当然怖かったけれども、ブランドが求める体験ではない形で購買及び顧客体験が積み上がることのほうがずっと怖い。そこを何よりも重要視しました」(緒方氏)
徳力基彦さんのコメント
中川政七商店の成功に学ぶ、 自社ECを真剣に考えるべき時代 https://t.co/N5bEnQrKBS
— 徳力 基彦(tokuriki) (@tokuriki) September 5, 2019
徳力さんのnoteを読んで同感であった。
でも、やっぱりこれからメーカーも、データを通じた顧客の理解とか、自分たちの世界観の表現とかを真剣に考えるならば、自社ECをある程度は中核において戦略を考えないといけない気はします。
それをやらないなら逆に価格で勝つなり、なんらかの手段で楽天やアマゾンの売場を大きく確保してみせるなり、という力技が必要になるはず。昔、田岡さんがすべての小売は製造小売にならないと生き残れないと予言されてましたが、すべてのメーカーもある程度自社直販を何らか考えるべき時代に入ってる気がします。
楽天アースモール
昨年11月に「EARTH MALL with Rakuten」がオープンした。
SDGsの目標12「つくる責任つかう責任(持続可能な消費と生産のパターンを確保する)」への貢献を目指して、サステナブル(持続可能)な消費を提案する「EARTH MALL with Rakuten」をグランドオープンしたことをお知らせします。本サイトでは、「未来を変える買い物を。」というスローガンのもと、「楽天市場」で購入できる未来の環境、社会、経済に配慮してつくられた商品を紹介します。
マスメディア各社も好意的に報道していた。
楽天、環境配慮のサイト「アースモール」を開始 (日経新聞)
都内で記者会見した小林正忠常務執行役員は「価格の安い商品だけではなくエシカルな商品を提案し、利用者にライフスタイルを変えていってほしい」と話した。
ただのECサイトでは終わらない (ECのミカタ)
持続可能な社会づくりを目指すための楽天の施策。これは楽天が世界的企業として認められるよう、歩みを止めないという思いを表しているのではないか。楽天会員が楽天市場を通じて、SDGsを考えられるようになること、意識せずとも触れ合えることは、資源枯渇や森林減少問題などを考えるきっかけになるのではないか。
楽天担当者へのインタビュー記事 (IDEAS FOR GOOD)
アースモールはボトムアップから生まれたものという。また、博報堂とのコラボで作成している。
出店している店舗はすでにサスティナブルな商品を販売していて、ようやく楽天が追いついたとの印象を受けてしまうが、始まったことに意義がある。記事が指摘する通り如何にユーザーの意識に訴えかけていけるかが課題なのであろう。
Q:楽天市場として、サステナブルな商品に対するニーズの高まりを感じることはあったのか?
眞々部:まだ波は来ないけれども、遠くにはその波が見えているので、今のうちから準備をしておこうという感じです。石田:どちらかというと、消費者よりも楽天市場に出店されている店舗の方々のほうが関心を持ってくださっています。いまは私たちも店舗さんと一緒に勉強をしながらお互いによくしていこうという感じで取り組んでおり、その後からユーザーの皆さんがついてきてくれればよいなと思っています。
Q:アースモールならではの特典は?
眞々部:先日開催したシンポジウムでも、付与される楽天スーパーポイントを増やすなどしてはどうかという声がありました。将来的にはそうしたインセンティブも用意できればよいなと思っています。やはり、ここでお買い物をするほうが楽しい、テンションが上がる、といったインセンティブをつけていくほうが受け入れてもらいやすいと考えています。サステナビリティに関心がない人にもどう興味を持ってもらうかを工夫したいですね。
少し肩の力を抜いて、自分のできるところから小さく始めてみる。そんな気軽なはじめの一歩を踏み出すことをとても大事にしているアースモールの考え方には、共感できる点が多々あった。
いつかアースモールが楽天市場の中でブランド力を持ち、アースモールに商品が掲載されることが店舗にとってのステータスとなる日が来れば、より多くの店舗がサステナブルな商品を揃えるようになり、結果としてユーザーの選択肢はよりサステナブルなものへと広がっていくはずだ。
まとめ
楽天には期待したいことがある。すでにエシカルや環境関連分野では世界から周回遅れになっている。
『まだ波は来ないけれども、遠くにはその波が見えているので、今のうちから準備をしておこうという感じです。』
ECのミカタの記者も、『これは楽天が世界的企業として認められるよう、歩みを止めないという思いを表している』と指摘している。世界とのギャップを正しく認識して、丁寧でありながら、いかにスピードできるかが楽天の課題ではないであろうか。
「日本の工芸を元気にする!」というビジョンの中川政七商店、ある意味エシカル消費の先導役であった同社が楽天から撤退した。そこには理由があった。
IDEAS FOR GOODのインタビュー記事には、中川政七の緒方さんがいう「楽しい買物体験」と同じことを楽天スタッフが発言している。同じ思いを持ちながら、他方は撤退を決めてしまう。
出店している店舗を置き去りにしていないだろうか?
との疑問が沸く。これこそが楽天市場の問題ではなかろうかと。
楽天スタッフは言う。
『楽天スーパーポイントを増やすなどしてはどうかという声がありました。将来的にはそうしたインセンティブも用意できればよいなと思っています。』
従来のような単なるポイントのばらまきがよいことなのだろうか。確かにエンドユーザーにとっては大きなインセンティブになるかもしれない。
今までのポイントは出店する店舗側が負担している。エシカルや環境問題に挑戦、対応しているのは店舗側の現場だ。
スターバックスは、農家を育成し、コーヒー豆を適正価格で買うことで、フェアトレード99%を実現した。搾取ではなく、与えることから始まった。そして、エンドユーザーに最高の顧客体験を与え続けている。
今回の中川政七商店のことから学ぶべきことがたくさんあるように思える。
消費者に影響を与えることのできる大企業であればこそ、できることであろうし、やらねばならない社会的使命があるのではなかろうか。
フェアトレードの精神を持って。
最後までお読みいただきありがとうございます。