Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

ベトナム石炭火力発電所のその後 イギリス、シンガポールの銀行が相次ぎ撤退

 

 9月、国連で開催された気候行動サミットの場で、 グテーレス事務総長は、「地球温暖化を1.5℃未満に食い止めるためには、2020年以降の石炭火力発電所の新設を禁止すべき」と訴えた。国連事務総長のことばに法的拘束力はない。しかし、国際NGOが動いた。

 邦銀が、ベトナムに建設予定の石炭火力発電所へ融資することを指摘、融資撤回を求めた。

 

 この国連の場で、世界130の銀行が「責任銀行原則」に署名した。「責任銀行原則」は、「温暖化対策の国際合意であるパリ協定の目標達成に整合性のないような融資は行わない」ということを意味する。

 

 11月、シンガポールOCBC銀行がベトナムの石炭火力発電所プロジェクトから融資撤回すると表明した。12月に入ると英スタンダードチャータード銀行も、東南アジアでの石炭火力発電所建設3案件への融資を撤回すると発表した。

 こうした海外銀行の行動は、「責任銀行原則」に基づいたものであろうか。

  

 一方、ベトナムは、パリ協定をもとに温室効果ガス(GHG)の排出削減目標を、2030 年までに、2010年を基準にした Business As Usual(BAU)比で 条件なしで8%、外国投資や外国政府からの支援を得た条件つきで25%に設定している。

 

 国立環境研究所によると、ベトナム商工省(MOIT)電力・再生可能エネルギー局とデンマークエネルギー庁は、「ベトナムエネルギー展望2019年版」を公表したという。報告書の概要を以下のように伝えた。

ベトナムは2050年までにCO2の年間排出量を既存の計画よりも3億7000万トン削減できる可能性がある。同国のエネルギー消費量は2050年までに3倍に増える見通しだが、大規模な投資を行って省エネを強化したり再生可能エネルギーを最大限に導入したりすることで費用対効果の高いかたちで大幅なCO2削減が実現するなど、経済成長と両立させつつ環境配慮型のエネルギーシステムへの移行を加速できるという。報告書は、ベトナムのエネルギーシステムの今後について5つのシナリオを検討し、2030年までに温室効果ガス(GHG)を8%削減するというパリ協定の国別約束の目標も達成できる可能性があると分析している

 

tenbou.nies.go.jp

 

 この報告書内容は、石炭火力発電所への融資に反対するNGOの主張する内容に一致しそうだ。

石炭火力発電から再生可能エネルギーへのシフトがホスト国側にとって利益になることもすでに示されている。今年9月に英シンクタンクのカーボントラッカーが発表したレポートによれば、ベトナムにおいても2022年までに既存の石炭火力発電の操業コストより太陽光発電の建設コストのほうが安価になると分析されている 

 

www.carbontracker.org

 

 

 現在、NGOが融資撤回を求めるベトナムでの石炭火力発電所プロジェクトは2つある。そのひとつ「ブンアン2石炭火力発電事業」は、先に示したOCBCスタンダードチャータード銀行が撤退したことで、融資予定機関は、シンガポールDBS銀行の他、邦銀5行となる。もうひとつのプロジェクト「ビンタン3石炭火力発電事業」に融資予定の銀行は、HSBC他中国系の銀行。どちらのプロジェクトも三菱商事が進める予定だ。

  

 三菱商事のプレスリリースによれば、『南部地域では電力需給が逼迫してきている一方、従来より計画されている電源開発の遅延が問題となっていることから、同国の今後の経済成長を支える安定した電力供給の実現のため重要』とし、過去において、いくつかの石炭火力発電所プロジェクトを推進してきたという。


画像出所:三菱商事プレスリリース 

 

www.mitsubishicorp.com

 

 JETROによれば、ベトナム商工省が6月、「改定第7次国家電力マスタープラン(改定PDP7)の実施状況」と題した、今後の電力需給見通しについてのレポートを発表したという。

 このレポートによれば、ベトナムの電力事情は、2021年以降、ベトナム南部で電力不足が生じる可能性があり、その要因は、ベトナム南部で火力発電所の建設が遅延していることを挙げている。南部は北部・中部から一部受電し、南部の電源開発が遅れる場合、今後電力不足が深刻化する可能性もあると指摘する。

 

 足元では、電力事情が厳しいのかもしれない。そうかといって、今から大型プロジェクトを進めたところで足元の改善にはつながらないはずだ。海外の銀行が撤退する中で、このプロジェクトに留まることはリスクにはならないのか。

 

 昨年、日本の三大メガバンクも石炭火力への融資を見直す方針を発表したが、すでに計画を進めている発電所への融資は撤回せず、慎重に検討するとしていた。こうした状況を鑑みても撤回できない、事情でもあるのだろうか。

 何よりも優先されるべき事項は何であろうか。繰り返しになるが、ベトナムの長期展望では再生可能エネルギーを最大限活用するなどして、大幅なCO2削減が実現し、経済成長と両立させつつ環境配慮型のエネルギーシステムへの移行を加速できるという。

  国際NGOと連携し、何か別の形での足元何か貢献はできないものか。今まで貢献してきた三菱商事だからこそできることもあるはずだ。

 

(参考)

三菱UFJ銀行は、ファイナンスに際して特に留意する事業として石炭火力発電セクターを上げている。

A) 石炭火力発電セクター
環境保護、とりわけ気候変動および持続可能なエネルギーへの取り組みは、MUFG に与えられた社会的使命の中でも最も重要なものの一つです。
パリ協定の合意事項達成に向けた国際的な取り組みに賛同する立場から、事業を通じた持続可能な成長および低炭素社会への移行を支援するため、太陽光・風力などの再生可能エネルギー事業に対して積極的にファイナンスを実施しています。
新設の石炭火力発電所へのファイナンスは、原則として実行しません。
但し、当該国のエネルギー政策・事情等を踏まえ、OECD 公的輸出信用アレンジメントなどの国際的ガイドラインを参照し、他の実行可能な代替技術等を個別に検討した上で、ファイナンスを取り組む場合があります。
また、温室効果ガス排出削減につながる先進的な高効率発電技術や二酸化炭素回収・貯留技術(Carbon dioxide Capture and Storage, CCS)などの採用を支持します。

 

www.mufg.jp

  

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 「関連文書」

dsupplying.hatenablog.com

japan.zdnet.com

www.alterna.co.jp

www.nikkei.com

 

「参考文書」

sekitan.jp

www.eco-business.com

www.jetro.go.jp