政府が温室効果ガス削減目標を据え置いたとのニュースがあった。期待外れというより、やっぱりそうなるかとの印象だ。国際的な最重要課題である「気候変動対策」に、相変わらず、協調して対応しようとの姿勢にならない。それならいっそのこと、経済優先でパリ協定を離脱した米トランプ大統領のようにふるまってみてはどうかと思う。
11月にはCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)が開催される。「それまでにどの程度積み上げることができるかが焦点となる」とロイターは指摘する。
2030年度に26%削減というのは、2015年に提出した約束草案で示した水準。今回は、それに上乗せすることはできなかったが「その水準にとどまることなく、中長期の両面でさらなる削減努力を追求する」とした。(出所:ロイター)
日本付近での二酸化炭素濃度が上昇を続けている。国内3か所でのCO2測定値は412.2~414.8ppmに達し、昨年に比べ、2.0~3.1ppm増加した。
気象庁によれば、「2018年の世界の平均濃度は、前年と比べて2.3ppm増えて407.8ppm」「工業化(1750年)以前の平均的な値とされる278ppmと比べて、47%増加している」という。日本の測定値は世界平均を上回る。
EUは2050年までに「カーボンニュートラル」、域内の二酸化炭素(CO2)排出を実質的にゼロにすることを目指すとした。これに先駆けて、ドイツは、石炭火力発電を2038年までに全廃することとし、「カーボンニュートラル」を積極的に推進する。2011年には、脱原発も宣言している。
これらを主導してきたのが、独キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル首相。信念の人、決断の人とでもいうのであろうか。
メルケル首相は、「環境に対して中立であること。つまり、CO2の排出をゼロにすると保証するのでなく、CO2を排出するなら、それを蓄積するかオフセットする代替メカニズムを見つけなければならないということだ」と述べ、自身が座長を務める環境問題に取り組む閣僚グループで2050年までにカーボンニュートラルを達成するための方策を協議する方針を示した。(出所:ロイター)
脱石炭、石炭火力発電の全廃の課題であった石炭火力を保有する州とも合意、ドイツ政府が今後の脱褐炭・石炭の方針を決定したとJETROが伝える。
政府および上記4州は、現在予定している2038年より3年早い2035年までに、全ての褐炭・石炭火力発電所の廃止を目指し、これが可能か否かについて、2026年および2029年に再度、評価・検討する。今後、石炭火力発電所由来の電力に代わる代替電力源確保のため、再生可能エネルギー法(EEG)を改正し、再生可能エネルギーの拡大を促進するとともに、熱電併給システムの普及支援をさらに加速させる。(出所:JETRO ビジネス短信「ドイツ連邦政府、脱褐炭・石炭の今後の方針を決定」)
この措置の実行に伴う補償額の大きさに驚く。
ドイツ政府は、褐炭・石炭火力発電所の事業者の早期廃止に対し、今後の15年間で43億5,000万ユーロの賠償を支払うという。
褐炭・石炭火力発電所および鉱業従事者に対し、早期退職賃金を2043年まで支給する。また連邦政府は、2038年まで4州に対し最大140億ユーロの資金提供をし、産業転換などへの投資を支援するほか、褐炭関連産業に依存する地域に対し、別途、最大260億ユーロの支援を行う。そのほか、医療技術や水素技術開発などに関する研究開発施設や新たなヘルムホルツ・センター(注2)を設立し、石炭・褐炭に依存する地域での新たなイノベーションの創出を支援する。さらに、今回の措置によって生じ得る電力料金の上昇に備え、電力需要の大きい企業に対して、2023年から補助金を支給し、国際的な競争力の確保を支援する。(出所:JETROビジネス短信「ドイツ連邦政府、脱褐炭・石炭の今後の方針を決定」)
国によって、政策決定、その進め方に違いがあるのかもしれない。国ごとで抱える事情は異なるかもしれないが、目指す目標に近づけようと、コミットして、その進捗を示す国がある一方で、「努力する」で済まそうとする国もある。その政府の姿勢が、国民感情に影響することはないのであろうか。
そのドイツも目標達成にむけ、決して平坦な道ではなく、いばらの道を歩んでいるようだ。時事通信が「ドイツ、「気候」と両立に苦悩 脱原発で試練」という記事でドイツの苦悩を紹介する。
1人当たりCO2排出量はドイツが9.73トン、フランス5.48トン、原発の影響と時事通信は伝えるが、ドイツでは原発脱却へ組織を大幅に改編してきた電力会社自体が原発全廃延期を拒否しているという。
ドイツが掲げるCO2排出量を今年までに1990年比40%、2030年までに55%削減する目標は、達成は困難になったとみられている。このため、同国で埋蔵量が多い褐炭・石炭の発電も38年までに全廃する方針で、「脱原発」と「脱石炭」が並行する形となった。
不足分を埋めるのは再生可能エネルギーで、全電力に占める比率はすでに5割に迫るが、風力発電の伸び悩みが顕著で、必要量には足りていない。(出所:JIJI.com)
ドイツは、期限内にCO2削減量の国際公約を達成することはできるのだろうか。
それでも、足かせになるであろう「脱原発」、「脱石炭」から今のところ外れる気配はなく、目標に向けての努力が続く。
「何かを犠牲にしてまでも、手にしたい理想がある」、その目標は欲張り過ぎてはいないのだろうか。
どの目標が最優先されていくのであろうか。
テスラのイーロンマスクがTwitterを更新した。製造すると宣言していた人工呼吸器を早くも出荷する。それも無償で提供するという。しかもFDA(アメリカ食品医薬品局Food and Drug Administration)の認可を得てる。テスラもそうだが、規制当局のFDAの認可スピードにも驚く。
倉庫で保管することなく、患者のために使ってくれ。それが願いだと書いている。
十分な台数か否かはわからない。100点ではないかもしれないが、スピードを第一として提供したのだろう。出来ない目標などないとでもいいたいのだろうか。
We have extra FDA-approved ventilators. Will ship to hospitals worldwide within Tesla delivery regions. Device & shipping cost are free. Only requirement is that the vents are needed immediately for patients, not stored in a warehouse. Please me or @Tesla know.
— Elon Musk (@elonmusk) 2020年3月31日
今回の「温室効果ガス削減目標据え置き」について、小泉進次郎環境相は会見で「制約がある中で最善なものになった」と述べたそうだ。
それでもCO2は増加を続けている。
「その水準にとどまることなく、中長期の両面でさらなる削減努力を追求する」という言葉が虚しく響く。
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