「命より尊いものない」とするのであれば、死者の数が600人を超えれば、尋常じゃないと言えるのだろう。一方で、欧米では何万との人々が亡くなっている。あえて比較すれば、被害を最小限に食い止めているようにみえる。
一人ひとりの努力、色いろな施策、それに伴う犠牲、それらの積み重ねの結果ということであろうか。単純に比較してよいのかはわからないが。
ロイターによれば、南アジアおよび東アジアの新型コロナ感染者数は25万人超、死者は9700人に上るという。一方、欧州での流行はさらに深刻で、感染者数は180万人と、世界全体のほぼ半分を占める。死者数も16万人に迫っていると伝える。
IMFが、欧州諸国の一角で経済活動の段階的な再開プロセスが始まっていることについて、中国と比べると早すぎるように思われると指摘したそうだ。
欧州では大規模なウイルス検査や感染者との接触追跡といった態勢の整備が一部のアジア諸国に比べ遅れている可能性があるとし、「欧州が中国などの一部アジア諸国に比べ、さらなるリスクにさらされているようにみえる」との認識を示した。(出所:ロイター)
IMFにすれば、アジアはよくやっているように見えているようだ。何を基準にするかによって見え方が変わるということであろうか。IMFの指摘に日本が含まれるか否かは不明だが。
日本経済を牽引するトヨタが業績発表を行った。他の企業が次期の業績見通しを見送っているが、「営業収益(売上高) 24兆円 (前期比増減率 △ 19.8%)、営業利益 5,000億円 (前期比増減率 △ 79.5%)」との次期見通しを発表した。
報道各社もこの内容を報じている。
日本経済新聞「トヨタ、今期営業益8割減 「国内生産300万台を死守」」
朝日新聞「トヨタ社長「リーマン以上の危機」 業績に急ブレーキ」
産経新聞「コロナ危機でトヨタ変革急務 「モビリティー」再定義も」
記事名だけからすると、暗雲立ち込めるということであろうか。
トヨタが発行するプレスリリースの表題は、「世界中の仲間と“ともに”強くなる 2020年3月期 決算説明会 Ⅱ部 豊田社長スピーチ」だった。
私たちが「石にかじりついて」守り続けてきたものは、「300万台」という台数ではありません。
守り続けてきたものは、世の中が困った時に必要なものをつくることができる、そんな技術と技能を習得した人財です。
(出所:トヨタ プレスリリース)
ロイターによれば、「豊田章男社長は、新型コロナ終息後に経済復興のけん引役として「準備が整った」と語り、「新しいトヨタに生まれ変われるスタートポイントに立った決算」と総括したという。
トヨタ、今期営業益8割減予想 コロナ後の復興けん引へ「準備整う」(ロイター)
多くの企業が今期業績予想の公表を見送る中、トヨタは今期業績予想や販売計画、需要動向など一部を公表した。
その理由について豊田社長は、自動車産業は経済への波及効果、他産業への影響があるため、トヨタが1つの基準を示すことにより
「いろんな方の生活を取り戻す一助になるのではないか。裾野の広い関係各社が何かしらの計画・準備ができるのではないか」と話した。 (出所:ロイター)
豊田社長のスピーチ内容をどう解釈するかは、記者次第、そこから伝わる事実が変わる。
トヨタはプレスリリースを読むと、なるほど、リーマンショック以降、トヨタが世界屈指の企業に成長してきたことがわかるし、これからやろうとしていることが理解できる。
この11年間、私はトヨタを「強い企業」にしたいと思ったことは一度もありません。
トヨタを「世界中の人々から頼りにされる企業」、「必要とされる企業」にしたいという一心で経営の舵取りをしてきたつもりでございます。
大切なことは、「何のために強くなるのか」、「どのようにして強くなるのか」ということだと思います。
私は、「世の中の役に立つ」ために、世界中の仲間と「ともに」強くならなければいけないと思っております。
ゴールデン・ウィーク中にある方からお手紙をいただきました。そこには、こんなことが書かれていました。
「池の周りを散歩していると、鳥やカメや魚が忙しそうに動き回っている様子を目にします。人間以外の生き物はこれまで通りに暮らしている。人間だけが右往左往している。“人間が主人公だ”と思っている地球という劇場の見方を変えるいい機会かもしれません」
私もまったく同感です。
今回の危機で、考えさせられたことがあります。
それは、「人間として、企業として、どう生きるのか」ということです。
(出所:トヨタ プレスリリース)
この手の話は、ニュースにはならないのかもしれない。トヨタの今の業績があるのは、こうした豊田社長の信念があるからかもしれない。
三越伊勢丹ホールディングスは、次期の業績見通しの発表を見送ったという。
ロイターによれば、「業績はコロナの影響によって全く異なる。今は見通すことはできない」とし、全世界的な不況などもあり「終息後にすぐに良くなる見通しは立てられない」と杉江俊彦社長が決算会見で述べたという。
緊急事態宣言が解除され、全業種で自粛が解除されれば、同社も、その地域にある店舗を再開させる意向だ。
また、入店時のサーモグラフィー導入や社員用ロッカーの整備など、コロナ対策として10―15億円のコスト発生を見込んでいる。
同社はこれまで、オンラインで商品をみて店舗で購入するという「シームレス化」を進めてきたが、コロナの影響で店舗のあり方も変化すると予想。今後は、オンラインで購入も完結するような取り組みを強化するとしている。 (出所:ロイター)
IMFからよくやっているアジアの国でも、クラスターが発生したとのニュースがある。なかなか侮れないウィルスということであろう。
国内では、特定警戒都道府県の一部を含む39県で、緊急事態宣言が解除されるという。
小池都知事が、「Stay Home週間があけ、根拠のない達成感による気の緩み」と話していたことが印象に残る。まだまだ警戒すべきということであろう。
豊田社長もこのコロナで行動を変えたようだ。ブルームバーグによれば、接触人数が85%減となったほか、移動時間は80%、会議時間は30%、会議資料は50%ほど従来より減ったという。
豊田氏は他社のトップらと会う際には「自ら足を運ばないと失礼にあたるのでは」との懸念からできるだけ先方を訪問するようにしていたが、現在はオンラインで頻繁に連絡ができるようになったといい、これを機に一気にやり方を変え、「新しいトヨタに向けてアクセルをより踏むということの実現がより早くなっていくのではないか」とも話した。 (出所:ブルームバーグ)
亡くなられる人のことを思うと、痛ましい気持ちになる。極力犠牲者の数を抑えていかなければならないはずだ。そのためには、感染防止が必要となる。
今も、感染防止なのか、それとも経済なのかという「てんびん」は揺れ動いているのだろう。非常事態宣言解除となれば、どちらかに傾くことになるかもしれない。
コロナ対策についての話合いを不毛な議論にしては欲しくない。悪人を探しは意味はないし、正義は人の数ほど存在する。
経済を優先に考えれば、とかく「V字回復」を目指したくなる。
今の世の中、「V字回復」ということがもてはやされる傾向があるような気がしております。
雇用を犠牲にして、国内でのモノづくりを犠牲にして、いろいろなことを「やめること」によって、個社の業績を回復させる。それが批判されるのではなく、むしろ評価されることが往々にしてあるような気がしてなりません。
「それは違う」と私は思います。
企業規模の大小に関係なく、どんなに苦しい時でも、いや、苦しい時こそ、歯を食いしばって、技術と技能を有した人財を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんあります。 (出所:トヨタ プレスリリース)
何のための感染防止だろうか。人を守る、人の命を守ることということであろう。
何のための経済活動だろうか。人々の暮らしを支える経済があり、そこに雇用がある。
てんびんはバランスさせなければならないということであろう。
「志を同じくする仲間をリスペクトし、仕事を通じて連携していく」と語る豊田社長の言葉が印象に残った。