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【ESG投資と人権】 H&M新疆産綿花の調達停止へ 見えないサプライチェーンの裏側

 

 スウェーデンH&Mが新疆ウイグル産綿花を調達しないとの方針を明らかにしたという。間接的な取引関係のあった中国の染糸メーカからの調達を今後12か月をかけ段階的に減らしていくようだ。 

www.afpbb.com

 政治問題化する新疆ウイグル自治区での人権侵害がビジネスにも影響する。 

 

中国政府は、あらゆるものを消し去ろうとしている…漢人とは違うもの、この地域のウイグル文化、イスラム文化に属するすべてのものをだ」(AFP BB NEWS)

 

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欧米が懸念を強める新疆ウイグル自治区での人権侵害

  EUは先の中国との首脳会談で、この問題に対し懸念を伝え、「独立した監視団が同自治区に入ることを求めた」という。米政府は14日に、新疆ウイグル自治区の5つの事業体からの綿花や繊維製品、衣料品、ヘア製品、コンピュータ関連部品の輸入禁止にする方針を示していた。

dsupplying.hatenadiary.com

 

H&M新疆産綿花の調達停止へ 見えないサプライチェーンの実態

 AFPによれば、オーストラリア戦略政策研究所の報告書で、H&Mが、中国・安徽省の染糸メーカー華孚との取引を通じて利益を得ていたことが明らかになったという。この指摘を受けてか、H&Mは「華孚の上虞工場での強制労働を示すものは一切ないが、強制労働疑惑についてはっきりするまで、華孚時尚との間接的取引関係を今後12か月間で段階的に減らしていく。部門や省は問わない」と述べたという。

 

 

 WWD Japanによれば、H&MはESG(環境、社会、ガバナンス)経営でも高い評価を得ていたという。

「技術とイノベーションを活用しながら、規模と影響力によって、公正・平等でありながら循環型、かつクライメット・ポジティブなファッションに向けて変化を導くというビジョンをもって取り組んでいる」。 

 こうした姿勢が評価されていたのだろうか。

 「ダウ・ジョーンズサステナビリティ・インデックス」(スコア97)や「世界で最も持続可能な100社」(27位)などESG格付けランキングでも上位に常連の企業だ。

英国のNPO団体ファッションレボリューションの「ファッション トランスペアレンシー インデックス」では、2020年度版で初めて1位となった。 (出所:WWD Japan

 

 外部機関からは透明性が高い企業と評価されながら、自らが掲げる「公正・平等」のビジョンに反する取引がサプライチェーン上に存在する。そうしたことを把握できない。

 逆な見方をすれば、それほどにサプライチェーンの実態を正しく知るということが難しいとのことなのかもしれない。 

www.wwdjapan.com

 

 AFPによれば、H&Mは中国で取引している縫製工場すべてで調査を実施し、強制労働のリスクが高いスキームを通じて雇用された労働者がいないかどうかを確認していくという。どの範囲にまでさかのぼって調査ができるのだろうか。 

 

 

 「奴隷労働」と報じられた英衣料品ブーフーの事例から学ぶ

  ロイターは、 ESG投資が看板倒れになるリスクを事例をもって紹介、実地調査が不可欠と指摘する。

 具体例として、取引先の工場の労働条件が劣悪だと報じられ、株価が急落した英国の衣料品販売ブーフーを上げる。

 ブーフーはESGスコアで高い評価を得ていたが、7月5日の新聞報道を受け、株価が3日間で50%近く下落したという。メディアの間で以前からサプライチェーンの問題が指摘されていたにもかかわらず、ESGスコアは高いままだったということであろうか。

forbesjapan.com

 

 これを受けて、ブーフーは7月にサプライチェーンの外部調査を実施したという。常日頃から自らサプライチェーンの確認を行っていなかったのだろうか。

 

「ESGで高い評価を得る企業に投資する動きが広がっているが、きれいな投資をしたいなら、泥まみれになって現地調査を行う必要がある――」(ロイター)

 
 ESGスコアが、「かなり不完全な、時には矛盾する、時には質の低い」情報に基づいていることを 「サステナリティクス」という評価会社は認めた上で、「評価手法は改善している」というコメントをロイターは紹介する。

 

ESG業界はまだ成熟しきっていない。野球の試合で言えば9回のうちまだ1回だ

 

jp.reuters.com

 

まとめ ESGスコアでは見えない実態 企業の透明性が鍵に

 ロイターによれば、ネスレの米ミネラルウォーター子会社が水を過剰に利用しているとのメディアや非政府組織(NGO)が報告していたという。この情報をフォントベルという資産運用会社は問題視し、水集約度(売上高100万ドル当たりの淡水の使用量)を減らすようネスレに働き掛けたという。

 スイスの食品大手ネスレは、ESGスコアで「AA」の高評価を得る会社だ。「ネスレの他の部門はサステナブルだが、米ミネラルウォーター部門は規模が小さい」。 ESGスコアだけでは問題点を把握できないケースがあるということなのだろう。

 

フォントベルの働き掛けが理由かどうかは不明だが、ネスレの水集約度は減少傾向にあるという。

ネスレは専門家チームが一貫して状況を監視し、環境保護に取り組んでいると説明している。  (出所:ロイター)

 

 こうしたことがあるからか、H&Mも素早く対応するのだろうか。外部機関に問題指摘される前、事前にサプライチェーンの実態を把握することのほうがベターなはずだ。このことを機会に、サプライチェーンの透明性を向上させ、その改善、強制労働廃絶に努めてもらいたい。 

 

 

 「関連文書」

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