人権問題は気になるテーマだ。振り返ってみれば、2010年に、アップルのアイフォンを製造するFoxconn(鴻海精密工業)中国深圳工場で自殺者が相次ぐ事件があった。2012年にはFoxconnの中国煙台工場での児童労働の問題が明るみになった。
当時、電機会社に勤め、アップルなど海外PCメーカと取引していた関係もあって、こうした問題を他人事のように扱うことができなかった。
そのFoxconnと取引することになり、自殺者が相次いだ深圳工場を訪れたのは、事件があってからそれほど時間をおかないときだった。事前に、Foxconnと取引のある日系メーカに、現地でのFoxconnの評判や事件のことを聞きまわったりもした。
ニュースだけを聞いて、さぞかし劣悪な環境なのだろうとの先入観があった。いくらヒアリング調査したからといっても、実際に見るまでその疑いは払拭されない。
現地を訪れ、工場の敷地に入ると、大学のキャンパスのような雰囲気に驚く。緑もたくさんあり、カフェテリアのようなお店もあちこちにある。
工場内に入り、自社製品を作る現場までの時間、他社の製品を作る現場を横目に眺めることができる。近くにいくことはご法度だが、遠目でもなんなとなく職場の雰囲気は伝わってくる。
それは想像とは違っていた。
今まで見た工場の中と比べても、悪いと言えるほどの感じがしない。それはそうだろう。自分の会社でもグループ全体で〇兆円の取引があって、多くのPCメーカがFoxconnに生産を委託している。
Foxconnの深圳のひとつの工場群だけで、20万人もの従業員が働いている。小さな市よりも大きな街がそこにあるようなものだ。工場外の小さな村の方より遥かに環境がいいのではと感じた。
(2016年のSustainble Japanの記事:Foxconnのことではなく同業のペガトロンなどが書かれた記事)
こうした問題が起こるたびに、常に実態調査と対策の報告がPCメーカから求められた。そうしたことがあったから、人権問題は当たり前のことだと思っていた。
アップルとFoxconnの事例からすれば、企業努力で解決できるはずと思ったりもするが、それとは遠くかけ離れた現実もあるようだ。
中国新疆ウイグル自治区 ウイグル人に対し強制不妊手術か
ドイツ人研究者が報告していた「中国新疆ウイグル自治区で事実上、強制的に不妊手術が行われている」との問題に、中国社会科学院傘下の研究機関が、反論する文章を発表したという。
「新疆ウイグル自治区の女性たちは自ら望んで不妊手術を受けている」
文書は特にカシュガルやホータンなど自治区南部で「宗教的過激派やテロ主義、国家分裂主義」の影響により「計画超過や婚姻に基づかない」出産が多発していたと指摘。
管理や宣伝を強めた結果「民衆は自分に合った長期的避妊措置を自ら選択し」無料の手術を受けていると主張した。 (出所:共同通信)
こうした反論をすること自体、信じ難い。
この人権問題と、自治区内で生産される「新疆綿」との関わりが指摘されている。
私たちはこうした問題に、どのように対処すれば、よいのだろうか。この地区で生産されるコットンを使った衣服を買うことが、加担することになるのではと思うと、やはり気になることだ。
パタゴニアやプーマは、この地区からのコットンの調達を止めたという。
解決が難しい問題が存在する。
人権問題に配慮を ESGやSDGsの鍵に
「日本企業は環境対策に力を入れてきたが、今後は人権への対応も必要になるだろう。コストを負担しつつも、人権をテコにして長期の事業創造につなげることがメーンストリームになる」と話すデロイトトーマツグループの山田太雲スペシャリストリードの言葉を日本経済新聞は紹介する。
資源を巡る紛争や人権問題の解決を後押しする有力な手段として、ESG投資への期待が高まっている。
サプライチェーンから「人類の幸福への侵害行為」に関与する取引先を排除する。ESGによる選別が、こうした選択を企業に促す起爆剤になるとの考え方だ。 (出所:日本経済新聞)
日本経済新聞は、ESG投資が特効薬かのようにいうが、ほんとうにそうなのだろうか。
問題の根本を解決することはできないまでも、拒絶することは問題解決の糸口になるのかもしれない。