JR東日本の終電時間が来年春のダイヤ改正に合わせ、30分程度繰り上がるという。東京駅から100キロ圏内のほぼすべての路線が対象となるようだ。
働き方改革が進み、テレワークが増えれば利用者は減少する。3密を避けようとすれば、利用を最低限にしようとの意識が働くのかもしれない。
日本経済新聞によれば、新型コロナウイルスの流行以来、旅客需要の低迷が続いているという。テレワークの普及で通勤手当を廃止する企業も増え、8月に入っても平日の山手線の終電近くの利用者数は前年同月比で66%減になっているそうだ。
一方で、保守点検にあたる従業員にとっての働き方改革が進むのではとの指摘もあるようだ。勤務体系が不規則な保守点検作業は若者から敬遠されがちで、過去10年で約2割減少していたという。
終電の30分の繰り上げで保守点検時間が増えれば搬出入に時間を要する大型機械を使った作業がしやすくなる。
現場に割り当てる人数を減らせれば、作業員の休日を増やすことも可能になるとJR東はみている。 (出所:日本経済新聞)
コロナ渦で、JR東日本は4-6月期、過去最大の赤字になった。運賃体系を見直し、新たなサービス構築で、環境変化に対応していくという。
終電繰り上げと働き方改革 働きがいのある人間らしい仕事
「働きがいのある人間らしい仕事 ディーセント・ワーク」がSDGsの目標8にあがる。
JR東日本の事例からすれば、当たり前と思っていた便利さを少しばかり犠牲にすることで、働き方改革につながり、労働環境が改善されることで新たな雇用機会も生まれるということなのだろうか。
持続可能な開発目標(SDGs)は、生産性の向上と技術革新により、持続的な経済成長を促進することを狙いとしています。
2030年までにすべての女性と男性の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を達成することを目標としています。 (出所:UNDP 国連開発計画駐日代表事務所)
コロナ渦で、ESG投資の「S」が前面に
コロナ渦が拡がった5月、ロイターは「変わるESG投資、コロナで「E」より「S」が前面に」という記事を出した。
ロイターによれば、このコロナで従業員の幸福を含む「S」(Society、社会)が急浮上してきているいう。
新型コロナ流行からの回復に時間がかかればかかるほど企業には、人員を含むコスト削減圧力が増すが、「コミュニティー」にとって正しいことをしようとする企業のパフォーマンスは比較的良好だとロイターは指摘する。
フェデレイテッド・エルメスが2008年以降のデータを基に調査したところによると、社会的な配慮が劣る企業は一貫して同業他社より月15ベーシスポイントのアンダーパフォームとなっている。
また、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの調査によると、職場格付けサイト「グラスドア」で最もポジティブな従業員の評価を得ている企業の株価は、最近の売り局面でS&P 500指数.SPXを5%ポイントアウトパフォームしていた。 (出所:ロイター)
実際、アマゾンは、新型コロナ関連費用として49億ドルを従業員のために支出すると公表し、その後、株価は驚くほどに急騰した。
「より良いことをする」企業は、投資家にとってさらに魅力的になるのだろうか」。
「向こう5-10年で社会的な意識を強く持っている企業に投資家は魅力を感じると思うかと尋ねられれば、答えは間違いなくイエスだ」、とロイターは指摘する。
コロナの僥倖 増えるSDGs債
ここ最近、企業が発行する「SDGs債」が増えていると日本経済新聞はいう。
2019年のグリーンボンドの発行額が5650億円とSDGs債全体の約半分を占めていたが、今年の1~6月でソーシャルボンド(社会貢献債)が3400億円と全体の6割近くを占めるようになったという。
新型コロナウイルス対策事業の資金確保を目的に発行が増えたため、と指摘する。
米グーグルの親会社である米アルファベットが8月に57.5億ドル(約6000億円)のサステナビリティボンドの発行を決めた。
資金の使い道には、環境プロジェクトや新型コロナ対策と並び、黒人コミュニティーのビジネス支援なども含んでいる。 (出所:日本経済新聞)
企業はSDGs債の発行を通じ「環境対策や社会課題の解決を重視する経営姿勢を投資家にアピールでき、投資家層の多様化も狙える」、と大和総研の太田珠美氏のコメントを日本経済新聞は紹介する。
企業の行動に変容が起き始めているのだろう。
日本経済新聞によると、気候変動対策や貧困・不平等の解消など社会的な課題ごとに異なる名称の債券が発行されるようになったという。
「SDGsはもはや経営の重要な課題になっており、投資家の理解も進んでいる」。
そうであるならば、この先、SDGsが社会に浸透していき、社会の雰囲気も変化していくのであろうか。
子どもの幸福度ランキング
ユニセフが先進国38カ国の「子どもの幸福度」のランキングを公表した。
ユニセフによると、オランダ、デンマーク、ノルウェーが、子どもが住む場所として、最も順位の高い国々という結果が示されたという。
日本は、38カ国中20位という結果だった。
朝日新聞は、「日本の子どもたちは、身体的には健康だが、精神的な幸福度は低い」と表現する。
〇精神的幸福度:37位(生活満足度が高い子どもの割合、自殺率)
〇身体的健康:1位(子どもの死亡率、過体重・肥満の子どもの割合)
〇スキル:27位(読解力・数学分野の学力、社会的スキル) (出所:ユニセフ)
精神的健康
多くの国で、生活に満足していると答えた子どもは5人中4人以下でした。その割合が53%と最も低かったのがトルコで、続いて日本(62%)、英国(64%)でした。
家族からのサポートがより少ない子どもたち、いじめに遭っている子どもたちは、あきらかに、精神的健康がより低い結果になりました。 (出所:ユニセフ)
また、スキルにおいての調査で、ほとんどの国で、少なくとも5人に1人の子どもは、新しい友達を作るという社会的スキルに自信をもっていないという。
チリ、日本、アイスランドの子どもたちが、この分野で最も自信のない子どもたち、という結果だったという。
(資料出所:ユニセフ 「ユニセフ報告書「レポートカード16」発表 先進国の子どもの幸福度をランキング」)
「世界で最も豊かな国々の多くは、すべての子どもたちに良い子ども時代を提供するリソースを持っていながら、それが果たせていません」(ノチェンティ研究所所長)
ユニセフは、子どもの幸福度を改善するために、
「所得格差と貧困を減らすために確固とした行動をとり、すべての子どもが必要な資源にアクセスできるようにする」、
「仕事と家庭のバランスを改善し、特に、質が高く柔軟で安価な乳幼児保育へのアクセスを改善するため、子育て支援策を拡充する」
などの施策実行を求める。
遠回りになるかもしれないが、新型コロナなど感染症の不安を解消し社会の安定を図り、働きがいがある仕事が安定した家庭生活の礎になれば、子どもたちに良い影響を及ぼしていくのかもしれない。
SDGs 社会の再設計 リ・デザイン
「子どもの幸福度」ばかりでなく、様々な世界ランキングで順位を落としきた。
経済ばかり優先してきた弊害ではないのであろうか。
その経済もGDP規模は大きくなったけれども、人々の心理など様々なことの改善には至っていないというのが実態ではなかろうか。
このコロナ渦で、JR東日本は終電時間を繰り上げることで、サービスを低下させることになるのかもしれない。しかし、それによって、人々の帰宅時間が変ったり、また、それが働き方改革につながっていけば、もう少し暮らしやすい持続可能な社会に近づくのかもしれない。
昨日9月3日、コロナ禍からの経済復興と地球温暖化対策の両立を各国で進めるための国際会議がオンライン形式で開催されたという。各国の閣僚級が参加したという。
議長を務めた小泉進次郎環境相は「復興は従来の世界に戻るのではなく、より持続可能な社会経済システムへと再設計することが不可欠だ」と発言したと共同通信が伝える。
政府ばかりでなく、企業や投資家も真にSDGsの達成を目指さなければならないということなのだろう。
「参考文書」