米上院で、1兆9000億ドル(約206兆円)規模の追加経済対策法案が可決、大統領の署名を経て、来週には成立するそうだ。バイデン大統領が公約に掲げた成長戦略の実現に向け、大規模インフラや環境対策への投資などがいよいよ動き出すことになるのだろう。
今では「脱炭素」がすっかり世界の常識になり、「気候変動」がビジネスの俎上に載るようになった。
米国でその動きがさらに加速しそうだ。それで景気が回復し、新たな雇用が生まれれば、それはそれでいいことなのだろう。
それでも、まだ解決されていない社会課題がたくさん残っているのだろう。
森発言に端を発したジェンダー平等問題は解決に向かうのだろうか。ビジネスの俎上に載らないと、そのスピードが上がることはないのかもしれない。
飲料メーカによるペットボトルの水平リサイクルは進展をみせているようだが、それだから言って、海洋ごみが減ったというニュースは聞かない。
ロイターによれば、売れ残り衣料品は世界全体で1400 - 1600億ユーロ(約17兆8000億 - 20兆3000億円)相当になり通常の2倍を超えているという。春物の発注を減らさざるを得ず、サプライチェーンを管理する商社は代金回収ができず、バングラデシュの縫製工場も苦境に立たされていると指摘する。
そのしわ寄せは末端の途上国のワーカーまでに及ぶ。
北米や欧州の小売店などを取引先としているダッカのある工場オーナーは「注文は普通3カ月前に届くが、今年はまだ3月の注文が何もない。工場の稼働率は25%だ。幾つかの注文で2月までは操業できるものの、その後どうなるかは分からない。われわれが生き延びる方法はこうだと言うのは難しい」とため息をつく。 (出所:ロイター)
「本来ならこの時期は少なくとも3月まで工場がフル稼働し、秋/冬物の注文が大量に舞い込んでいるはずなのに」とこぼす関係者の声をロイターが紹介する。
衣料品産業に異変が起きているのだろうか。
ロイターの指摘を裏付けるように、社長交代になった国内アパレル大手のTSIホールディングスは、「今後もコロナ前に比べれば3割程度抑える」という。
「作り過ぎからの脱却だ」と語るのは、そのTSIの下地新社長。WWD Japanが下地社長にインタビューし、その言葉を紹介する。
まずはそれぞれのブランドが売り場のスペースを埋める発想ではなく、商品構成を絞って面白さが煮詰まった状態にする。もしスペースが余ってしまうのであれば、いろいろな企業と協業する場所にすればよい。本だったり食器だったり、あるいはデジタルのサービス拠点だったり、ブランドとのシナジーが見込める異業種はたくさんあるはず。
リアル店舗の商品量を減らす分、ECをはじめとしたデジタル部門を強化して、新しいお客さまとの接点を広げて購買に結びつける。 (出所:WWD Japan)
作り過ぎが減れば、それだけ廃棄処分も減りそうだ。
それに加え、下地社長は「まだ私の構想段階だが、リサイクルセンターを作りたい」と言っているそうだ。
米沢と宮崎の自社工場を活用して、作りっぱなしではなく回収・再生して次世代に服のバトンをつなげる拠点にする。店頭のお客さまから回収した古着、それに当社の旧品を廃棄しないでリサイクルセンターに持っていき、アップサイクルして新しい価値を付加したり、あるいは素材として再利用できるものはそちらに回す。こういったことは当社のような大手が率先すべき。実現できる背景を持っているのだから。 (出所:WWD Japan)
それはそれでいいことなのだろう。
しかし、生産量を減らすことで、影響を受ける人たちは他にいないのだろうか。弱い立場の人たちが影響を受けたりはしていないだろうか。
衣料品産業における「過剰生産」「大量廃棄」もようやくビジネスの俎上に載り始めたのかもしれない。取り組むプレイヤーが増えれば、新たなビジネスが基盤も出来上がるのかもしれない。
ただ社会課題は単独で存在している訳ではない。
「あちらを立てればこちらが立たず」、「両方立てれば身が立たぬ」ということになるのかもしれないが、その矛盾を解決していくことが求められているのかもしれない。
それこそが「サスティナビリティ」であろうし、「SDGs」で求められていることだったりする。
どこまで同時並行に問題を解決に導いていくことができるのだろうか。そこにSDGsに取り組む本来の意義があるような気がする。