GPIF 年金積立金管理運用独立行政法人が、国内株式運用機関が選定した「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」をそれぞれ発表した。
「優れた統合報告書」には、6機関から評価を受けた伊藤忠商事の他、日立製作所、キリンホールディングス、不二製油グループ本社、三井化学、三菱ケミカルホールディングス、花王、オムロン、リコー、丸井グループが選ばれている。
また、「改善度の高い統合報告書」には、日本ペイントホールディングスの他、大東建託、 味の素、みずほフィナンシャルグループなども選出された。
GPIFによれば、「優れた統合報告書」に選ばれた伊藤忠商事は、「CEO メッセージが印象的な統合報告書で、コロナ禍における問題意識、サステナビリティの考え方がよくわかる内容だ」という。
また、グループ企業理念を「三方よし」に改訂したことを指摘し、財務・非財務のあらゆる分野に企業理念を密接に関連付け、独自の切り口で短期・中長期の成長に向けた道筋が明確に示されているという。
早速、その伊藤忠商事の「統合報告書」を確認し、CEOメッセージを読んでみた。
伊藤忠商事のCEOを務めるのは岡藤正広氏。そのメッセージは昨年2020年4月、新入社員を出迎えた話から始まる。
昨年の緊急事態宣言下で、在宅勤務に移行したことに話が移り、宣言解除後、原則全社員を出社に変えたことに触れ、その理由を語る。
「伊藤忠商事は商人である」との信念があったからだという。
危険と隣り合わせで人々に生活必需品を届けるお客様がいる。マスクをつけたままでも笑顔がお客様に伝わるようにと練習する人もいたという。
そうした人がいる中で、伊藤忠商事の社員だけが自宅で仕事することが、商人の「あるべき姿」だとは思えなかったという。
6ページにおよぶ岡藤CEOのメッセージは、ここ最近の業績の好調さを如実に現していると感じる。
「統合報告書」には、非財務情報を開示し、それが将来の財務的価値をどのように生み出すのかを投資家に理解してもらう意味があるという。
繊研新聞社によれば、伊藤忠商事の足元の業績はコロナ禍でも順調で、第3四半期までの純利益は3643億円、通期では4000億円を見込むという。
岡藤CEOは2月19日、大阪で記者会見を開き、こう話したという。
他商社が苦戦する中、断トツの純利益を稼ぎ出すが、「油断せず今の時代に合わせないといけない。今の商売で5年後残る事業がどれだけあるか。ひょっとすると半分はなくなっているかもしれない」と強烈な危機感を示した。 (出所:出所:繊研新聞社)
繊維カンパニー出身の岡藤氏は、「繊維は残さないといけない。そのためには頑張ってくれなあかん」と繊維カンパニーに対してゲキを飛ばしたという。
さらに、「消費関連ビジネスを看板に掲げる限り、食品だけでは駄目で衣、食、住が必要。繊維には宝がたくさんある。それらを磨けば収益性は高まる」と話し、200~300億円の安定した純利益を求めたという。
その伊藤忠商事が、独自ブランドの蓄電池「スマートスター3」を5月から販売を開始しそれに合わせ新しいサービスも始めるという。
日本経済新聞によれば、一般家庭が参加できる「二酸化炭素の排出枠取引」の仕組みを構築するそうだ。
AI人工知能で管理する蓄電池を5月から家庭に販売、太陽光パネルで発電した電気で自家消費した分をCO2の排出削減分とみなし、その分を排出枠が必要な企業に提供するという。
家庭は従来の売電に加え、自家消費した電力をCO2削減分として企業に提供し、見返りにポイントを得られる仕組みを伊藤忠が仲介する。
伊藤忠が家庭に提供するのは独自ポイントである「グリッドシェアポイント」。
米アマゾン・ドット・コムや楽天などが提供するポイントと交換可能だ。さらに今夏にも企業と家庭が直接取引し、その企業が展開しているポイントを得られる仕組みも始める。伊藤忠子会社のファミリーマートが参加を検討している。 (出所:日本経済新聞)
一般家庭が排出枠取引に参加できるとは驚きのサービスだ。まさに「三方よし」というのことなのかもしれない。これこそが、あるべき現代の「商人」の姿なのかもしれない。
気になるニュースがあった。伊藤忠商事ではなく、資生堂に関するものだ。
「資生堂の迷走、在庫余剰の高級化粧品を“叩き売り”…販売店が猛反発、異例のお詫び文」との記事をビジネスジャーナルが出す。
それによれば、コロナ渦でインバウンド需要が蒸発し、その渦中に資生堂が失態を演じたという。自社ECサイト「ワタシプラス」で起きた騒動で、主力ブランドの商品を定価よりも6160円も安く販売したという。
化粧品専門店(リアル店舗)がこれに激しく反発した。
総合スーパーやドラッグストアの安値攻勢に神経を尖らせている状況に、メーカーまでが値引き競争に加速するのであれば、まさに死活問題だ。
「定価で売っている我々がバカをみる」と抗議した。11月30日に値引き販売を停止。魚谷社長が専門店に「お詫び文」を出した。 (出所:ビジネスジャーナル)
「インバウンドバブルの崩壊で、訪日客に人気があった高級化粧品「SHISEIDO」が大量在庫になったため、在庫を減らすために値引き販売したわけだ。目先の利益にとらわれてブランドイメージを自ら傷つけたことになる」とビジネスジャーナルは解説する。
資生堂の「統合報告書」を確認してみた。そのものの発行はなく、財務関連の報告書とサスティナビリティレポートの発行という形態だった。
CEOメッセージを読んでみる。少しばかり意識の差を感じた。
資生堂が始めたサステナブルプロジェクト「SBAS」で少しばかり疑問を感じたことを思い出した。
CEOの差なのだろうか。資生堂には何か社会課題を解決しようとの意識はあるのだろうか。少しばかり心配になった。
「参考文書」