Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

【財閥系商社と気候変動】脱炭素は商社の重石なのか

 

 三井物産が、インドネシア・ジャワ島で運営している「パイトン石炭火力発電所」などの持分株式全てを売却することで合意を得たと発表しました。

www.mitsui.com

 三井物産伊藤忠商事は積極的に脱石炭を進めているといわれます。それに反し、三井と同じ財閥系商社といわれる三菱や住友は動き鈍いといわれます。

 住友商事には、オーストラリアのNGO「マーケット・フォース」が気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。その株主提案は否決されましたが、東洋経済オンラインの報道によりますと、20%の賛同が集まったそうです。

toyokeizai.net

 NGOであろうがなかろうが、株主の声を無視することはできません。今回は可決されませんでしたが、住友商事は3月26日に株主提案を受けた後、「気候変動問題に対する方針の見直し」を5月7日に公表したといいます。

 今回のNGOによる住友商事への株主提案は、商社に対しては始めただといいます。それだけ、商社のアクションが他の業界に比して遅いということなのかもしれません。

 

 

 財閥系商社、資源に強いというイメージがあります。旧財閥が鉱山などを多数保有していたことの影響があったりするのでしょうか。

「人の三井、組織の三菱、結束の住友」といいます。

 三井は高名な経営者を何人も輩出し、日本の経済をリードしました。三菱の創始者は、坂本龍馬の盟友岩崎弥太郎。その弥太郎の強烈な個性の元、組織の三菱が出来上がったのかもしれません。結束の住友、その結束の強さが「脱炭素」の足枷になったりするのでしょうか。

 商社のビジネスモデルはわかりにくく、「日本の商社は、要するにハンズオンの投資ファンドだ」と説明する人もいます。それだけ、取引先との関係性が強いのかもしれせん。

 私が入社した電機会社は住友グループでした。当時の上司には何か困ったことがあったら住友商事に相談しろといわれていました。それだけ結束が強かったのかもしれません。実際、仕事の上で何度も住友商事には助けていただくことになりましたが....

 

 

 

そんな経験からしても、商社が「脱炭素」に強く動き出せば、大きな変化が起こりそうな気がします。商社がスコープ3でのカーボンニュートラルを目指せば、その影響は途轍もなく大きなものになるのではないでしょうか。そのサプライチェーンは膨大であり、物流を含れば、排出量削減に大きく貢献できるはずです。

www3.nhk.or.jp

 遠い過去において、人々を豊かにしてきたのは、資源であり食糧であり物資、そして外貨でした。それらを世界中からかき集めてきたのが商社の役目でありました。

 時は移ろい、人々が必要としているものも大きく変わっています。

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 三菱の第四代社長 岩崎小弥太の頃の経営理念は「国家社会に対する奉仕-国利民福」で、小弥太は次の言葉を遺しています。

我々は国家より斯くの如く生産をいう重大な任務を委託されるのであるから「国家の為にする」ということが事業経営の最終目的であり、この目的のために最善の努力をすることが我々の理想でなくてはならぬ。この重要な任務を遂行することが、我々の職業の第一義である。

正当な利益を得ることも重要な目的ではあるが、それは第二義であり、第二義は何処までも第二義であって、第二義のために、第一義の使命を犠牲にすることは断じて許されない。 (引用:「岩崎弥太郎と三菱四代」河合敦)

 

  戦前の三井物産を仕切っていたのは石田禮助氏。

 商社の仕事は口銭だけではだめ、スペキュレーション(投機)も含め、新しく作り出すものが加わってはじめて大きな稼ぎができる。満州の大豆の場合、取引所を通じて買うのは易しいが、それでは決まった口銭だけだけで終わる。しかも大量に..... (引用:「粗にして野だが卑ではない」城山三郎

石田は「日本の人口問題と食糧問題解決にためには、とにかく外貨がいる」といって奔走していたといいます。そして、「モラルあってのソロバンである。正々堂々働き、正々堂々生きよ」と石田が話す言葉を城山氏は紹介します。

 

  彼らが活躍した時代とは異なった問題を抱えている日本。脱炭素が世界的な命題になり、「脱石炭」が喫緊の課題になっています。逃げてはいけない問題なのでしょう。先人たちの功績に恥じぬよう、商社には振舞って欲しいと願うばかりです。

 

 

 城山三郎著作の「雄気堂々」に、大河ドラマ主人公の渋沢栄一三井物産初代社長 益田孝、三菱の岩崎弥太郎との交流が描かれています(どこまで史実に沿っているかは不明ですが)。

 明治の頃とは時代が違いますが、何か近い雰囲気もあるのではないかと思ったりもします。それまでの社会体制が崩壊し、新たな社会が誕生したのが明治ではなかったでしょうか。それまでの価値の大転換だったのかもしれません。今まだあってものが急速に価値を失うということでは、この時代もまた同じではないでしょうか。

 世界が「気候変動」という大きな課題に立ち向かっているこの時代、商社にとっては大きなビジネスチャンスがあるように思えてなりません。事業ポートフォリオを鋭く変えていくことが求められているのではないでしょうか。