熊本県産のアサリの産地偽装、大変ショックを受けました。聞いて、調べてみて、気になったのは、関係者はなぜこうしたことに手を染めてしまうのだろうか、それともうひとつ、有明海、八代海のアサリはなぜにここで漁獲量が減ってしまったのだろうか、ということでした。
産地偽装の手口
「なぜ産地偽装はここまで横行したのか。過去の過ちを認め、業界の悪習を打ち明ける業者もいる」と朝日新聞が報じています。
アサリの産地偽装 かかわった業者が手口明かす「悪習当たり前と」:朝日新聞デジタル
朝日新聞によれば、福岡県柳川市の水産物卸売会社の社長が、法律の抜け道を悪用した偽装の手口を語ったといいます。
中国産のアサリを仕入れ、生育期間を短くした証明書を出してもらうよう仕入れ先に依頼。架空の輸入業者や蓄養業者を間に挟ませ、国外より国内で育った期間の方が長いよう書類上整えていたという。(出所:朝日新聞)
「こうした産地偽装に絡んだ結果、刑事裁判で罪を問われることになった」といっています。
「情報をオープンにする。当たり前のことだけど、当たり前じゃなかったこと」。
今では蓄養期間を正しく記録し、原産地を明示したアサリの販売に取り組んでいるという。「次の世代も偽装を続けることが一番悲しい。悪習が摘発されるのは、自分で最後にしたい。堂々と中国産が売れるよう、何ができるかを考えていく」と、この水産物卸売会社の社長は話しているそうです。
有明海、八代海の異変
今回の偽装問題の背景に、海の異変があると、西日本新聞はいいます。
アサリ消えた干潟「本当は違法行為なんて…」偽装の背景に海の異変|【西日本新聞me】
最盛期には全国のアサリの4割を占める一大産地だった有明海・八代海に、当時の面影はなく、2020年の漁獲量はわずか21トン。(出所:西日本新聞)
「気候変動の大雨で大量の淡水やヘドロが流れ込み、大型公共工事や事業所が海を汚す。私たちからアサリを奪った責任はないのか」と、漁業関係者が話しているといいます。
偽装横行の背景には、貝の成育環境の悪化も影響していると、西日本新聞は指摘しています。
熊本県内のアサリの漁獲量の最盛期は1977年の6万5732トン。その後、漁獲量は減少し、一時回復の兆しもあったようですが、2008年頃から再び減少し、近年のピークは2011年の1922トン、そして、2020年は21トンまで落ち込んだそうです。
「昔は、いくらでもアサリが取れた。偽装なんて必要なかった」。
産地偽装の現場の一つ、県北部の漁場近くで、作業中の漁協関係者がそう西日本新聞に語ったそうです。
「みんな食うので精いっぱい。地元の人に仕事ができて、金が落ちて回っていくのがそんなに悪いのか」。
県内の組合長は「業界は変わるべき時に、変われなかった」と悔やんでいるそうです。
苦しい状況だったということは理解できますが、あってはならないことだったはずです。
ASC認証 養殖水産物を認証する仕組み
養殖業を持続可能な形で行ないながら、そこに従事する人たちの人権と暮らしに配慮することが求められていると、WWFはいいます。
海を守るマーク(2) 養殖水産物の認証制度ASCについて |WWFジャパン
この問題を解決する手段のひとつが「ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)」の認証制度といいます。
環境に大きな負担をかけず、労働者と地域社会にも配慮した養殖業を「認証」し、「責任ある養殖水産物」であることが一目でわかるよう、ASCラベルを貼付して、マーケットや消費者に届けます。(出所:WWFジャパン)
同じ八代海でマダイの養殖でASC認証を取得した、熊本県天草市の漁協と水産会社があります。
熊本県海水養殖漁業協同組合及び浦田水産株式会社にてマダイ ASC 認証取得(ASCジャパン)
魚種は違えど、近くにこうした先例があるのですから、参考にしてもいいのかもしれません。
根本原因に海の疲弊があり、それが深刻なのであれば、県をはじめ自治体も協力し、豊かな海の回復に努め、その上で透明性のあるあさり漁業を再興させていくべきなのかもしれません。豊かな海を次の世代に引き継ぐためにも。
「参考文書」