12月27日東京都の小池知事が「気候危機行動宣言」を表明し、それと同時に「ゼロエミッション東京戦略」を公表した。その内容をお伝えする。
ゼロエミッション東京戦略の策定 ~気候危機に立ち向かう行動宣言~
東京都は、2019年5月、U20東京メイヤーズ・サミットで、世界の大都市の責務として、平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現することを宣言しました。
このたび、その実現に向けたビジョンと具体的な取組・ロードマップをまとめた「ゼロエミッション東京戦略」を策定しました。
併せて、重点的対策が必要な3つの分野について、より詳細な取組内容等を記した「東京都気候変動適応方針」「プラスチック削減プログラム」「ZEV普及プログラム」を策定しました。
(出所:東京都環境局ホームページ)
(資料出所:東京都環境局ホームページ)
戦略の背景を、
『世界全体がかつてない変革を求められる歴史的転換点「パラダイムシフト」にある今、「脱炭素化」に向けて、国に先駆けた都市や企業の動きが世界中で活発化している』
と説明する。
「脱炭素化」を気候変動対策として位置づけ、パラダイムシフトのトリガーになると示唆する。
(資料出所:東京都環境局ホームページ)
KEY POINT 戦略策定の3つの視点
「資源循環」を気候変動対策としてあげ、また、都外でのCO2削減に貢献するとしている。
・気候変動を食い止める「緩和策」と、既に起こり始めている影響に備える「適応策」を総合的に展開
・資源循環分野を本格的に気候変動対策に位置付け、都外のCO2削減にも貢献
・省エネ・再エネの拡大策に加え、プラスチックなどの資源循環分野や自動車環境対策など、あらゆる分野の取組を強化 (出所:東京都環境局ホームページ)
(資料出所:東京都環境局ホームページ)
エネルギーの脱炭素化が戦略実現には不可欠とし、CO2フリー水素の本格活用も明記された。
ゼロエミッション実現のためには欠かせないエネルギーの脱炭素化
世界有数の大都市である東京はエネルギーの大消費地であり、消費されるエネルギーは、大半が化石燃料に由来するものです。ゼロエミッション東京を実現するためには、使用する全てのエネルギーの脱炭素化が不可欠であることから、再生可能エネルギーの基幹電源化に加え、再エネ由来CO2フリー水素を本格活用し、蓄電や熱エネルギーとしての利用などにより、脱炭素社会の実現の柱にしていきます。
目指すべき2050 年の姿
◆ 使用エネルギーが100 %脱炭素化
再エネを基幹電源とする100% 脱炭素電力での供給
再エネの地産地消とエネルギーシェアリングが標準化◆ 再エネ由来CO2フリー水素を、脱炭素社会実現の柱に
再エネ大量導入を水素で支える
あらゆる分野でCO2フリー水素を本格活用。脱炭素社会を支えるエネルギーの柱に (出所:東京都環境局ホームページ)
戦略の体系
戦略を6分野14政策に体系化し、2050年に目指すべき姿(ゴール)とマイルストーンを明示している。6分野目に「共感と協働」を上げられているところに意味深さを感じる。戦略は都庁の率先行動は必要であるが、単独では実行できない。確実に実現させるためには重要なファクターになるはずだ。
「共感と協働」エンゲージメント&インクルージョン
⑩多様な主体と連携したムーブメントと社会システムの変革
⑪区市町村との連携強化
⑫都庁の率先行動
⑬世界諸都市等との連携強化
(出所:東京都環境局ホームページ)
(資料出所:東京都環境局ホームページ)
14政策のうち、「ゼロエミッションビークルの普及促進」と「プラスチック対策」「適応策の強化」については、個別計画・プログラムが同時に公表された。
「適応策の強化」
「プラスチック対策」
「プラスチック削減プログラム~プラスチックの持続可能な利用に向けて~」というプログラムを公表している。
「2050 年CO2 実質ゼロのプラスチック利用」をゴールに2030年の目標を設定、各施策概要を示す。あるべき姿は見えるが、具体的なアクションプランとしてはまだ不透明な部分も多い。関係する企業への啓蒙、働きかけ、制度化など課題は多々あろう。
■新たなビジネスモデルの構築支援
CO2 実質ゼロのプラスチック利用を実現するには、これまでとは異なる流通・販売の新たなビジネスモデルの構築が必要とし、8月、テラサイクルが運営する「Loop」を、ワンウェイプラスチックの削減などプラスチックの持続可能な利用に向けた先駆的取り組みを実施する事業として選定していた。
プラスチック削減プログラム ~プラスチックの持続可能な利用に向けて~
ゼロエミッションビークルの普及促進
「自動車からのCO2排出実質ゼロを目指すZEV普及プログラム」というプログラムを公表している。「2050年都内を走る自動車は全てZEV化」という野心的なゴールを掲げ、2030年の目標を設定する。
運輸部門のゼロエミッション化には、自動車によらず、自転車の利用や徒歩などCO₂を排出しない行動への移行や、公共交通機関の利用割合を高めることが重要です。加えて、利用する車そのものをWell-to-Wheelの視点からも脱炭素化することが必要であり、その鍵を握るのが、世界で急速に普及が進むゼロエミッションビークル、ZEVへの転換です。(出所:東京都環境局ホームページ)
ZEVの普及を通じてMaaS等を後押しすることで、移動弱者ゼロ化、渋滞等の都市問題の解決にも貢献しますと記された。
■ レンタカー・カーシェアリングへのZEV導入促進
「レンタカーやカーシェアリング事業において、都民が手頃な料金でZEVを利用できるよう、事業者と共同事業を実施し、ZEVの利用機会の創出を図る」として、EV、FCV車などのシェアリング支援を行っている。トヨタのミライ、テスラのModel 3などがレンタルできる。
所感
東京都が「気候危機行動宣言」に加え、「ゼロエミッション東京戦略」を示したことは価値があろう。6分野14政策に体系化された戦略には、2050年に目指すべき姿(ゴール)とマイルストーンを明示される。
緊急性が高い、「ゼロエミッションビークルの普及促進」と「プラスチック対策」「適応策の強化」の3つは重点対策が必要として、個別計画・プログラムが同時に公表され、すでに動き出している施策もある。
示された戦略の6分野目には「共感と協働」を上げる。「ZEVの普及促進」や「プラスチック対策」は国全体としても喫緊の課題でもある。戦略で示される「多様な主体と連携したムーブメントと社会システムの変革」を、東京都の区市町村ばかりでなく、他の地方都市とも連携したアクションにすれば、課題解決への近道になろう。
今回の東京都の「気候危機行動宣言」で、都民ばかりでなく日本全体で環境意識に変化が起き、この戦略が指針となり、グリーンイノベーション、パラダイムシフトにつながっていくことに期待したい。
「関連文書」