今年2月、石油メジャーの英BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)が、「カーボンニュートラル」を目指すと宣言したとき、非常に驚いた。
ついに石油時代が終焉に向かい始めたと思った。
石油メジャー BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)
石油メジャー、資本力と政治力で、石油の探鉱(採掘)・生産・輸送・精製・販売までの全段階を垂直統合で行い、シェアの大部分を寡占する石油系巨大企業複合体のことをいう(参考:Wikipedia)。
BPはなぜ「脱石油」へ
BPは9月に発表する予定の事業戦略の一部を公表し、「脱石油」の方針を鮮明にしたとロイターが伝える。
BPによれば、世界の気温の上昇が1.5度に制限されれば、向こう30年間で化石燃料に対する需要は75%減少する見通し。
BPは石油とガスの生産を2030年までに1日当たり少なくとも100万バレル削減するが、これは2019年の水準で40%の減少となる。 (出所:CNN)
石油メジャーから総合エネルギー企業へ
低炭素エネルギー向け投資を年間約50億ドルに増加
再生可能エネルギーを20倍能力増強へ 2.5GW⇒50GW
バイオ燃料の生産能力増強 22,000バレル⇒100,000バレル以上/日
大都市とのエネルギーパートナーシップの構築
EV電気自動車の充電スタンドを現在の7500カ所から7万カ所へ
石油とガスの生産量を40%以上削減し、新しい国では探査を行わない
ロイターによれば、BPの第2四半期の決算が、67億ドルの最終赤字になり、10年ぶりの減配になるという。
最終赤字は、巨額の減損処理が原因。
石油・ガス価格予想の引き下げに伴い探査資産の評価を65億ドル引き下げるなど、総額174億ドルの減損処理をした。 (出所:ロイター)
業績を悪化させてまで、BPを突き動かすモチベーションは一体何であろうか。
「石油会社のトップが長期的な生産量の縮小を公言するとともに配当を半分に減らしておきながら、留任するなど普通だったらありえない」
と日本経済新聞が伝える。
時代は変わりつつある
BPの株主はエネルギー事業を多角化して炭素排出量ゼロを目指すコングロマリット(複合企業)でなく、化石燃料で現金を稼ぎ出す企業に投資しているつもりだった。
時代は変わりつつある。
(CEO)ルーニー氏にとっての課題は、自らの大胆な計画を実行に移すことだ。
石油大手には、地球を救うという約束を踏みにじってきた長い歴史がある。 (出所:日本経済新聞)
「低炭素関連投資の収益性を巡る疑問はどうしても出てくるだろうが、BPは低炭素社会に向けた事業転換で業界の先頭を走っている」
とのアナリストのコメントをロイターは伝える。
国内「脱石炭」 悪あがきする企業も
国内では、「脱石炭」に動き出したように見えるが、悪あがきする抵抗勢力があるようだ。
日本経済新聞が、Jパワーの2020年4~6月期の決算会見で語った菅野等取締役の言葉を紹介する。
日本経済新聞によると、国による非効率な石炭火力の廃止方針に対し、「地点ごとに事情があることを(国に)説明していく」と述べたそうだ。
「株価も下落しており、その面では非常にネガティブだ」とも話したという。
嘆き節に聞こえてしまう。流れに乗り遅れると、その差はますます広がるだけだろう。戦略を変えようとのモチベーションがおきないのだろうか。
Jパワーは非効率な石炭火力を、発電容量で計351万キロワットを保有しており、全発電容量の2割強を占める。減価償却が終わった石炭火力の廃止に伴い収益の悪化が懸念される。
バイオマス燃料の活用や、最先端の石炭火力への建て替えなど、CO2排出量の削減に向けた技術開発を継続する姿勢も、改めて強調した。 (出所:日本経済新聞)
BPのように大胆な戦略転換を打ち出す企業がある一方で、変われない企業もある。
いつまでも自社の利益のことしか考えることができないのだろうか。
ゼロエミッション東京の推進
東京都は、CO2を排出しない「ゼロエミッション東京」の実現に向け、再生可能エネルギーの導入拡大を図るため、民間事業者による地産地消型の再生可能エネルギーの導入事業などを推進すると発表した。
再エネ発電や熱利用設備の導入に対する事業者に対して助成するという。固定価格買取制度の設備認定を受けない設備であることが条件のようだ。
スマートレジリエンスネットワーク
こうした動きに乗じるように、より鮮明に行動を変える企業もあるようだ。
東京電力パワーグリッドは、「スマートレジリエンスネットワーク」を設立したと発表した。関西電力送配電と共同で推進していくという。
この新しく設立された協議会では、地域の分散型エネルギーリソースDERの利用拡大、DERを活用した地域レジリエンス強化、DERの事業機会創出について、検討していくという。
背景には、昨年2019年の台風15号で、千葉の送電網が甚大な被害を受け、長期間にわたって大規模停電が発生したことがあるようだ。
(資料出所:東京電力パワーグリッド公式サイト プレスリリース)
協議会の代表幹事に就いた東京電力パワーグリッドの岡本副社長は、「気候変動を緩和するための脱炭素化と自然災害に対するレジリエンス向上は、わが国にとって待ったなしの課題となっている」という。
「CO2を排出しない再生可能エネルギー、蓄電池、電気自動車など分散型リソースを地域社会に普及、有効に活用できれば、社会の脱炭素化とレジリエンス向上を同時に図っていくことができる」と指摘する。
送電事業を担う事業会社は、甚大な被害をもたらした自然災害から何かを学んだということなのだろうか。
「脱炭素」その流れに乗る
社会には抗うことのできない流れが突如出現したりする。
「脱炭素」や「脱石炭」もそうした強い流れになったのかもしれない。
抵抗したところで、いつしかその流れに飲み込まれてしまう。飲み込まれ溺れる前に、その流れに乗ってしまうことだ。流れにのれば、必ず目的地に到達できるようになるものだ。
BPはあくまで「脱石油」を貫くようだ。
「BPの資産売却戦略は、同社がいったん石油・ガス資産を売却したら、今までのような石油メジャーに後戻りすることはないことを示している」とロイターは伝える。
「参考文書」