Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

東京都は「ものづくり」プロジェクト、国はデジタル化、ソフトバンクは問題だらけ

 

 ここ最近「三方よし」とか「ステークホルダー資本主義」との言葉を聞くようになった。

 その背景に、行き過ぎた「株主第一主義」とか「利益至上主義」があるのだろう。 昨年、米ビジネスラウンドテーブルが「株主第一主義」を捨てたからといって、そうは急にすべての産業界が今までの習慣を簡単に手放すことは難しいかもしれない。

 まだまだ「利益至上主義」が色濃く残ると思えることがたくさんあるように思う。

 

 ドイツのフィンテック関連会社ワイヤカードが約2300億円もの現金が不明になるとの問題を起こし、その責任を取ってCEOが辞任するという。

 日本経済新聞によれば、このワイヤカードは19年4月にソフトバンクグループ(SBG)の関連会社との提携を発表していたという。

ワイヤーカードをめぐっては、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が19年1月に不正会計問題を報じて以来、株価が乱高下している。ワイヤーカードはこれまで不正を強く否定していた。

ワイヤーカードによると、発行済み株式の約5.6%分に相当する普通株に転換できる新株予約権社債転換社債=CB)をSBGの子会社が約9億ユーロで引き受けることなどで合意した。 (出所:日本経済新聞

 

www.nikkei.com

 

  2001年に起きた「エンロン事件」のことを思い出す。

 米国のエネルギー会社 エンロン粉飾決算で破綻したこの事件で、多くのステークホルダーが多額の損失を被り、事件に関与していた大手監査法人アーサー・アンダーセンも解散に追い込まれた。

 この事件を機に、「CSR」が一気に定着したと言われている。

 エンロン事件:米国の総合エネルギー会社エンロンが起こした不正会計事件。

デリバティブなどの金融技術とITを駆使した革新的なビジネスモデルを確立し、一時は優良企業とみなされていたが、2001年に特定目的会社(SPC)を利用した巨額の粉飾決算が発覚し倒産。

この事件を契機にコーポレートガバナンスが重視されるようになり、2002年、企業の不祥事に対する厳しい罰則を盛り込んだ企業改革法SOX法)が導入された。 (出所:コトバンク デジタル大辞泉

 

 

 

 エネルギー会社であったエンロンが、当時のドットコムバブルに乗じて多角化経営に乗り出しことが事件の背景にあったのかもしれない。

 思い起こしてみれば、20年以上も前のドットコムバブル当時から、キャッシュレス社会やペーパーレス、買い物や銀行、学校に行く必要がなくなって、すべてが自宅できるようになると言われていた。

 

 しかし、20年後の今になってもまだ完全に普及したわけでもなく、このコロナでようやく社会実装が進みはじめたとも思える。

 

 その当時に書かれた「巨象も踊る」という本がある。IBMの元CEOのルイスガースナーが書いたものだが、その中で、こうしたテクノロジーが普及しない理由に、

「情報技術業界」が顧客に対して驚くほど超然とした態度をとっている。

と指摘していた。

 IBMを退社したガースナーは、あくまでも個人的な見解だといいながら、テクノロジーで解決できることは理にかなっていることだ、実現できれば素晴らしいことだという。

しかし、情報技術業界が、人間の行動、人間の好み、人間の見方を無視し、人間の生活と組織の動きのうち、情報技術とは無縁な部分から生まれる要求を無視していると指摘していた。

 

「この産業の人たちはなぜかこう思っている」。

「どの顧客も毎日朝目が覚めると、「もっと素晴らしい技術が欲しい。コンピュータ(今でいえばインターネットを含めて)に何ができるのか、今日一日学べるのが待ち遠しい」と考えるものだと」。(出所:巨象は踊る)

 

きわめて優秀な科学技術者の全員が1年間、顧客の立場で生活し、顧客がコンピュータ技術を違った観点から見ていることを理解してほしいと願っている。

 そうすれば、情報技術を生活や仕事に組み込むのがきわめて難しいと感じていることを実感できるだろう。

誇大妄想のような話を聞かされ、実際に成果をあげるのが遥かに難しいと感じていることを理解するだろう。

 経営幹部や社員や消費者が重要な決定を下すときに、技術は結局のところ無関係か、障害になっていることが多い点にも気づくだろう。

(出所:巨象は踊る P339 情報技術産業)

  

巨象も踊る

巨象も踊る

 

 

 ガースナーの20年前の指摘が活かされていれば、ソフトバンクGの巨額の損失も防げたのかもしれない。

 

forbesjapan.com

 

 情報技術、データ活用、AIなどテクノロジーで、確かに、より便利になり、選択肢も増えたのかもしれない。しかし、思った以上に社会実装は進んでいない。

 利用できているのが、特定の人だけであれば、当然、社会課題の解決には至らない。

 

 国が進めるSDGs政策のひとつに「Society5.0」がある。

 その中で、キャッシュレス社会は重要な施策のひとつになっている。 

「コロナを機にして、キャッシュレス決済の利用者が急増しているというが、振込手数料の高さが普及の大きな障害となっている」。

 

jp.reuters.com

 

国の政策となれば、そこでは「お金」が動く。

 キャッシュレスの事例からすれば、テクノロジーが社会課題解決のためではなく、その「お金」を目当てにしているように見える。

 

 テクノロジー企業も生きていかねばならないし、経済的に稼げなければ、従業員に給与すら払えない。

 そのためには尖った成長戦略も必要になる。

「より便利に」「生活を豊かにする選択肢」というビジョンや大義名分が、そのためだけなら少しばかり残念な思いもする。

 

 

 

 

 東京都は、「ものづくりベンチャー育成事業 Tokyo Startup BEAMプロジェクト」を始めるという。

AIやIoT、5Gといった技術革新の流れに沿って、ソフトウェア偏重の傾向が見られるが、Tokyo Startup BEAMプロジェクトはものづくり(=ハードウェア)に力を入れるという。

なぜなら、新たな技術を活かし都市の課題解決に取り組むためには、ソフトウェアとハードウェアの両面からアプローチする必要がある、という都の確固とした考えがあるからだ。 (出所:Tokyo Startup BEAM)

 

startup-beam.tokyo

 

 確かに、技術革新はソフトウェアによるところが大きくなったのかもしれない。

 かつては、ハードウェアとのインターフェイスであったソフトウェアがハードウェアを凌駕し席巻するようになったといことだろう。 

 

 このコロナでのマスク騒動を経験して、改めて「ものづくり」の大切に気づいた。それに加え、社会課題解決やサステナビリティエシカルとの親和性が高いという教訓を与えてくれていると感じる。

 

 6月10日、オンラインで開催されたOECD会合に西村経財相が出席し、デジタル化の推進で「日本経済の持続的かつ包摂的な回復を目指す」と表明したという。

テレワークの拡大などコロナ危機の経験を踏まえ、「事業活動から人々の働き方、教育、医療にまで幅広くデジタル化を展開する」と強調。そのために「財政・金融・規制改革を総動員する」とした。(出所:日本経済新聞

 

www.nikkei.com

 

 NHKによれば、西村大臣は、このことを「デジタル・ニューディール」と表現したという。

 ソフトバンクGのニュースを読んで、少しばかり不安をおぼえた。

 

 

「関連文書」 

dsupplying.hatenablog.com

 

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